今年3月12日に北海道石狩郡当別町に開業したJR北海道札沼線「ロイズタウン駅」が、異色すぎると北海道民や鉄道ファンなどの間で話題になっている。なんと、ご当地の製菓メーカーであるロイズコンフェクトから名前を取っているのだが、そもそも当別町とロイズからの請願により誕生したのだ。当別町内にあるロイズ工場の集客力強化、駅周辺の宅地、集客施設の誘致を目的としているという。
駅舎などの整備費、建設費の約9億3000万円はロイズが負担し、駅前広場の整備にかかる約6億4000万円は当別町が負担しており、その後の駅維持費はJR北海道が受け持つという、官民三者の協力体制で実現した駅なのだ。なお道内の在来線では、2002年に開業した七飯町の「流山温泉駅」以来、実に20年ぶりの新駅だということもあり、開業当初は大きな賑わいを見せていた。
開業から半年ほど経過した当駅だが、SNS上では、
「駅の開業は大きな買い物だが、『宣伝効果』『工場見学者、購入者増加』『従業員の通勤手段確保、採用促進』などの効果を期待でき、優れた投資だと評価できる」
「札幌駅に近い駅でビジネス客からも便利」
「利用客も増えて、JR北海道側にもメリットがある投資」
など好意的な声が多く、ロイズと当別町の実行力を称賛する声も続出。考え方やアイデアに優れているという感想も多く、高く評価されているようである。
そこで今回は、ロイズタウン駅開業に向けて尽力した当別町事業推進課に、駅開業までの経緯やその反響について聞いた。
利用者急増でシャトルバスを運行
ロイズタウン駅が開業してから、当別町にはどんな効果が出たのだろうか。
「やはりロイズタウン駅を通して当別町を知ってもらえる良い機会になりましたね。当別町は県庁所在地である札幌市のすぐ隣なのですが、都市圏からは離れており、多くの札幌市民からは遠い存在のように思われている自治体でもあります。
ですから駅が開業してからは、我々の予想を上回るほど訪れる方が急増しておりまして、実のところ衝撃を受けています。駅から300mほどの場所にあるロイズ様のふとみ工場へ足を運ぶ方がかなり多いため、現在はシャトルバスの運行もされています。また開業当初から北海道内のさまざまなテレビ局、新聞社から取材のお問い合わせが殺到したので、PR効果は絶大でした」(当別町事業推進課)
では当別町が進めている駅前広場の整備はどのようなものなのか。
「こちら昨年から工事が開始しておりまして、駐車場50台、バス乗降スペース、公衆トイレなどの設備の導入を予定しております。完成予定時期は2022年中ですので、より多くの人が訪れるきっかけになれば幸いです。また今年の冬、ふとみ工場の中に新しく見学施設が作られます。そして、2017年にオープンしたばかりの道の駅『北欧の風 道の駅とうべつ』も駅近くにございますので、そういった施設を訪れる拠点としてロイズタウン駅に来てもらえれば嬉しいです」(同)
意外な対応を見せたJR北海道
当駅を作ることをJR北海道に請願したきっかけはなんだったのだろうか。
「新駅を作りたいという構想は、ロイズ様と当別町のほうで10年以上も前からありました。特にロイズ様は、アメリカのチョコレート製造会社『ザ・ハーシー・カンパニー』がペンシルベニア州に作った『ハーシータウン』をイメージしたまちづくり構想を掲げておりまして、当別町はその一環としての駅建設の要望を受けていたんです。
一方、町としても、観光目的のために札幌市から近いという立地を活かし、先述した道の駅を作る動きがありました。その後、ロイズ様のほうで、ふとみ工場の拡張工事が計画されたことを契機に、当別町は第6次総合計画において新しいまちの顔として新駅を作り、地方創成を図りたいという考えに至りました。そのような流れがあって、ロイズ様と当別町が一緒となり、JR北海道へ請願したというわけです」(同)
だがJR北海道は相次ぐ赤字により、業績が良いとは言えない状況だ。今年6月3日に発表された区間別収支によると、JR北海道は全21区間で営業赤字となっている。こうした数字を踏まえると、JR北海道が難色を示す可能性もあったように感じる。
「ところが、話し合いは非常にスムーズに進んだんです。むしろJR北海道様側の担当者さんも、我々と同じぐらいの熱量で開業に向けて取り組んでくださいました。JR北海道様としても、収益の見込める路線の確保は行いたかったのではないでしょうか。今回の新駅開業は三者ともにメリットのある事業だったと自負しております」(同)
地元を盛り上げたいという当別町の思いと、理想のまちづくりを掲げるロイズ、そして収益を確保したいJR北海道、全員がWin-Winの関係で駅を開業できたということか。官民連携のプロジェクトにおける、お手本のような成功例といえるかもしれない。
開業が大幅に遅れていた可能性も
ただタイミングが合わなければ、ロイズタウン駅の開業は難しかったかもしれないという。
「2023年3月に札幌市の隣町・北広島市に野球場『ES CON FIELD HOKKAIDO』がオープン予定なんです。北海道日本ハムファイターズの新本拠地となる同球場には、2028年に直結型の駅『北海道ボールパーク駅』が設置される運びになっています。そのため、1、2年でもタイミングが合わなかったら、ロイズタウン駅は実現していなかったかもしれません」(同)
JR北海道が北海道ボールパーク駅の設置を計画したのが2019年12月11日、北広島市の請願が2020年7月6日。対して、当別町とロイズが請願したのは2020年1月17日である。
北海道ボールパーク駅の総工費は約80~90億円。予算や規模、予想利用客数がまるで異なる駅同士のため、もしロイズタウン駅の請願が遅れていたら、北海道ボールパーク駅の工事が優先されていた可能性もあるだろう。
では、現時点で懸念材料や課題はあるのだろうか。
「ロイズタウン駅は近くに商業施設がなく、ショッピングをするのであれば隣駅の太美駅まで行かなくてはいけません。ですから今後は民間資本を呼び込んでいきたいのですが、当別町は田園風景が広がる農業が主産業の町なので、急に方向転換するのも難しいです。息がしやすい町を守ることに加え、景観をそぐわないように企業を誘致していくことが課題だと考えています」(同)
最後に担当者は、ロイズタウン駅を通して、当別町の魅力を知ってほしいと話した。
「当別町としては、町の財政状況が苦しいなかで、このように官民連携の事業ができたことは、実に喜ばしいことでした。ただ、ロイズタウン駅に注目が集まっている今だからこそ、今後どう発展させていくかが重要だと感じています。札幌駅から電車で30分ほどの位置にある当駅を訪れて、当別町に遊びに来る方が増えることを願って、今後のまちづくりに尽力していく所存です」(同)
ロイズの工場があり、緑豊かな風景が広がる当別町は絶好の観光スポットだ。今後のさらなる発展に期待したい。
(取材・文=文月/A4studio)