
最近、日本製鉄は事業運営体制の変革を加速度的に進めている。その一つとして注目されるのは、新しい車載用のバッテリーなどとして利用が期待される全固体電池関連の事業だ。特に、日本製鉄は全固体電池分野での分業体制の加速を念頭に置いているとみられる。製造コストの高さや世界標準の技術規格の確立など、全固体電池の普及には解決されなければならない課題が多い。その状況下、日本製鉄は全固体電池の製造や利用に関するデータを蓄積して新しいサプライチェーンを確立し、高い成長につなげようとしている。
現在、世界経済の後退懸念は高まっている。最大の鉄鋼製品消費国である中国では、経済成長率の低下傾向は一段と鮮明だ。中国の過剰鉄鋼生産能力も加わり、世界的に鉄鋼、非鉄関連製品の価格にはさらに強い下押し圧力が加わる展開が懸念される。それに加えて、日本製鉄は脱炭素に対応するために水素製鉄など新しい製鉄技術の確立も急がなければならない。日本製鉄にとって収益源多角化は急務といえる。そのための一つの取り組みとして、どのように日本製鉄が国内外の企業と連携して全固体電池のサプライチェーンを確立して付加価値の創出に取り組むかが注目される。
日本製鉄が徹底して取り組む固定費圧縮
過去10年程度の間、日本製鉄は徹底して事業運営の効率性の向上に取り組んだ。2016年度ごろからその成果は徐々に発現し始めた。2016年度に1,309億円だった同社(当時の社名は新日鐵住金)の純利益は徐々に増加した。新型コロナウイルスの感染発生によって世界経済が一時大混乱に陥った2019、20年度は最終赤字に陥ったものの、2021年度の純利益は6,373億円と大きく増加した。昨年度の収益増加は一過性のものというよりも、同社が不退転の決意で徹底して固定費圧縮に取り組んだ成果といえる。固定費を削減するために、日本製鉄は国内で運営してきた高炉の休止などを加速した。
日本製鉄のように高炉を持つ一貫製鉄会社にとって、高炉の運営は生産能力の維持と強化に欠かせない。ただし、高炉の維持と管理には付随施設を含め数千億~1兆円程度の設備投資が必要であるといわれている。2021年度、日本製鉄は4,074億円の設備投資と3,306億円の減価償却費を負担した。主要産業の中でも高炉を持つ一貫製鉄会社が負担する固定費は大きい。そうした特性から、過去、世界の鉄鋼需要が減少すると日本製鉄の最終利益は大きく減少し、状況によっては赤字に陥った。それに加えて、いったん高炉に火を入れると、操業が休止するまで高炉の保守を続けなければならない。