『ドラゴンボールZ KAKAROT』 『戦場のフーガ』シリーズといった人気家庭用ゲームソフトの開発を手掛け、福岡と東京、2024年春には大阪に新しい拠点を構え、成長を続けるサイバーコネクトツー。今年で創業28年目となる老舗だ。同社の副社長を務める宮崎太一郎氏は、8月下旬に開催されたゲーム開発者向けイベント「CEDEC2023」に発表者として登壇。その内容が同業者の間で話題を呼んでいる。
同社のみならずゲーム業界が構造的に抱える、開発者育成における課題とその対処法について、同社の担当責任者である宮崎氏に改めて語ってもらった。
ゲームの高クオリティ化が脱「職人のたたき上げ」を迫った
同社は近年、ゲーム開発者の育成プロセスを大幅に改革したという。問題の所在について宮崎氏はこう語る。
「一言でいうと、新入社員の教育や育成をまともにやっていなかったということに尽きます。ゲームクリエイターという職種には職人気質がありまして、最近まで現場での経験至上主義が生きていました。昔ながらの『背中を見て覚えろ』式のOJTで、新人教育に代えていたわけです。ところが、それでは新人育成が追い付かなくなってきた。であれば、育つのを待つのではなく育てるプロセスをしっかり作り上げなければいけない、と考えたのです」
同社の創業時は、1つの商品を10人の社員で1年かけて仕上げるペースで稼働していた。それが今や、複数プロジェクトが並行して動いてはいるものの、のべ100人から200の社員が携わり、ゲーム1本につき3~5年かけて作ることもあるという。ゲーム機が世代交代するごとにその性能は劇的に進化し、むしろ実写では実現できないほどのリッチな映像表現が可能となった。いきおい、求められるクオリティも上昇一途で、ゲーム制作にかかる作業量も天井知らずで増加し続けているのだ。
「ベテランの開発者はハードの進化に立ち合い、段階的にスキルを身に着けていくことができました。一方、たとえば今年入社したスタッフは、いきなりソニー・インタラクティブエンタテインメント 『PlayStation 5』レベルの作業量やクオリティを求められてしまうわけです。それをOJTでたたき上げていこうにも、新人にしてみれば到達すべき地点があまりに遠すぎてわけが分からず、いらぬ挫折を経験させることにもなっていました」
その対応策として、同社は宮崎氏の旗振りのもと「新人育成プロセスの策定」と、その土台となる「開発と成長を両立するための制度改革」を進めていく。新人に対してはスキルの到達目標を明確化し、OJT以前の重点研修期間を設けて最低限身に着けるべきルールやスキルを教育した。指導者には育成マニュアルに沿って指導してもらうことで、教育内容のばらつきを防止した。
新人育成をゲーム開発「人月モデル」の犠牲にさせないために
土台となる「開発と成長を両立するための制度改革」について、宮崎氏は「ゲーム会社のビジネスモデルから必然的に生じる問題への対処」だと断言する。どういうことか。
「当社のようなゲームデベロッパー(開発企業)は、パブリッシャー(発売元)に企画を通して、開発費を出資してもらって開発を行います。具体的な商品でいえば『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』という企画を、発売元であるアニプレックスに通して開発・納品まで進め、売れ行き好調となれば歩合でロイヤリティが発生するという形です。開発費は、開発者1人が1カ月稼働した時(1人月)のコストを元に、開発者の人数と開発期間を積算して支払われます。
ここで問題となるのが、現場で新人がOJTをしていた場合、その分が人月換算されコストに計上されると、それ以外のスタッフがそれを補うために、慢性的な高稼働に陥ってしまうということです。新人を『働きが悪い者』と言うのはもちろん不合理ですが、とはいえ埋め合わせていかざるを得ない負担となっていたのは現実です」
新人育成は当然おろそかにはできないが、現場にとっては「負担」とならざるを得ない。現場は育成より開発優先となり、新人に対して、できる作業をとにかくやらせて少しでもマイナス分を減らす方向で稼働させることが避けられなかったのだ。
「これは良くない、という問題意識を経営・開発の上層部で共有し、新人だけでなくベテラン社員も含めて、成長を促進する体制へと舵を切りました。まず、新卒から1年は戦力にカウントせず、新人を現場の負担にならないようにしました。先述の重点研修、マニュアル化と併せて、新人を最速で戦力化する体制を経営と現場が協力して整えたのです。
そしてもう1点、開発者のキャリアについては所属するディビジョン(部門)が責任を持つことにしました。プロジェクト(開発案件)ありきでスタッフの稼働を決めるのではなく、あくまでディビジョンのリーダーと本人が成長経路を共有し、それに基づいてプロジェクトへの参加を決定します。泥縄式に仕事を割り振るのをやめて、キャリアビジョンと目の前の仕事を結び付けたということです」
ゲーム業界の構造的な問題を打破するべく同業がスクラムを組んだ
新人の育成が遅れていた背景には、先述のゲームの高クオリティ化に伴う作業量の増大がある。開発者に求められるレベルが上がりすぎて、新卒者を即戦力として活用することが不可能になってしまったのだ。この流れに対して、会社レベルでは対応する体制を整えたものの、教育機関を含めた業界単位での対応も必須だと宮崎氏は訴える。
「ゲーム業界を志望する学生は多いのですが、求められる能力を備えた学生は多くはありません。さらに、ゲームの高クオリティ化に専門学校の教育水準が追い付いていない面もあります。できる人だけを伸ばす教育をするわけにはいかず、平均的な卒業生のレベルでは我々が求める水準には足りません。そこで、教育機関との連携を強めるために、福岡・九州にあるゲーム会社が中心となり構成する任意団体『GFF』で新たに学校を支援する取り組みを立ち上げました。GFFが専門学校をサポートして、学生と学校の教員の双方に働きかけていきます」
学生に対してはゲーム会社の実像やビジョンを伝え、学校の教員に対しては必要な技術とその教え方を伝達していく取り組みだ。専門学校にGFFに加盟してもらい、産学一体化を強めて人材難を打破しようと宮崎氏は考えている。
「さらに、専門学校を飛び越えて中高生に対しても情報発信を強めたいと考えています。11月25日に開催するCEDEC+KYUSHU2023というゲームカンファレンスで中高生無料にします!無料で業界イベントに参加してもらい、開発者になるために中高生からできる手段を知るきっかけにしたいのです。ゲーム業界に通じる道がわかれば、パッションを持った若者は必ず増えていくはずです」
ゆくゆくは、GFFの取り組みがゲーム業界全体をリードし、モチベートするようになっていくだろう。人材難はゲーム業界のみならず、日本の今後を左右する重要課題であるだけに、サイバーコネクトツーとGFFの動きは多くのビジネスパーソンのヒントとなるはずだ。
(文=日野秀規/フリーライター)