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原神、崩壊…記録的ヒット連発の中国miHoYoに日本ゲーム企業が敵わない理由

取材・文=文月/A4studio、協力=高口康太/ジャーナリスト
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ゲーム『崩壊:スターレイル』の公式Twitterアカウントより

 スマートフォン用ゲームソフト市場における中国のゲームメーカー・miHoYo(ミホヨ)の躍進が凄まじい。同社が2020年にサービス開始したオープンワールドRPG『原神』は、美麗なグラフィックと没入感の高い広大な世界、魅力的なキャラクターとゲーム性が話題を呼び、リリース当初からヒットを記録。米調査会社センサータワーによれば、「原神」モバイル版の総売上高は40億ドル、日本円にして約5200億円にもおよぶという。

 また、4月26日にリリースした新作『崩壊:スターレイル』の人気も飛ぶ鳥を落とす勢いだ。ターン制RPGで果てしない銀河を冒険するという同作は、事前登録者数だけで1000万人を超えるほどで、リリースから2日後には全世界で2000万ダウンロード突破という、驚異的なスタートを切っている。

 ヒット作を続々とリリースするmiHoYoは、かつても『崩壊学園』『崩壊3rd』といった多くの人気ゲームを世に送り出してきた。その勢いはとどまるところを知らず、いまだにユーザーの心を掴み続けているといえよう。では、なぜmiHoYoはヒット作を連発できるのか。今回は中国研究家でジャーナリストである高口康太氏に、miHoYoについて解説してもらった。

日本のオタク文化に憧れ、2011年に創業したmiHoYo

 miHoYoを擁する中国ゲーム市場は、世界最大規模に膨れ上がっていると高口氏は語る。

「中国はこの20年で凄まじい経済成長を遂げました。成長に応じて国民の消費も伸び、ゲーム市場も活発化しました。中国がユニークなのはゲームがスマホに集中したことです。日本や欧米ではゲーム専用機やパソコンでのプレイも一定のシェアを持ちますが、中国では経済成長を迎えたタイミングがスマホの普及と重なったため、スマホファーストとなりました。

 今の世界のゲーム市場はスマホメインですし、結果として中国のゲーム会社が台頭するきっかけとなりました。実際に日本国内のゲーム市場を俯瞰してみると、中国製ゲームのシェアは約25%となっており、クオリティも高いです。現状は『伝説対決-Arena of Valor-』『PUBG mobile』のテンセント、『IdentityⅤ第五人格』『荒野行動』のネットイースという大手2社に売上が大きく集約しています」(高口氏)

 一方、miHoYoの戦略はこの2社とは異なるという。

「テンセントとネットイースは、リソースを分散させ、幅広いゲームをリリースして売上を伸ばしています。この2社を筆頭に1作に予算をかけすぎない風潮が中国ゲーム市場では続いていたのですが、そこに待ったをかけるかたちで存在感を出し始めたのがmiHoYoでした。

 miHoYoは日本のアニメ、ゲームなどのオタク文化の影響を色濃く受けた中国の若者3人が2011年に創業。当初はヒット作も出ず、鳴かず飛ばずでしたが、15年リリースの『崩壊学園』を機にじわじわと人気になっていきます。そして、16年に中国国内でリリースされ、17年には日本版もリリースされた『崩壊3rd』が全世界1億ダウンロードを記録し大ヒット。miHoYoはテンセントやネットイースとは異なり、基本的に作品数は多くなく、1作にできるだけリソースを注ぎ込む方式のため、かなりリスクの高い戦法を取っているんです。

 ですがmiHoYoは、センスのみで判断しているのではなく、ゲームの開発段階に応じて外部ユーザーからの評価を積極的に取り入れたり、随時改善するといった姿勢を貫いていたりすることから、博打ではなく、しっかりと計算したうえで勝負を仕掛けているのです」(同)

 そして、市場戦略もmiHoYoはこの2社と異なる方針を貫いているようだ。

「テンセントやネットイースは、中国市場を主に狙ったマーケティング戦略を展開していますが、miHoYoはグローバル展開に力を入れています。その一環として同社は、22年から子会社であるCOGNOSPHEREのもとで新ブランド『HoYoverse』を設立。『原神』をはじめとする一部既存タイトルや、新規タイトルの開発元として活動することになり、メタバース産業の参入も見据えています。これは米中対立により中国のアプリやサービスを利用停止する流れがあるので、海外ユーザーに対して危険性のないアプリであることを示していきたいというmiHoYoの考えによって行われている戦略でしょう」(同)

ブルーオーシャンに切り込み、自前でIPを育て上げた

 miHoYoの成功は今や火を見るよりも明らかだが、設立からまだ十数年の若い企業であり、設立当初も運営スタッフが数人しかいなかったそうだ。しかし20年9月ごろには『原神』の開発スタッフだけでも400人規模になっていたという。急ピッチな人材確保にも思えるが、なぜここまでスタッフの数を伸ばすことができたのか。

「前提として中国は世界一のスマホ大国で、ゲームのエンジニア人口も多いため、日本よりも人材を集めやすいんです。そして、中国は人材の流動性が高いのですが、miHoYoは会社の規模が小さかった時期から給与面で高条件を出しており、人材確保を優先してきた歴史があります。『崩壊学園』『崩壊3rd』の成功を受け、自己資金を貯めることができたので、より大きな人材投資を行うことができたのでしょう」(同)

 また中国当局がアニメ文化を推進していることも、miHoYo躍進の大きな追い風になっているという。

「中国当局は、近年アニメ・ゲーム文化の発展を奨励しており、今ホットな産業になっています。なかでも、miHoYoは日本のオタクカルチャーというブルーオーシャンに切り込み、中国にいる潜在的な顧客層を発掘することに成功した先駆けのメーカーです。加えて、『崩壊』シリーズという強力なIPを育てることができたことも非常に大きな強みだと考えています。たとえば、日本だと任天堂が『スーパーマリオ』『ゼルダの伝説』のように強力なIPを育てることができていますよね。しかし従来、中国のゲームメーカーは自前のIPを育てることができず、他社IPを買収して作品をつくっているケースが大半だったんです。miHoYoは日本の任天堂やアメリカのディズニーなどに倣い、自分たちのIPを丁寧に育て上げるために注力し、世界観を確立できたことがファン獲得に結び付いたのでしょう」(同)

 miHoYoはかねてから「Tech Otakus Save the World」(技術的なオタクは世界を救う)というスローガンを打ち出しており、日本のオタク文化を継承した独自の世界観や技術力を大事にしてきた。miHoYoのほかにも『アズールレーン』『ブルーアーカイブ -Blue Archive-』をリリースする「Yostar」は、中国の「上海悠星網絡科技有限公司」を母体とするゲーム会社であり、日本風ゲームを日本市場メインに展開している。今後第2、第3のmiHoYoのような中国メーカーが出てくれば、強力なIPを持つ日本メーカーといえど無事では済まないだろう。日本のメーカーが太刀打ちできる術はあるのか。

「中国は人材流動が激しく、グローバル展開に関してもノウハウを持った人材が次々と企業を渡り歩き、企業ごとにノウハウが蓄積されていく状況にあります。そのため、中国メーカーはグローバル展開もうまく、宣伝に関しては世界有数の影響力を持っているのです。また、現状はやはりマンパワーや技術力で中国メーカーに押されている印象がありますので、日本メーカーの最大の強みである人気IPを活用し、世界に発信していかなければいけないでしょう。

 しかし任天堂、スクウェア・エニックスのような大手メーカーならまだしも、残念ながら日本のゲーム業界の中規模以下のメーカーでは、世界戦略を展開できるノウハウや力はありません。そのためプライドを捨ててでも、グローバル展開に成功している中国メーカーのやり方を盗む、もしくはノウハウを持ち合わせた人材を引き抜く、といった戦略をしていかないと太刀打ちでないのではないでしょうか」(同)

(取材・文=文月/A4studio、協力=高口康太/ジャーナリスト)

高口康太/ジャーナリスト

高口康太/ジャーナリスト

中国経済、企業を中心に取材、執筆を続けるジャーナリスト。著書に『中国「コロナ封じ」の虚実―デジタル監視は14億人を統制できるか』『幸福な監視国家・中国』など多数。
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Twitter:@kinbricksnow

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