大手ゲーム開発会社スクウェア・エニックス・ホールディングス(スクエニ)は4月30日、2024年3月期に約221億円の特別損失を計上すると発表。同社は同期、人気ゲームシリーズ「ファイナルファンタジー」の最新タイトル「ファイナルファンタジーXVI」(FF16)をリリースしたものの、純利益は同21.8%減の385億円と減益予想となっており、またFF16のセールスが過去シリーズと比較して低めで推移しているという見方もあり、SNS上では
「スクエニ、ユーザーを舐めすぎてしまいゲームが売れなくなってしまう」
「一昔はスクエニ落ちたなwとか言っても内心本気ではなかった でも最近はガチなんだよな…」
「スクエニってたけで過剰に叩かれ過ぎな気がする」
など、さまざまな声があがっている。果たして以前から巷で囁かれている“スクエニ落ちた説”は的を射たものなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
スクエニは2003年にスクウェアとエニックスが合併して発足。「ファイナルファンタジー」「ドラゴンクエスト」「聖剣伝説」「サガ」など数多くの人気シリーズを擁し、ゲーム開発を手掛ける企業としては任天堂、バンダイナムコHD、ネクソン、セガサミーHDに次ぐ規模で(売上高ベース)、売上高はカプコン、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの約3倍となっている。
スクエニを代表する2大タイトルが「ファイナルファンタジー(FF)」と「ドラゴンクエスト」だ。FFは1987年にスクウェアが第1作をリリースし、シリーズの累計販売本数(ダウンロード含む)は約1億6000万本に上る世界的人気タイトル。1997年発売のFF7は世界累計1280万本以上という驚異的なセールスを記録している。
「ドラゴンクエスト」は1986年にエニックスが第1作を発売。シリーズ累計販売本数は8200万本(出荷およびダウンロード本数)を超えており、特に90年代に小中学生だった世代であればゲームファンではなくても1度はプレイした経験があるかもしれない国民的RPGだ。
“新しいドラクエ”生みの苦しみ
そんな二作をめぐってここ最近、“あまり嬉しくない話題”が続いている。昨年6月に発売されたFF16は、初週の累計販売本数が全世界で300万本超え、国内で33万本超えとなり、改めて人気の高さを見せつけたが、16年発売の前作、FF15の初週累計販売本数は全世界で500万本、国内で69万本であり、国内では半減となるなど単純に数字上では下落。加えて、スクエニから販売本数400万本達成のアナウンスがされていないことからも、想定を下回っているのではないかという見方も流れている。
また、「ドラゴンクエスト」は21年5月に新作である「ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎」(ドラクエ12)の制作が発表されたが、それから約3年が経過し、いまだに内容や発売日などの詳細が明らかにされていない。今月には同シリーズの責任者を務めていた三宅有氏が担当を外れることがわかり、真偽は定かではないが一部メディアでは開発遅延の責任を取るかたちで異動となったとも報じられている。
そこに加えて、スクエニは4月30日、進行中の一部HDゲーム(コンシューマー向けゲームタイトル)開発を中止することに伴い24年3月期に約221億円の特別損失を計上すると発表。これを受け一部SNS上では「ドラクエ12開発中止説」まで流れる事態となっている。
特損計上の背景には同社の経営方針の変更があると、ゲームプロデューサーの岩崎啓眞氏はいう。同社は現在、昨年6月に就任した桐生隆司社長の下、抜本的な経営改革に取り組んでいる。利益率改善のために外部委託開発を減らして、厳選した新作タイトルにリソースを集中して内製により開発していく方針を掲げており、開発のより早い段階で作品のクオリティをチェックする仕組みを導入するとしている。
「小規模なインディーズと呼ばれるジャンルのゲームタイトルの規模が徐々に大きくなり、大手ゲーム開発会社が手掛けている安価なポートフォリオのタイトルを浸食するようになってきています。そのため大手はHDゲームからモバイルゲームまで幅広い領域で多くのタイトルを投入して稼ぐという手法がとりにくくなっており、スクエニはランナップを絞って確実に当てられるトリプルA(多額の開発費を投入する大作)にリソースを集中させていく方針に転換したと考えられます。これを受け、複数の開発中のタイトルが中止となったことにより、これまで投下した開発費用を特損というかたちで計上したのでしょう。
220億円という規模は小さくはないものの、たとえば10億円かけたタイトルが20本中止となれば200億円になるわけで、ものすごく大きな金額というわけでもないでしょう」(岩崎氏)
多くのファンの関心事になっているのが「ドラクエ12」の開発状況だ。
「さすがにドラクエ新作の開発が中止になったということはないと思いますが、“開発のやり直し”のようなかたちになり、いったんこれまでの開発費用を損失として計上したという可能性はゼロではないかもしれません。
ドラクエシリーズの生みの親であるゲームデザイナーの堀井雄二さんも認めているように、前作の『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』はこれまでのシリーズの集大成的な位置づけであり、ドラクエ12はすべてリセットしたかたちの“新しいドラクエ”になる予定です。そのため開発の難易度が非常に高くなり、『バトルはどうするのか』『ここまで変えちゃうとドラクエっぽくないよね』などと一つひとつのシーンについてゼロから検討し、スクラップ&ビルドを繰り返しながら開発を進めていくことになるので、そうこうしているうちにあっという間に3年くらいはすぐに経過してしまいます」(同)
長い歴史を持つタイトル特有の難しさ
スクエニの業績は悪くはない。24年3月期は特損を計上するものの、売上高は前期比4.9%増の3600億円、営業利益は同24.1%増の550億円、経常利益は同0.5%増の550億円、純利益は同21.8%減の385億円となる見通し。
一方、前述したFF16とドラクエをめぐる動向に加え、FF16がリリースされた年度でありながら最終減益予想となっていることもあり、SNS上では以下のような声が目立つ状況となっている。
<ドラクエ、FFなんだから買うんでしょ?みたいな態度が舐めすぎた>
<ゲーム屋なのにグラと曲と広告でゲームを売ろうとしている なぜゲーム部分で勝負しないのか>
<世の時勢を無視して開発者(P/D)の意地を優先して作ってる>
<みんなが期待しているシリーズの新作に全く予算掛けずに全てFFにぶっこんでる>
<スタッフがやって楽しいゲームを作るって部分からかけ離れている>
<ゲームとしての本質的な面白さを追求せずに、映像面ばかりにこだわって自滅してるような気がしてる>
<家庭用はスクエニは大作思考で開発コストとリターンが難しい>
<「3Dムービー凄いリアルで綺麗」がやりたいだけ>
こうした声があがる背景について岩崎氏はいう。
「大前提として、FF16をはじめスクエニのタイトルは非常にクオリティが高く、プレイ自体も楽しいですし、ファンが多いのは事実です。FFとドラクエのように長い歴史を持つタイトルには、初期の頃からいるファンと新規のファンの両方に目配せしながら開発を進めなければならないという特別な難しさがあります。長いファンを裏切らないように意識しつつ、新規ファンも満足させなければならないため、どうしてもいろいろな評価が寄せられることになってしまいます」
(文=Business Journal編集部、協力=岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター)