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「スーパーマリオ64」が1億7200万円…レトロゲームのソフトが異常に高騰の裏事情

文=清談社
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「スーパーマリオ64」より
スーパーマリオ64」より

 2021年7月、アメリカで行われたオークションでNINTENDO64用ソフト「スーパーマリオ64」(1996年発売)の未開封品が156万ドル(当時のレートで約1億7200万円)で落札された。これは、ゲームソフトの落札価格では史上最高値だという。その2日前のオークションでも、ファミリーコンピュータの海外版NES用ソフトとして87年に発売された「ゼルダの伝説」の未開封品が87万ドル(同約9600万円)で落札されている。

 いずれも名作の誉れ高いポピュラーなソフトとはいえ、数十年も前に発売されたレトロゲームがなぜ今、これほど高騰しているのか。ゲーム事情に詳しいコラムニストのジャンクハンター吉田氏に背景を聞いた。

「レトロゲームといえば、日本では83年に任天堂から発売された『ファミコン』やセガの『セガ・マークⅢ』など8ビット機時代までの作品がイメージされがちですが、今では90年発売の『スーパーファミコン』や96年の『NINTENDO64』あたりまでが“レトロ”の範疇に入ります。約20年前の2000年までと規定しても、日本だけでも数十種類のゲーム機が発売され、それぞれに膨大なゲームソフトがある。そのため、レトロゲームの市場は広がっていると思います」(吉田氏)

「スーパーマリオ64」が1億7200万円…レトロゲームのソフトが異常に高騰の裏事情の画像2
吉田氏が20年ほど前に米カリフォルニア州・サンビレッジのディスカウントストアで購入した「ZELDAⅡ The Adventure of LINK」と「ZOMBIENATION」の新品未開封ソフト。市場に出したら、それなりの価値がつきそうだ

 そもそも、レトロゲームはニッチな市場だった。ゲームソフトは初期から中古流通が盛んで、古いゲームは「安く買うことができるソフト」としての需要が大きかった。しかし、その中から名作と呼ばれるソフトや、生産・流通量が少なかった希少ソフト、プレゼント用の非売品ソフトなどを収集するマニアが生まれ、徐々に高額なプレミア品などが出始めた。

 やがて、専門ショップやネットオークションの発達とともにレトロゲーム市場が確立。発売されたソフトのコンプリートを目指すコレクターも増加していった。海外オークションでみられるソフトの超高額化は、熱心なコレクターたちによる争奪戦の結果だという。

「現状、レトロゲームの購入者には2種類が存在すると思います。一方は、パッケージのない裸の状態の中古ソフトでも、懐かしさや、その文化を純粋に楽しむ人たち。もう一方は、より希少で高額なタイトルを探し続け、価値が高いとされる新品未開封のソフトを集めたがる、完全なコレクターです。コレクターの中には、はじめは裸のソフトでも集めていたけど、それをコンプリートしたら、次のステージとして『箱・説明書付き』『未開封』など、より新品に近い状態のレトロゲームを集め始めるという人もいますね」(同)

100万ドル超え高値ソフトの条件とは?

 とはいえ、ゲームは開封して、遊んで、初めて価値が生まれるもの。発売当時に購入したソフトを開封せずに保存している人は少ない。当然、そういったソフトが市場に出回るケースは稀で、収集のハードルはさらに上がる。マニアの間では、新品未開封のレトロゲームは貴重な骨董品のような扱いになっているのだ。

「コレクターと呼ばれる人たちの多くは、ただコレクションすることに意義を見いだし、ゲームの内容自体には興味はありません。購入してもプレイせず、単に新品や未開封のソフトを求め、そのためならいくらでもお金を出します。でも、未開封品は本当に出回りません。箱・説明書付きで全ファミコンソフトを集めた、という人はたくさんいますが、未開封品でコンプリートしたという人は聞いたことがありませんね」(同)

 市場価格が高騰している未開封ソフトだが、生産数が少なく知る人ぞ知るようなタイトルであれば、その価値はより跳ね上がりそうだ。一方で、100万ドルを超えるような高値を記録するのは、何百万本も売れた大ヒット作品の未開封美品だという。

「『スーパーマリオブラザーズ』などの人気ゲームは、誰もが購入してすぐにプレイしたので、未開封のまま残っているものが少ない。でも、知名度は抜群だし、ゲーム史的な意味で文化的な価値も高いということで、超高値がつきやすいんです。これは、おもちゃやカード、コミックブックといったサブカルチャー的なアイテム市場では共通の価値観ですね」(同)

レトロゲーム人気に便乗した疑惑も

 ただし、ここ数年のレトロゲームの異常な高騰は、必ずしもコレクターの過熱だけが要因ではないかもしれない。実は、近年のレトロゲーム人気に乗じて、オークション会社側が意図的に価格を釣り上げている可能性が指摘されているのだ。前述した未開封の「スーパーマリオ64」に高値がついたケースでも、保存状態を見極める鑑定会社とオークション会社の経営者が共同購入して最高額を更新し、レトロゲーム市場全体の高騰を促したのではないか、という疑惑が浮上している。

「海外でレトロゲームの超プレミア化が進んだのは、ここ数年のことです。20年ほど前までのアメリカでは、ガレージセールに行くとカゴいっぱいにNESのカセットが積まれていて二束三文で売られているなど、かなり雑な扱いでした。中古ショップもありましたが、未開封品だからといって、特に価格を釣り上げるようなことはなかったですね」(同)

 現在、レトロゲームの高騰が見られるのは海外市場がメインだが、今後は日本でも同様の傾向が強まっていくのだろうか。

「もちろん、日本でも新品や未開封品は高騰するとは思います。ただ、日本のゲームソフトは海外と違ってビニールでシュリンクパックされておらず、紙箱のまま販売されていた商品も多いため、開封済みかどうかを判断するのは難しいんです。『プレイステーション』以降のCD-ROMのケースなら、完全に未開封品かどうかがわかりますが……。また、日本のレトロゲームは海外のマニアにも人気が高いので、すでに多くの美品が買われてしまっています。そのため、日本の市場で流通するプレミアソフトの数はさらに限られていくでしょう」(同)

 ちなみに、CD-ROMなどのディスクメディアは経年劣化が激しく、20年ほどで盤面が酸化して読み込めなくなってしまうことが多いので、いくら美品でもソフトとしての価値がない場合もあるという。

 自宅に美品の人気ソフトが眠っていれば、一攫千金も狙えるレトロゲームの世界。しかし、「ゲームソフトは20本組みの段ボール箱で小売店に搬入されていたりするので、いきなり新品未開封品が大量に発掘されて値崩れするようなこともあり得ます」(同)と、まだまだ安定した市場とはいえない様子。今から投機目的でレトロゲームをコレクションするのは、やめておいた方が良さそうだ。

(文=清談社)

清談社

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せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
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