6月22日にスクウェア・エニックスより発売された「ファイナルファンタジーXVI」(以下、FF16)をめぐる議論が、ネット上で加熱している。1987年発売の第1作「ファイナルファンタジー」(以下、FF)から始まり、国内外を問わず数多くのファンが熱狂してきたFFシリーズのナンバリングタイトルとなる本作。ディテールまでつくり込まれた美麗なグラフィックをはじめ、シリーズ初となる本格アクションに振り切ったバトルシステム、暗く重い設定のストーリーが話題を呼んでいる。なかには、そのゲーム性に難色を示す声も一部見られるが、海外レビュー集積サイト「metacritic」によれば、FF16はメタスコア88点を獲得。総合的に見れば、本作の評価は高めと見るのが順当だろう。
一方、肝心の販売本数に関しては、ユーザーによって評価が分かれている印象だ。ゲーム専門誌「ファミ通」によれば、発売初週の累計販売本数は全世界で300万本を突破、国内でも33万6027本を記録し、好調の出だしを飾ったと評価する声も少なくない。だが2016年11月発売の前作FF15の初週累計販売本数と比べてみると、FF15は全世界で500万本突破、国内で69万4000本(4Gamer.net調べ)となっており、FF16は大きく数字を落とす結果になったと嘆く声もある。
さらに遡るなら、FF14はオンラインゲームのためFF13を参考に見てみると、2009年12月発売のFF13の初週の国内推定販売本数は151万6532本(エンターブレイン調べ)。国内だけで比較すると、FF16の初週はFF13の4分の1以下しか売れていないということになる。最新作の反響を受けて、国内屈指のキラータイトルであるFFシリーズの行く末はどうなっていくのか。今回は、ゲームプロデューサーの岩崎啓眞氏に、FF16の反響について解説してもらった。
ストーリーやシステム面は高評価、だが売上は減少傾向
まずFF16に対する評価について。
「結論を申し上げるのであれば、十分に成功といえるクオリティに仕上がったといえるでしょう。FF16はこれまでのシリーズで当たり前だったコマンドバトル要素を大胆に廃止し、アクション面に舵を振り切っており、チャレンジングな作品として新しいFFらしさを感じさせる一作に仕上がったと思います。そして、それ以上にシナリオの出来もよく、アクション要素を楽しむとともに、ストーリーをしっかりと味わうことに重点を置いてほしい、という製作陣の意図を読み取れますね。
前作FF15は、オープンワールド(移動制限がない広大なフィールドを楽しめるゲーム)を盛り込んだ意欲作だったのですが、かえってこの要素がシナリオとの不和を生じさせてしまい、ゲーム体験としては中途半端なものとなってしまいました。その後も追加コンテンツが突如中止になるなどの発表もあり、決してクオリティが低いワケではないものの、非常に惜しい作品になってしまった、というのがFF15への印象です。FF16はそんなFF15の反省点を活かし、シナリオを十分に楽しんでもらえる作品へと仕上げることができたのかもしれません」(岩崎氏)
やはりゲーム自体の評価は高いFF16。一方でその売上について、海外は好調だというが、国内に限っていえば、かつてほどの売れ行きはない。
「1999年に発売された『FF8』以降、国内の売上は基本的に右肩下がりです。その原因はいくつか存在するといえます。1つは、ハードの所有状況が変化したこと。1997年発売の『FF7』以降のFFシリーズは、基本的にPS(プレイステーション)シリーズ対応のソフトとなっており、初代PS、PS2の時代はハードの所有率も高かったので、ミリオンヒットを出すことも珍しくはありませんでした。ですがPS4、PS5の時代は競合である任天堂ハードのシェアが圧倒的に高くなっており、PSは比較的コアなゲーマーしか所有しないハードへと変化してしまったんです。もともとのハードの所有数が少なくなると、ソフトの売れ行きが下がるのも当然のことであり、事実PS4対応の『FF15』、PS5対応の『FF16』は本数だけで考えれば、大幅に下がってしまいました。
もう1つは、先述した『FF7』の影響もあります。当時、FF7は国内外で爆発的なヒットを記録し、ゲームの歴史を塗り替えた作品として、その地位を不動のものにしました。ムービーを織り交ぜながらドラマティックに描かれるストーリーに、当時のプレイヤーは興奮し、のちの作品にも多大な影響を与えました。見方を変えれば、FF7はゲームのあり方を根本から変えたゲームのひとつとなります。したがって、その後のFFナンバリングタイトルにかかるプレッシャーも大きく、結果としてFF7以上の興奮が得られなかったのも大きかったのではないでしょうか」(同)
ハードの普及状況を考慮すれば、十分成功といっていい
現在の売上減少からFFシリーズの衰退だという声も聞かれる。20年11月に発売され、現時点で累計出荷本数400万本超えの「桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~」の10分の1以下の販売本数であるという指摘もある。発売初週のFF16と発売から3年弱の桃鉄の販売本数を単純比較することはできないものの、その差に衝撃を受ける人々がいてもおかしくはない。
「たしかに桃鉄のほうが売れたのは事実ですが、だからといってFFシリーズの売上と比較するのはお門違いです。桃鉄は今や国内の普及台数が2500万台を超えるNintendo Switchのソフトとなっています。一方、FF16対応のPS5は、今年の3月初めにやっと300万台を超えたばかりなので、そもそものユーザー数が段違い。そう考えると、桃鉄とFF16の売上にここまで差が出るのは当たり前なんです。
また桃鉄は売上が業界の予想をはるかに超え、ミラクルを起こしたモンスタータイトルであったことも踏まえなくてはいけません。というのも、ゲーム業界ではハード普及数に対しソフトの売上が10%を超えれば成功といわれます。ちなみにFF16はPS5の普及台数300万台に対し、初週だけで国内で30万本以上販売され10%を超えたので、充分成功といえます。
桃鉄の場合、Switchの普及台数2500万台に対し400万本、16%であり、異常ともいえる数字。桃鉄がここまで売れたのは、単純にコロナ禍に入り巣ごもり需要が発生したこと、その影響でオンラインに触れる機会が増加したことが挙げられるでしょう、いずれにせよ、桃鉄が外出制限下の状況を背景にした規格外のヒットであったことは忘れてはいけません」(同)
FF16もまずまずの出だしを切ったといえるということか。
「FFシリーズは、すでに36年の歴史を持つ長寿タイトルになっているため、新作が出るたびにシリーズの伝統と最新技術の融合が期待され、開発側はかなり四苦八苦している印象があります。ですが、海外市場の売上がよいことを踏まえると、まだまだ健闘しているタイトルだといえるでしょう」(同)
ゲームの性質上、需要のほとんどが日本国内である桃鉄は3年間で400万本。対してFF16は全世界をマーケットにした作品であり、初週だけで300万本突破している。国内だけで見れば桃鉄のほうがユーザーは多いのだろうが、全世界で見ればFF16に軍配が上がるだろう。しかし、FF8以降の国内売上は右肩下がりであるというのもまた事実。「ドラゴンクエスト」シリーズと並び、日本を代表する2大RPGであるFFシリーズが、国内でもまた圧倒的な輝きを取り戻す日は来るのだろうか。
(取材・文=A4studio、協力=岩崎啓眞/ゲームプロデューサー、ゲームライター)