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有名ゲームクリエイター、ゲーム実況配信者に法的措置か「徹底的に潰します」

文=Business Journal編集部、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表
有名ゲームクリエイター、ゲーム実況配信者に法的措置か「徹底的に潰します」の画像1
「YouTube」より

 動画配信・共有サイト「YouTube」「Twitch」などで人気ゲームタイトルを実際にプレイする動画を配信する「ゲーム実況動画」。なかには動画に挿入した広告で多額の広告収入を得る配信者もいるが、著名なゲームクリエイター・飯島多紀哉氏は今月、X(旧Twitter)上に<作り手の気持ちを無視して喜んでいる方々に触れると、ゲームの価格を上げたり半永久的にゲーム実況を禁止せざるを得なくなります><ゲーム実況、どうしよう?>と投稿。さらにルールを守らない動画配信者に対して法的手段を取る意向も示し、議論を呼んでいる。ゲーム実況動画をめぐるゲーム業界の姿勢は現在、どのようなものなのか。また、こうした動画を投稿することは、ただちに違法となるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 ゲーム実況動画はYouTube上では人気ジャンルの一つとなっている。たとえば扱われることが多い『マインクラフト』(Mojang Studios)の実況動画をみてみると、以下のように高い視聴回数となっている動画も目立つ。

・「【マインクラフト】人間vs透明人間、俺を見つけてみろ!」(日常組):視聴回数405万回
・「レベルが上がるとだんだんリアルになる世界【まいくら・マインクラフト】」(なしろ):389万回
・「【協力実況】1ブロック崖っぷちマインクラフト生活 #4」(キヨ。):148万回
・「【ヒカクラ2】Part97 – 3年ぶりに家の掃除&修復したら大変すぎたwww【マインクラフト】」(HikakinGames):355万回

 こうしたゲーム実況動画をメインに配信する、いわゆるゲーム実況系YouTuberも少なくなく、なかには多数のチャンネル登録者数を擁する人もいる。たとえば人気YouTuberのヒカキンさんのゲーム専用チャンネル「HikakinGames」の登録者数は612万人、「キヨ。」さんは489万人、「ポッキー」さんは359万人、「RiChannel」さんは358万人、「兄者弟者」さんは314万人、「まいぜんシスターズ」さんは292万人、「はじめしゃちょー2」さんは292万人となっている。動画内に挿入された広告動画の再生によって月間広告収入が数百万円に上るYouTuberもいるとされる。

ゲーム実況のルールを公開するゲーム開発会社も

 問題となってくるのがゲームタイトルの著作権侵害だ。なかには開発元に無許可で長時間のプレイ動画を投稿するユーザも少なくない。ゲーム業界関係者はいう。

「ゲーム開発会社・開発者が実況動画にどのような姿勢を取るのかというのは、非常に難しい問題だ。単純に法律論でいえば、開発元に無断でプレイ画面をネット上に投稿することは著作権侵害に当たるので違法ということになるが、熱心なファンが純粋にゲームの魅力を広げようという気持ちから、ほんの一部だけ投稿しているようなケースの場合、そうしたファン熱に冷水を浴びせてよいのかという話になる。好意的な動画に断固たる措置を取ることによる企業イメージ悪化のリスクも考えられる。また、開発元の資金力が乏しく宣伝費をかけられないマイナーなタイトルが、ゲーム実況がきっかけとなって大ヒットするケースも稀にあり、パブリシティー効果が見込める側面もある。

 以前からゲーム会社が一部の有力なインフルエンサーにタイトルを無償で貸与して『実況してくださいね』と許諾するケースはあったが、ここ数年はゲーム実況のルールを公開して『こういう形ならよいですよ』と基準を明確に定めるゲーム会社も出てきている」

 たとえば任天堂は2018年、「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を公開し、

<任天堂は、個人であるお客様が、任天堂が著作権を有するゲームからキャプチャーした映像およびスクリーンショット(以下「任天堂のゲーム著作物」といいます)を利用した動画や静止画等を、適切な動画や静止画の共有サイトに投稿(実況を含む)することおよび別途指定するシステムにより収益化することに対して、著作権侵害を主張いたしません。ただし、その投稿に際しては、このガイドラインに従っていただく必要があります。あらかじめご了承ください>

と記載。計6項目のガイドラインを定めている。

 また、セガも「ゲームプレイ映像利用に関するガイドライン」を公表しており、計17項目のガイドラインを定めている。

<ゲームの価格を上げたり半永久的にゲーム実況を禁止せざるを得なくなります>

 ゲーム実況をめぐっては、これまでも制作サイドからさまざまな見解が示され、議論を呼んできた。たとえばゲーム開発会社「あまた」社長でソニー・インタラクティブエンタテインメント元ディレクターの高橋宏典氏は昨年4月、X上に次のように投稿していた。

<YoutubeとTwitchは、今の技術的には何のゲームを配信しているのか検知可能なのだから、ゲーム開発者にも動画再生などから得られる収益を分配するべきだと思う。音楽業界ではできている(やっている)のにゲーム業界に対してやってないのは開発者に対して還元する気がないということなのでちとモヤる>

<動画だけで消費されてしまうタイプのゲーム(アドベンチャーゲームなど)は宣伝効果と機会損失のバランスの判断が難しい。一歩間違うと、機会損失の方が大きいタイプのゲームはあまり作られなくなってしまい多様性を失う可能性もある。プレイヤー側ももう少し真面目にこの問題を考えた方がいいと思う>

<もちろんゲーム動画の隆盛は時代の変化なので、ゲーム開発者側の生存戦略として、その変化に応じて最適化したゲームを作っていくことも当然にやるつもり。ただ、ゲームの多様性が失われる可能性が高い今の収益分配構造を放置しておくと、いちプレイヤーとしてはあんまり楽しい未来が想像できない>

 そして今月にはゲームクリエイター・飯島多紀哉氏は、一部のルールを守らないゲーム実況配信者の振る舞いをめぐり、次のように投稿した。

<発売したばかりのノベル系アドベンチャーゲームを発売初日から数種類のエンディングまで数時間を、とある方に実況されました。もちろん実況は禁止しています。ノベル系のゲームはネタバレが命取りです>

<switchで発売した『アパシー鳴神学園七不思議』というゲームがヒットし廉価版迄発売されるため、そのお礼も込めて新作をsteamで期間限定990円で発売しました。が、この結果です。Youtubeは原作者が通報するとすぐに削除してくださるのですがTwitchは対応してもらえません。まったくの野放しです>

<投稿された実況内容うんぬんよりも、その行為に僕は残念でなりません。これでも原作者は涙を呑んで耐えなければならないのでしょうか。これからも、新作を発売するたびに誰かがネタバレ上等実況をあげていくんですかねえ。ゲーム制作者はそれほど弱い存在なのでしょうか>

<ゲーム実況のルールを守らない方がいるので僕は本当に悲しいです。こうやって作り手の気持ちを無視して喜んでいる方々に触れると、ゲームの価格を上げたり半永久的にゲーム実況を禁止せざるを得なくなります。それでゲームが売れないというのであれば仕方ないことですね。ゲーム実況、どうしよう?>

 そして飯島氏は動画投稿者に対して法的措置を取ることを検討しているとして、以下のように綴っている。

<裁判はします。他のクリエイターがこのような事態に巻き込まれないためにも。一言の謝罪もなく逃げている件の輩を許すのはゲーム業界のためにもならないと思いますので>

<私がなぜそこまで徹底的にするかというと、これからのクリエイターの卵たちを守りたいからです。この方が二度と私に対してこのようなことをしなかったとしても、他の小さくて弱い獲物を探すでしょう。逆らえないような生まれたてのクリエイターが、こういった不届き物の毒牙に掛かってはいけません。

<だから、徹底的に潰します。今回、被害が最小限で済んだのは、私のファンの方々だけでなくネットでこの話を聞きつけた方々が迅速に動いてくださったからです。皆さんも楽しく面白いゲーム実況に触れたいのだと思います。制作者を苦しめる輩を野放しにして新たな才能が摘まれることは嫌なはずです>

「やるなら、きちんとガイドラインを守ってくださいね」という真っ当な主張

 ゲーム業界関係者はいう。

「まず、ゲームのジャンルによって事情は大きく変わってきます。ノベル系やRPGモノがネタバレするとゲームタイトルのセールス減少に直結するので、著作権侵害に加えて損害賠償を要求すべき事案となってきます。一方、バトルモノのような場合は、それほどセールスに大きなマイナスの影響を与えないかもしれません。また、飯島さんの投稿を見ると、動画実況のすべてがダメと言っているわけではなく、『やるなら、きちんとガイドラインを守ってくださいね』という真っ当な主張をしているにすぎません。どのように実況者と向き合っていくべきかを自問自答している様子がうかがえ、ゲーム実況をめぐる問題の根深さを感じます」

 山岸純法律事務所代表の山岸純弁護士はいう。

「著作権法がらみのネタは、弁護士の諸先輩ががんばっている分野なので、私は“さわり”程度に解説します。実は『ゲーム実況』も『ゲーム』という映像に関する著作物をプレイして金をとっていれば、著作権法違反になり、10年以下の懲役など、とても重い罪が科せられる場合があります。実際に令和5年5月17日、ゲームのプレイ画面などをYouTubeに投稿した人物が著作権法違反で逮捕されたというニュースがありました。

 音楽で考えてみるとわかりやすいのですが、例えば著作権が“切れていない”、すなわち作曲家が亡くなってから70年経っていない音楽を演奏して観客からお金をいただく場合、作曲家の演奏権を侵害しないように、例のめんどくさいJASRACに“上納”しなければなりません。もちろん、個人が家庭内で演奏して楽しむだけなら“上納”する必要はありません。これと同じように考えれば、最近のゲームはムービーやキャラクターの映像にとんでもないお金をかけているわけですから、ゲームの開発者に著作権が発生するのは当然として、勝手に配信する輩から金をとりたくもなります。

 ところで、著作権を侵害した場合、上記の通り10年以下の懲役など、重い罪が科せられるのですが、ほとんどの著作権法違反の罪が『親告罪』、すなわち著作権者の『告訴』がないと逮捕や起訴、有罪にはなりません。ここで重要なのが、ゲーム開発者側、任天堂やスクエア・エニックスなどは、ゲーム実況配信について細かくガイドラインを定めているということです。要するに、著作権者であるゲーム開発者に『告訴』する権利があるので、ガイドラインにしたがってさえいれば告訴されない、著作権違反を問われない、逮捕されない、ということです。おそらく、ガイドラインにしたがわずにゲーム実況している人がいるから問題になっているのでしょう。私も『信長の野望』が大好きなので、最新の『新生』シリーズのゲーム実況をよく見てますので、ガイドラインにしたがってくれていることを祈るばかりです」

 当サイトは23年12月6日付記事『「ゲーム実況配信者は多額の収益→ゲーム開発者は収益なし」の是正めぐり論争』でゲーム実況に関する仕組み整備の必要性などについて報じていたが、以下に再掲載する。

――以下、再掲載(一部抜粋)――

「ニコニコ動画」のように、ユーザがプレイ動画などを投稿するとそのゲームの開発元に収益が還元される仕組みを導入しているプラットフォームも一部にはあるが、ゲーム業界関係者はいう。

「プレイのアルゴリズムや画面のデザインをはじめタイトルに関する一切の著作権はその開発元に属するので、それをプレイする画面をそのまま無断でネット上にアップするという行為は、映画や楽曲の無断アップロードと同様に著作権侵害になるというのが基本的な考え。ただ、多くのユーザがプレイ動画をネット上にアップすることで生じる『ファン熱』や一定の宣伝効果も見込めるということで、ゲーム会社が容認・黙認しているのが現実。投稿者が『悪意』からではなく、純粋にそのタイトルが好きでプレイの様子を公開している以上、ゲーム会社としては、それに対していちいちクレームを入れることによってマイナスのイメージが広まってしまうことのリスクのほうを重視している面もある。

 ただ、RPGなど長いストーリー性を持つタイトルの場合、クリアまでの動画を見ただけで満足して買うのをやめる人が増えれば、ゲーム会社としてはビジネス的には損失となる。つまり総合的にみると、ゲーム会社的には実況動画によって得することも損することもあるため、業界共通の仕組みをつくるなどの一律の対応が難しいという事情もある」

業界共通の仕組み整備は双方にメリット

 ゲームプロデューサーの岩崎啓眞氏はいう。

「ゲーム実況動画の投稿者の大半は無許可でやっているが、ゲーム会社が有名なストリーマーに依頼しているケースや、非大手のゲーム会社などが報酬を支払って動画を配信してもらうケースもある。最近ではゲーム会社側が『この部分は実況してOK』と宣言したり、セガが『龍が如く』でやっているように配信に関してガイドラインを設けて各種条件をつけるケースも出てきている。

 ゲーム会社にとっては、名前が知られていないゲームの宣伝にもなり、『スイカゲーム』や『桃太郎電鉄~昭和 平成 令和も定番!~』のように実況がきっかけでヒットするタイトルも存在するので、一定のメリットがある。特にFPS/TPS、PvP系のタイトルはいろいろなテクニックなどが披露されることでプレイの面白さが広まるので、メリットが大きい。

 一方、お話がメインのRPGなどは実況によってストーリーが明かされると売上が下がるというデメリットが生じる。アトラスの『ペルソナ』のように『ネタバレ厳禁』『ストーリーについては配信NG』とするケースもある」

 では、音楽業界におけるJASRACのような業界共通の仕組みをつくるといった動きは必要なのだろうか。

「実況による収益を開発元にも還元すべきという声がある一方、ゲーム会社側からは『もっとストリーマーが配信によって収益を得られるようにすべき』という声も聞かれ、両方の声があるのは事実。業界共通の仕組みがあれば、実況をめぐるさまざまなルールがより明確化されるので、ゲーム会社と実況配信者の双方にとってメリットがあるだろう」(岩崎氏)

(文=Business Journal編集部)

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

山岸純/山岸純法律事務所・弁護士

時事ネタや芸能ニュースを、法律という観点からわかりやすく解説することを目指し、日々研鑽を重ね、各種メディアで活躍している。芸能などのニュースに関して、テレビやラジオなど各種メディアに多数出演。また、企業向け労務問題、民泊ビジネス、PTA関連問題など、注目度の高いセミナーにて講師を務める。労務関連の書籍では、寄せられる質問に対する回答・解説を定期的に行っている。現在、神谷町にオフィスを構え、企業法務、交通事故問題、離婚、相続、刑事弁護など幅広い分野を扱い、特に訴訟等の紛争業務にて培った経験をさまざまな方面で活かしている。
山岸純法律事務所

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