『成長の壁』を打ち破れ──IVS Growthが描く、日本スタートアップの次なる挑戦

2025.07.01 2025.07.05 20:26 企業

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●この記事のポイント
・IVSはスタートアップカンファレンスとしては国内最大規模だ。だが、立ち上がり期の支援は手厚いものの、成長期に対しての取り組みは弱かったのではないか。そんな課題感から「IVS Growth」が生まれた。
・起業家を支援し続けてきた常盤氏は、「IVS Growth」で日本のスタートアップが“世界で勝つ”ために必要な視点を提供しようとしている。

「支援するだけでは、足りない気がしたんです」。そう語るのは、EY新日本有限責任監査法人に所属し、スタートアップの成長支援の第一線を走る常盤勇人氏。彼が今回ディレクターとして構想から設計まで携わったのが、日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS」の新領域──“成長”にフォーカスした「IVS Growth」である。

 IVSは長らく、起業家と投資家が出会い、「ゼロイチ」を生み出す場として機能してきた。しかし、日本のスタートアップが抱える本質的課題は、創業期の熱狂のその先──”グロース”フェーズにこそ潜んでいる。今回の「IVS Growth」は、そうした課題感への明確なアンサーとして立ち上がった。

目次

起業家から支援者へ──常盤氏の原点と使命感

 常盤氏のキャリアは、中央大学在学中の起業から始まった。その後、大手コンサルティングファームや監査法人での経験を経て、現在はEY新日本に所属し、IPO支援業務を中心に、上場企業からスタートアップまで幅広い企業の成長支援に従事している。所属する企業成長サポートセンターでは、EYにおけるIPO統括部門の一員として、多くのスタートアップのIPOを支援。また、EY Japanのスタートアップ支援専門チーム「EY Startup Innovation」のコアメンバーとして、大型資金調達の支援や事業戦略の策定支援なども手がけている。

「起業家としてやってみて分かったのは、私は“支援する側”のほうが性に合っているということでした」。その言葉通り、彼の情熱は、限られたリソースと高い不確実性の中で挑戦するスタートアップの“成長”に寄り添うことに注がれている。

 その延長線上に立ち上げたのが、「EY Startup Lab」。EY内での若手メンバーと共に、スタートアップ支援の知見を共有・体系化し、日本のエコシステムの底上げを図る取り組みだ。

IVSとの出会いがもたらした気づきと構想

  常盤氏がIVSと初めて関わったのは、2022年の那覇開催だった。当初はスポンサーとして参加する予定だったが、「せっかくなら企画側で」という誘いが転機となった。以来、IVSには企画ボランティアとして深く関与してきた常盤氏だが、その中で明確に感じたのが「グロース領域」の不足だった。

「今の日本にはゼロイチの支援は十分にある。一方で、10から100、100から1000へと、成長の壁に悩む経営者たちが、次にどう舵を切ればいいのかを考えられる場が、圧倒的に足りていないと感じています。この論点は多くのスタートアップが悩んでいるので、改善できる方法は何かを探っていました」

 こうした想いが、今回の「IVS Growth」という新しいゾーンを生む原動力となった。

グロースの“再定義”──視座を上げ、成長の本質に向き合う

「グロースという言葉が独り歩きしている」ーーこの指摘こそが、今回の「IVS Growth」が掲げる最大のテーマだ。

 成長を単に売上拡大や資金調達といった定型的な理解にとどめず、本質的な「なぜ成長をしていくのか」「どこへ向かうべきか」「なぜ株式公開をするのか」という問いを立て直す。常盤氏がこだわったのは、まさに“視座”の再設計だった。

 そのため、セッション設計においても徹底して「考え方」にフォーカス。ハウツーではなく、再現性のある思考プロセスを提示することで、参加者が自らの経営に応用できるようにしたと言う。例えば、2日目の「非公開化という選択肢:PEファンドの活用」というトークセッションでは、ユーザベースやカオナビといった上場後にPEファンドによるTOB(株式公開買付け)という選択をした企業を招き、成長志向を保ちながらも、なぜこの判断に踏み切ったのか。その判断の裏には、どのような経営課題や戦略的意図があったのか、本質的な関係性を問い直す。

CxOのリアル、成長を支える「背中の預け方」

「IVS Growth」は、経営者だけを対象とした場ではない。ナンバーツー、ナンバースリーといったCxO層に向けたセッションも用意されている。常盤氏は「信頼できる経営パートナーとは何か」という問いを立て、CEOとCxOがいかに信頼を築き、共に走るのか──そのリアルに迫る。スタートアップの成長とは、経営者個人の力量ではなく、経営チーム全体のあり方が問われるフェーズだ。「IVS Growth」は、そうした組織的なグロースの観点にも光を当てる貴重な場となるだろう。

“スタートアップ村”を越えて──日本の壁を突き破る仕掛け

「IVSは、これまでの“スタートアップ村”から飛び出すフェーズに入ってきました」。そう語る常盤氏は、PEファンドや戦略コンサル、大企業経営者といった、これまでのIVSにいなかったプレイヤーを巻き込むことに注力した。

 なぜなら、スタートアップのグロースは、もはやスタートアップ“だけ”では成しえない領域に突入しているからだ。異なるプレイヤーが混ざり合うことで、成長に多様な道筋と選択肢が生まれる。常盤氏が言う「視座を上げる」とは、業界の壁を越えて発想することでもある。

「変わったフリは、もうやめませんか?」

 日本のスタートアップが“世界で勝つ”ために必要なのは、単なる模倣や表層的な変化ではない。

「世界のやり方をそのまま真似するのではなく、それを自分たちの文脈に最適化し、自らの行動で変えていく。悪しき慣習や既得権益を乗り越え、新しいルールを作るという意志をIVSの場で持ってほしい」

 常盤氏は、参加者に“聞くだけ”で終わらない「一当事者としての参画」を求める。「IVS Growth」は、受動的な学びの場ではなく、未来への投資の場であり、自らの時間と意志を投じることで意味を持つイベントなのだ。

支援者であり続けることの意味──IVSで得た“財産”

「IVSで出会った人たちの熱量が、自分の支援者としてのあり方を変えてくれた」

 常盤氏にとって、IVSは単なるイベントではなく、価値観や視野を広げてくれた“成長の舞台”でもある。

 今回の「IVS Growth」も、常盤氏自身が足りないと感じたことに対し、自ら手を動かし、仲間を巻き込みながら形にしてきたものだ。「支援する側も常に、成長を止めずに変化し続ける必要がある」──この姿勢こそが、スタートアップ支援者としての彼の哲学である。

誰のためのIVSか──未来を作る“一当事者”として

「IVSは、スタートアップだけでなく、事業会社や地域企業、金融機関、そしてまだ挑戦を決めきれていない人たちにとっても価値がある場です」

 時には刺激が強く、チャレンジングすぎると感じることもあるだろう。しかし、それはいつも、常に課題への鋭い洞察と、明確な意思を持った人々から始まり、“次の一歩”のヒントは確かにある。

「IVS Growth」が目指すのは、過去の成功体験をなぞることではなく、未来への意思と行動を持つ人々が出会い、挑戦の火を分け合う場だ。

 常盤氏の語る「変わったフリはもうやめよう」という言葉は、日本のスタートアップエコシステム全体への静かな警鐘であり、未来を変える実践の呼びかけでもある。

 あなたが今、どんな立場にあろうとも──次の成長を目指す一当事者であるならば、このIVS Growthという場は、確実に何かをもたらすだろう。

(構成=UNICORN JOURNAL編集部)