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ラジオのプロデューサーもIVS運営も…深いエンゲージメントをビジネス化することが重要

2025.06.30 2025.06.30 21:06 企業
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萩原慶太郎氏

●この記事のポイント
・IVS2025が直前に迫った。2022年の開催では2000人規模だったIVSが、翌年には1万人参加を目標として掲げた。いきなり5倍規模への成長は、どのようにして成し遂げられたのか。長年アドバイザーを務めてきた萩原慶太郎氏は、IVSとの距離感など、どのようにかかわるべきか悩みながら、運営陣にアドバスを送ってきた。
・まったく共通点のなさそうなラジオとIVSの運営だが、実は大きな共通点があると萩原氏は語る。

 日本最大級のスタートアップイベント「IVS(インフィニティ・ベンチャーズ・サミット)」が、今年も7月2日から京都で開催される。2007年の初開催以来、日本のスタートアップシーンの成長とともに、その規模を拡大してきた。特に2023年から2年連続で京都で開催され、1万人を動員する巨大イベントへと進化した。

 そのIVSで長年アドバイザーを務めてきた萩原慶太郎氏。2年連続京都で開催された2023年と24年では、イベントオペレーションを企画・統括した。その萩原氏にIVSへの想いとこれまでの関わり方、そして起業家精神や次世代へのメッセージなど幅広く聞いた。

目次

IVSとの出会い

――IVSに関わるようになった経緯を教えて下さい。

萩原氏 2016年からです。インフィニティ・ベンチャーズ立ち上げメンバーである小野裕史(現:小野龍光)からイベント運営の相談を受けたことがきっかけでした。そこで大学時代の友人、岡田隆太朗(現日本ディープラーニング協会理事)にも声をかけてIVS事務局を作りました。ただ当時、私はTBSラジオの社員で兼業禁止だったので、ボランティアスタッフという形で参加することにしました。IVS現代表の島川敏明も同じ頃にボランティアスタッフでIVSに関わるようになりました。その他にも現在の中心メンバーがこの頃からIVSに参加しています。

 その後、小野・岡田・私の3名が中心になってIVSを運営していた時期を第2期と呼んでいます。島川がIVS代表になってからの現体制を第3期です。IVSは、ボランティアスタッフの活躍がめざましいのがひとつの特徴で、ボランティアスタッフからIVSの代表になったり、ファンドを立ち上げたり、事業を興したりなどの例が多くあります。

――萩原さんはどんな想いでIVSに関わっていましたか。

萩原氏 第2期の3人(小野・岡田・萩原)が意識していたのは、「どのようにスタートアップのエコシステムをアップデートするか」ということでした。IVSが評価された理由のひとつは、ベンチャーキャピタルのHeadline Asiaが運営母体でありながらも単一のベンチャーキャピタルが自分の得になるようなイベント開催をする発想にならなかったことだと思っています。

 エコシステムのアップデートが根底にあるからこそ、海外での開催(台湾)や、百戦錬磨の経験を乗り越えてきた経営者から経験を学ぶ「IVS DOJO」などのコンテンツを作るなどの挑戦をしてきました。

 ただ、当時は招待制だったので、我々3人が運営を続けていたら、いわゆるスタートアップの“同窓会”になるのではという不安がありました。そこで、運営すべてを一度若手に任せ、それを支えようという決断をしました。そこから島川体制の第3期がはじまります。ちょうどそのタイミングで、TBSラジオの編成部長になったのでIVSに携わることが難しくなり、2020年に中心メンバーから退きました。

――TBSを退職されたのは昨年ですが、それまでもIVSへのアドバイスを続けてこられたのですか。

萩原氏 神戸(2019年)から那須(2021年)ぐらいまでは全く関わっていません。ちょっとした助言をする程度です。しかしきっかけになったのは那覇です。ちょうど、編成部長の任を終えた時期だったので、夜のネットワーキングパーティーのお手伝いをしたことがきっかけです。

 それから、島川代表らから大規模に成長させたいという相談を受けまして。2000人規模の「IVS2022 NAHA」から5倍規模となる1万人目標の「IVS 2023 KYOTO / IVS Crypto 2023 KYOTO」のタイミングでまた深く関わらせてもらっています。

 私自身はTBSで体験型エンタメ公演や数万人の大規模イベントの実施経験がありました。しかしIVSのスタッフや関係者には1万人規模のイベントの経験のある人がいませんでした。ただ、あくまでも若いスタッフが前面に出るべき組織であり、シニアの自分がどのように参加すべきか悩みました。

 あくまでも若手がやりたい発想を実現するために、私が経験してきたリソースを提供して、制作会社や音響照明の会社までは接続させるのですが、単にプロを接続しただけだと普通のイベントになってしまうし、数倍の成長なんかできない。

 基本的な方向性は彼らが打ち出し、具体的なやり方がわからないときに戦略的に組み立ててプロの施策をもって提案をする。そこの段取りやバランスをするのが私の基本的な役割でした。発想があっても具体策が無い場合などは、このように二人三脚でやりました。

 ある意味、通常のイベントでは「非効率」「不安定」と思われる要素も、敢えて取り入れることで、爆発力に繋がる。それを毎回一定数取り入れることはとても大切です。

ラジオとIVSに共通するビジネスの本質

――イベント実務でIVSの運営を牽引してきて、仕事で根底に通じるものはありますか。

萩原氏 TBS時代の仕事は基本的にはマーケティングや、新規事業の立ち上げでした。両方とも「誰に対して、何を、どのように与えて、何を生み出したか」ということを明確にし、具現化することです。IVSが、誰にどんな体験を与えるのかというところを突き詰めていくと、自ずと私たちの立ち位置と私たちの強みと弱みを追求していかなければ、戦略が練れません。

 例えば、ラジオはオールドメディアですが、驚くほど強いエンゲージを産み出す「コミュニティーメディア」です。大手放送局に勤務し、長くこのメディアに携わっていながら、一方ではスタートアップの世界に片足を突っ込み、ライフワークになっていた。しかしこの「深いエンゲージメントを発生させる」という点では、ラジオの経験がIVSには活きていると感じています。特に体験設計やコミュニティー作りという面です。

 どうスタートアップや投資家がコミュニケーションをし、深いエンゲージメントを産み出すのか。深いエンゲージメントをどう生かしてマネタイズしていくかという点で、とても共通していると思います。

 例えばポイントは「集う」場所とタイミングの設計です。ステージの横には必ずBARやコミュニケーションをするスペースを用意する。セッションに参加する人はある意味「#(ハッシュタグ)」で繋がっている人達なので登壇者と交流したいし、参加者同士でも繋がる絶好の機会。そこを細かく作っていく。ラジオも同じで本編よりもそのあとの「仲間との会話」が大切なエンゲージを産み出すのです。同じ方向を向いていると少しでも実感したときにエンゲージは高まります。

 これまでやってきたイベント実務や、メディア運営、マーケティング。そして新規事業経験といった複合的な経験は少しIVSの拡大に役に立っている気がしています。

――萩原さん自身はいわゆる大手の有名企業にずっと所属されていたわけですが、その萩原さんからベンチャーやスタートアップはどのように見えたのでしょうか。

萩原氏 最初はイベントのお手伝いという気持ちでしたが、関わればかかるほどスタートアップの面白さが身に染みてきました。事務局で一緒にやっていたボランティアや後輩たちが起業家・事業家として成長していく姿を真横で見ていたからです。

 彼らは事業を成長させて何十億円も扱うような会社を作っていくんですね。僕には単なる後輩だったわけですが、そんな年齢も違う彼らが、社会に新しい価値を提供し続けるメンバーのど真ん中に身を置いていたわけです。

 一方で本業のラジオのほうは、遅々として進まない伝統産業みたいなところです。70年の歴史がある業界ですからね。このギャップがものすごいんです。

 私はこの10年間、スタートアップと伝統産業のどちらも見てきましたが、そういう人間は実は珍しいのではないかと思っています。

――ご自身でも起業されたと聞きました。

萩原氏 はい、会社を辞めて2社立ち上げたので、IVSで一緒にやっていた若い彼らと同じ土俵に立っています。実際に資金がショートしそうになったこともあるので、資金繰りの大変さを今味わっています。だから頑張らないといけないし、私自身も会社をやりながら、ようやく憧れのスタート地点に立ったばっかりなのです。苦しくも楽しい日々を過ごしています。

IVSの将来性

 2007年から開催されている日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS」は、国内外の経営者や投資家、起業家が集まり、ビジネス機会、提携、資本提携を促進することを目的とする。

 IVSは、参加者が適切な人々に出会えるプラットフォームへと進化しており、資金調達やビジネスパートナーシップ、人材獲得といった具体的な成果をもたらすよう設計されている。テーマ別のゾーンやラウンジ、ミーティングエリアを通じて、集中的な高水準の会議の場を提供し、スタートアップがビジョンを共有し、潜在的な投資家やパートナーとつながる機会を提供する。

 IVSは、今後も日本のスタートアップ業界を牽引する重要なイベントとして、さらなる発展が期待されている。主催者であるIVS代表の島川敏明氏は、「日本のスタートアップエコシステムが大きく変わる激動の時代」を迎えていると認識しており、IVSを通じて「日本の経済、中長期、危険ですので、必要なことは仕込んでいこうかなとは思っている」と述べる。

 今年のIVSでも、新たな出会いがあり、世界に羽ばたく企業やコンテンツが生まれる可能性は高い。スタートアップ経営者や投資家、企業の意思決定者はぜひ参加を検討すべきだろう。

(文=横山渉/ジャーナリスト)

IVS2025開催概要
正式名称:IVS2025
日程
 メインイベント:2025年7月2日(水)〜4日(金)
 IVS Youth:2025年7月5日(土)
場所:京都市勧業館「みやこめっせ」、ロームシアター京都 他
主催:IVS KYOTO実行委員会 (Headline Japan / 京都府 / 京都市)
公式サイト:https://www.ivs.events/
公式SNS:https://x.com/IVS_Official

横山渉/フリージャーナリスト

横山渉/フリージャーナリスト

産経新聞社、日刊工業新聞社、複数の出版社を経て独立。企業取材を得意とし、経済誌を中心に執筆。取材テーマは、政治・経済、環境・エネルギー、健康・医療など。著書に「ニッポンの暴言」(三才ブックス)、「あなたもなれる!コンサルタント独立開業ガイド」(ぱる出版)ほか。