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長谷十三「言わぬが花、をあえて言う。」

船橋屋・社長、3千万円の「ベントレー」乗り回し、従業員は最低賃金スレスレ

文=長谷十三
船橋屋・社長、3千万円の「ベントレー」乗り回し、従業員は最低賃金スレスレの画像1
船橋屋のHPより

 先日、江戸時代から続く老舗和菓子店「船橋屋」が大炎上した。8代目当主だった渡辺雅司社長が信号無視をして接触事故を起こしたうえに、事故相手に「どっからお前出てきてんだ、この野郎!」とヤクザ顔負けの恫喝をしている映像が、暴露系YouTuberとして知られる滝沢ガレソ氏によって公表されてしまったのだ。

 船橋屋は1805年創業の老舗で、創業家の渡辺氏は大学卒業後、銀行勤務を経て1993年に入社。2008年に8代目当主に就任するとさまざまな改革を行い業績を向上させ、さらに10年には「くず餅乳酸菌」を発見。多様な商品開発を推し進めて、『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)などメディアでも多数取り上げられた。

 そんな「やり手経営者」の大炎上を受けて、船橋屋には批判や苦情が殺到した。同社も迅速に謝罪コメントを出して、渡辺社長の100%過失で相手に対して謝罪や保険金を支払ったと火消しに奔走した。しかし、炎上はおさまらず、最終的に渡辺氏は辞任に追い込まれて、長く渡辺氏の片腕として仕えていた神山恭子執行役員が社長に就任した。

 しかし、これで幕引きとはならず、「火種」はくすぶっている。創業家である渡辺氏はいまだに「船橋屋」の大株主であり、神山社長を傀儡にして「院政」を行うのではないかといわれているのだ。

「神山さんは33歳の時に、渡辺さんが始めた“社員総選挙”という新制度で執行役員に大抜擢されたということもあって、渡辺さんに頭が上がりません。渡辺さんも彼女が新卒で入社した時から目をかけてかわいがっていた。そういう両者の関係を知っている取引先などは、神山さんが社長になっても実質的には渡辺社長の経営が続くと見ています」(船橋屋の取引先)

 つまり、この炎上で一気にネガティブイメージがついている渡辺氏が、実はまだ経営に携わっているということが内部からの告発などで明らかになってしまったら「再炎上」の恐れもあるのだ。

 また、実はこの映像が最初にSNS上にアップされたのは9月8日であり、その翌日にはネット上で渡辺氏であることは特定されていたが、滝沢ガレソ氏が暴露するまでそれほど大きな話題になっていなかったことから、船橋屋側が逆SEO対策などでモミ消し工作をしていたのではないかという指摘もある。

 さらに、滝沢氏のもとには渡辺氏のことが嫌で辞めたという元社員や渡辺氏の知人などから、従業員に対する恫喝やパワハラ、さらには不倫疑惑など多数のタレコミが寄せられており、それも滝沢氏によって「暴露」されている。

「イケている中小企業」の代表的な存在

 そのように、まだまだキナ臭いにおいが漂っている船橋屋の炎上騒動だが、実はまったく別の方向からも注目を集めている。

 それは、渡辺氏が事故を起こした際に乗っていた「ベントレー」だ。映像を見る限り、これはベントレーのスポーツタイプ「コンチネンタルGTマリナー」で価格は3000万円以上という超高級車だ。そこで多くのネットユーザーが抱いたのは、船橋屋は社長がこんな高級外車を乗り回せるほど儲かっているのかという違和感だ。

 船橋屋HPの会社概要を見ると、社員数は「300人」で資本金は「5000万円」とある。中小企業基本法の「製造業その他」の定義では「中小企業」だ。その一方で、同社は大丸東京店、小田急百貨店新宿店など都内の有名百貨店に店舗もあり、広尾にはおしゃれなカフェ、表参道にはスイーツを扱う店など幅広く展開。オンラインショップでは、くず餅以外にも、健康食品やサプリメントまで販売するなどかなり活況だ。まさしく「イケている中小企業」の代表的な存在だった。

 そのように聞くと、3000万円の高級車くらいポンと買えそうだが、現場の従業員の待遇を見ると、まったく異なる印象となる。求人サイト「女の転職type」に掲載された「船橋屋」の求人を見ると、「販売スタッフ(店長候補)」は「月給25〜30万円」。「こうとう若者・女性しごとセンター」に掲載された「くず餅製造・正社員」には「月給22〜25万」とある。

 和菓子店としてはそこまで低いわけではないが、「高給」とはいいがたい。少なくとも、10年間マジメに働いたところでベントレーを購入できるような感じではない。しかも、「タウンワーク」に掲載された小田急百貨店内の店舗の販売スタッフは「時給1100円〜」である。東京都の最低賃金よりも高いが、他の業績のいい企業に比べると見劣りする。例えば、こだわりのサラダを販売する「RF1」の京王百貨店新宿店内の店舗の販売スタッフは「時給1350円」となっている。

日本の中小企業の構造的な問題

 創業社長は3000万円のベントレーを乗り回して、現場のスタッフは最低賃金スレスレで働く――。実はこの構図は「船橋屋」だけではなく、日本の中小企業の構造的な問題だと、多くの中小企業を顧客にもつ経営コンサルタントはいう。

「上場している大企業と違って、中小企業は会社のキャッシュフロー計算書など経営上の細かい数字を公開する義務はありませんので、会社を私物化する経営者が多いのも事実です。特に、株を握っている創業家のオーナー社長は、ほとんど経営にタッチしていない自分の親や妻を役員にして高額な報酬を払ったり、高級車を社用車扱いにして、それを従業員に隠しているようなケースも少なくありません。しかも、そういう私物化する経営者に限って人件費にシビアで、従業員を最低賃金スレスレで働かせています。このような構造的な問題が、中小企業の低い労働生産性の原因だと指摘する専門家もいます」

「ベントレー」によって、この構造を多くの人が気づいた。あるTwitterユーザーの以下のようなコメントも注目を集めている。

<従業員は悪くないから、これからもくず餅を買い続けるという意見もありますが、従業員の年収は300万円ちょっとらしいので、くず餅買っても従業員には還元されずに社長のベントレー代になるだけなんですよね。同族企業だから、船橋屋の商品を買えば買うほど社長一族の私腹が肥えるだけですよね>(@hirari_chan1130 9月27日)

 自民党の支持団体のひとつである、中小企業の業界団体「日本商工会議所」は、最低賃金を引き上げることに反対している。中小企業の経営を圧迫させるというのが理由だが、それが詭弁であることを「ベントレー」が見事に浮かび上がらせた。

 日本経済の大問題を知らしめたという点では、渡辺氏はやはり「やり手経営者」だったということか。

(文=長谷十三)

長谷十三

長谷十三

フリーライター。政治・経済・企業・社会・メディアなど幅広い分野において取材・執筆活動を展開。

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