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ソニー「コンコード」2週間で終了、開発費100億円超か…歴史的失敗の原因

文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター
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「PlayStation.Blog」より

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は8月23日に新作ゲームタイトル「CONCORD(コンコード)」をリリース。その2週間後の9月6日にサービスが終了となり、驚きが広まっている。同タイトルはSIEが昨年4月に買収した米ゲームスタジオ・Firewalk Studiosが手がけたもので、開発期間は8年におよび、総開発費用は100億円以上に上るという見方も出ている。同タイトルはリリース直後からユーザ数の少なさが一部で取り沙汰されていたが、なぜSIEにとっては歴史的失敗ともいえる短期間でのサービス終了となったのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 CONCORDはオンライン対戦型FPS・TPSで「ヒーローシューターゲーム」といわれるジャンルに位置する。銀河の荒くれ者「フリーガンナー」の16キャラクターのなかから仲間を集めてチームを編成し、敵と戦っていくという対戦型シューティングゲーム。7月19日~22日にはオープンベータが公開され無料でプレイできる期間が設けられたが、そのときからゲーム配信プラットフォーム「Steam」上でのプレイヤー数(同時接続数)の少なさがが指摘されていた。8月23日にはPlayStation 5とSteam向けに発売されたが(日本での販売価格:4480円)、同時接続数は数百程度と低迷。9月4日にはSIEから同月6日にサービスを中止すると発表された。購入者には全額返金される。

 大手のSIEと米有力スタジオのFirewalk Studiosがタッグを組んだタイトルがリリースからわずか2週間で中止となったことに衝撃が走っているが、その要因として、対戦型シューティングゲームには強力な人気タイトルが多数ひしめき合っている点が指摘されている。一例だけでも「オーバーウォッチ 2」「VALORANT」「Call of Duty: Warzone」「Apex Legends(エーペックスレジェンズ)」「Fortnite(フォートナイト)」などがあげられ、基本プレイが無料のものもあるなか、有料で4480円という強気の価格設定が受け入れられなかったという見方もある。

 このほか、計16のフリーガンナーのキャラクターのデザインが個性的すぎて万人に受け入れられなかったのではないかという見方もある。

 もっとも、ゲームのクオリティが低いというわけではなさそうだ。たとえばFPS専門サイト「EAA!!」の8月26日付記事は次のように解説している。

<範囲にピンを立ててミニマップに反映させる機能や、プレイヤーとオブジェクトの輪郭線の太さを調整する機能。インターフェースのカスタマイズ要素など、さまざまなプレイヤーの要望に応じた設定ができる。プラットフォーム間でフレンドとのクロスプレイももちろん可能。若干スローペースな試合展開ではあるが、これは万人向けとも言える。決して「製品としてのクオリティが低くてプレイしにくい」わけではないだろう>

<リアルなグラフィックや整理されたUI、フォントや日本語吹き替えもクオリティが高い。初日から6種ものゲームモードや12種ものマップ、16名もの様々なスキルを備えたキャラクターでボリュームたっぷり。さらにはFPSゲームではこれまでにない「マップに残り続ける任意のオブジェクト」などの新規性も見られる>

ヒーローシューターゲームというジャンル

 ゲーム開発会社社員はいう。

「Firewalk Studiosが8年もかけて開発したAAAタイトル(大規模タイトル)なので、開発費は少なくても1億ドル(約140億円)はかかっていると思いますし、クオリティが低いということはないでしょう。やはり同じジャンルに無料でもプレイできて熱心なプレイヤーがついている人気タイトルが多数あるなか、新規タイトルで4000円以上もかかるという点が失敗の大きな原因でしょう。CONCORDというタイトル名が知れ渡らず、存在すら知らないという人が多ければ、当然ながら売れません。もっとも、Firewalk Studiosは『より効果的にプレイヤーにリーチできる選択肢を検討する』という声明を出しており、これだけ巨費を投じてつくったものでもあるので、このまま完全に終わりというわけではなく、なんらかのかたちで再リリースされるとは思います」

 ゲームプロデューサーの岩崎啓眞氏はいう。

「一言でいってしまうと『人気が出なかったために終了となった』ということに尽きますが、では、なぜ人気が出なかったのかといえば、ヒーローシューターゲームのジャンルには『オーバーウォッチ 2』と『VALORANT』という2大人気コンテンツがあり、しかも2つとも基本プレイは無料のため、無名の新規タイトルに4000円も出す人がいなかったということです。

 加えて、ヒーローシューターゲームとしては多数のタイトルが存在し、すでにあらゆるキャラクターのパターンが使われており、そのなかで新規タイトルは魅力のあるキャラクターをつくっていかなければならないという難しい課題をクリアする必要があるわけですが、CONCORDは既存のものとは違った“今までにないキャラクター”づくりを狙った結果、微妙なキャラクターばかりになってしまった面も影響しているかもしれません」

厳しい競争状況に置かれているゲーム業界

 SIEほどの大手であれば、新規タイトルのリリースにあたっては十分なマーケティング・調査などを行い、一定程度売れるという見込みが立ったうえでリリースに踏み切るものではないのか。

「まず前提としてCONCORDはSIEが買収する前からFirewalk Studiosが開発を進めていたものですが、あくまで推察ですが、リリース前のテストの段階で社内外からの評価を受けて、SIE自身も『おそらく売れないだろう』と考えていたと見受けられます。それは、ほとんど宣伝らしい宣伝を行っていないことからもうかがえます。すでに長い期間とコストをかけてしまったのでリリースしないわけにもいかず、またヒーローシューターゲームは当たると大きいので、とりあえず出してみようという判断だったのではないでしょうか」(岩崎氏)

 今回のケースは、非常に厳しい競争状況に置かれているゲーム業界の一面を映しているという。

「現在、AAAタイトルの開発体制は少なくても100人以上になるのが一般的です。開発従事者一人当たりのコストを月100万円だと仮定すると、開発者の人数が100人だと1年で12億円、8年だと96億円。そう考えるとCONCORDの開発費は100億円はかかっているでしょう。これだけ大規模なタイトルがリリースから2週間でサービス終了となるケースは多くはありませんが、たとえばスマートフォン向けゲームでそうしたケースは珍しくなく、スマホ向けタイトルでも開発費が20~30億円に上ることはザラにあります。今のゲームタイトルはどれもクオリティが非常に高いものばかりなので、クオリティが高いだけでは話題にならず、長い時間と多額のコストをかけて開発しても、それなりに売れて利益が出るというケースはほんの一握りです」(岩崎氏)

(文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター)

岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター

岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター

「天外魔境Ⅱ 卍MARU」「エメラルドドラゴン」「リンダキューブ」など、まずまずの名作ゲームを手がけてきたゲームプロデューサー。1994年からは「電撃PCエンジン」、「電撃PlayStation」、「電撃王」といった人気ゲーム雑誌でライターを務めてきた。
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Twitter:@snapwith

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