「ウマ娘 プリティーダービー」や「グランブルーファンタジー」などの人気ゲームタイトルを有するサイバーエージェント(CA社)のゲーム事業が、直近の2023年9月期第3四半期(4~6月)で営業利益が1億円の赤字になったことに驚きが広がっている。前年同期は98億円の黒字、前期(1~3月)は152億円の黒字となっており、大幅な収益悪化といえる。「ウマ娘」の人気失速が原因ではないかという指摘もみられるが、CA社のゲーム事業で何が起きているのか――。
21年2月にリリースされた「ウマ娘」は、リリース後わずか2カ月で週間アクティブユーザー数が200万人を超えるヒットタイトルに成長。2022年1~11月のアクティブユーザー数は337万人であり、国内のモバイルゲームとしては4位となっている(ゲームビジネスに特化したマーケティングリサーチ&コンサルティングファーム・ゲームエイジ総研の調査レポートより)。また、今年4月14日付け「ファミ通App」記事によれば、 今年3月時点の同タイトルの世界累計収益は20億ドル(約2809億円)に上るといい、まさにモンスター級のヒット作といえる。
それだけに「ウマ娘」がCA社のゲーム事業(事業会社はCygames<サイゲームス>)の業績に与える影響は大きい。「ウマ娘」リリース前まで同事業の四半期ベースの営業利益は概ね数十億円で推移していたが、リリース直後の21年9月期第3四半期(4~6月)は442億円を記録。以降、黒字が続いていた。
そんなゲーム事業が突然赤字に陥った原因の一つとして挙げられているのが、「ウマ娘」の利用者減だ。利用者数は公表されていないため実態はわからないが、「ウマ娘」では昨年末から年末年始イベント、2回にわたる2周年記念キャンペーンなどが目白押しで、ログインボーナスキャンペーン、1日1回10連ガチャ無料キャンペーン、ジュエル3000個プレゼントなど大盤振る舞いの施策を実施。「お祭り」が終わりボーナス感が薄れたことで離脱するユーザーが生じたのではないかという見方も出ている。
一方、「単に製作費などのコスト発生が同時期に重なっただけ。将来への投資をしている証し」(ゲーム業界関係者)との指摘もある。実際、今年は「ウマ娘」のテレビアニメ版のSeason 3が放送されることが決まっており、「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」と「呪術廻戦 ファントムパレード」の提供も控えている。さらに24年には「ウマ娘 プリティーダービー」「ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!」のNintendo Switch版、PlayStation 4版、Steam版も発売予定で、タイトル名はまだ非公開ながら25年度には2本の新タイトルが提供開始となる。これだけの製作・リリース案件が重なれば多額のコストが発生することは避けられない。
サイゲームス、リリースが目白押し
CA社は今回の赤字の要因について「ゲーム事業は前期でゲームの周年イベントが重なって好成績となったが、その反動が大きく減収減益になった」「収益性の高いタイトルの減収により大幅減益」と説明しているが、ゲームプロデューサーでゲームライターの岩崎啓眞氏はいう。
「大雑把な話でいえば、今回の四半期のゲーム事業は売上が337億円で利益が1億円の赤字なので、事業全体で発生した制作コストは338億円。前年同期は売上は462億円で利益が98億円なので、制作コストは364億円。つまり事業全体でかかっているコストは変わらない一方、『ウマ娘』をはじめとする複数のゲームの売上が、前四半期にあったイベントなどの反動でがくっと落ちたため、赤字になったと考えられる」
では「ウマ娘」の失速は本当に起きているのだろうか。
「ゲーム事業の収益悪化の主な原因は、『ウマ娘』のピークアウトだろう。『ウマ娘』は登場キャラクターのモデリングやシナリオなどに高いコストがかかっており、セリフも大量に録音され、世間の想像以上に高コスト体質で、制作側にとっては『たくさんお金を使って、たくさん稼ぐ』タイプのゲーム。とてもクオリティが高くて素晴らしいゲームであることは論を待たないが、いくら規格外のヒットとなったタイトルといえどもリリースから2年がたち徐々にユーザーが減るのは当然であり、さらに2月の大規模な2周年イベントで多くのヘビーユーザーがお金を使った反動もあり、4~6月は売上が落ちたとみられる。もっとも、CAは『ウマ娘』を10年IPに育てると宣言し、2.5D化をはじめしっかりと将来に向けた『地固め』を行っているので、息の長いコンテンツとなると期待されている」
(文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター)