先月9日、消費者庁から景品表示法違反(おとり広告)で再発防止を求める措置命令を受けた「あきんどスシロー」が、今月13日から始まる予定だった「何杯飲んでも『生ビールジョッキ半額』キャンペーン」でお詫びを公表し、該当者には返金する事態になった。回転寿司業界トップのスシローで、なぜ2カ月連続でキャンペーンに関する不祥事が起きたのか、さらに景品表示法上は問題にならないのか検証しよう。
開始日が記載されていない期間限定キャンペーンは、告知とはいわない
事の発端は、SNS上での以下の画像入りの投稿だった。
「生ビールが何杯飲んでも半額だったから注文したが、会計時に半額になっていなかったので確認すると『予告であって今は実施していない』と言われ半額にされなかった。フェアの開始日が書いていないのに席に貼られていたら今実施中と思うのが普通では」
一般的にどのような予告・告知であっても、期間限定の場合、開始日と終了日を記載するのは当然のことだ。その理由は2つある。一つは、顧客が開始日のない広告を見た時に「もう始まっていたんだ。いつからだったのかな? もっと早く教えてくれていたら、初日に来たのになあ」といった不信感を抱かれるためだ。もう一つは、開始日を知らない従業員がそのポスターを見た時に「もう始まっていたんだ。すぐに店内に掲示しなければ」と、始まってもいないのに慌てて掲示をしてしまうためだ。
スシローは14日付の「お詫びと再発防止策等のお知らせ」で、「今回のキャンペーン告知物で、レーン上に流していた予告用の告知物には開始時期も明記していた」としている。つまり、開始日を記載する必要性を認識していたことになる。一方、15日のホームページ上の告知を見ると、すでに始まっているキャンペーンでは開始日が表示されているものと表示されていないものの2種類が掲載されている。2種類の広告をうまく使い分けることが常態化していたのかもしれないが、非常に危うい運用であり、かつ開始日を表示しないメリットはあまり感じられない。
8日付の「景品表示法違反に関するお詫びと対応策について」には、「具体的なキャンペーン設計、お客さまへの告知方法については、今後様々な方法を試行し、改善活動を継続的に実施してまいります」とあるが、もしもその試行が「開始日を記載しないキャンペーン告知」だったとしたら軽率だったといわざるを得ない。
掲示物以上に会計時の対応(危機管理対応)が事を大きくした
本社や本部側が「従業員には通知していたはずなのに」と思っても後の祭りである。そもそも、全従業員に会社の方針、行事等を周知徹底させるのは非常に難しい。朝礼や文書、メール一斉通信等で伝達する側は「通知をした」と思いこんでいても、全員が理解し記憶にとどめることはほぼない。規模が大きな会社になればなるほど徹底することは困難になる。
どんな企業であっても、そんなことは本社や本部、各部門長等は百も承知のはずだ。だからこそ、配布文書やポスターのような掲示物には、できるだけ誰からも誤解されないように表示をするのが鉄則なのだ。ましてや顧客などの外部に対する掲示物には細心の注意が払われる。
一方、企業の危機管理としては、「周知徹底していたはずなのに、それが上手く伝わらなかったことが往々にしてある」ので、トラブル事例を示してどう対処するかということまで通達していることが多い。失敗した時のマニュアルは、リスク管理としては必須である。ところが今回は、顧客から指摘を受けたのに「予告ですから」と、いかにもスシロー側には何の落ち度もなく、顧客が間違えただけというかたちで単なるクレーマー扱いをしてしまった。店の担当者は、開始時期が明示されていない掲示物であっても、しかも「予告」とも表示していないものであっても誤解を招くとは思ってもみなかったのだろう。
事前に「このポスターは予告です」と顧客に伝えるとか、会計時に「本社に問い合わせてみますから、しばらくお待ちください」といった対処をしていれば、SNSにアップされることもなかっただろう。今回の不祥事は、開始日を明示していないポスター以上に、会計時の対応(危機管理対応)が問題を大きくしてしまったのだ。
14日付の「お詫びと再発防止等のお知らせ」のなかで、原因の一つに「本部から指示のあった掲示のタイミングを対象店舗では遵守されていなかった」ことを挙げているが、15日現在、遵守していなかった店舗は39店舗に及んでいる。返金対応がどの程度の規模になるのか確認してみなければわからないが、前述のような対応をしていれば同じようなクレームが他の店舗ではあまり起きていない可能性もある。
キャンペーンの対応策を実施しているはずだった
スシローは、キャンペーン広告のリスクが非常に高いことを、先月のおとり広告問題で肝に銘じていたはずである。しかも8日付の「景品表示法違反に関するお詫びと対応策について」の一つに、広告制作及びその審査にかかわる体制の再整備として「適正な広告制作のためのガイドラインの作成、及びその徹底」がある。さらにキャンペーンのあり方の見直しとして「お客様のご期待に沿った商品のご提供ができる限り実現できるような期間設定、仕組みや方法の検討」とある。
しかも「キャンペーン内容を決定する会議には法務部門が参加し、法的視点からの確認を実施しております」とある。この会議では「開始日の記載がない広告が、開始日以前に掲示されたら問題が生じる」「開始日が表示されていない期間設定では、お客様のご期待に沿えない」という意見・指摘はなかったのだろうか。
結果的には、キャンペーンでの不祥事を2カ月続けて引き起こしてしまったことになる。今のところ法的問題は浮上していないが、お客様を再度来店させ返金をするという対応に迫られている。スシローブランドのイメージダウンは避けられないだろう。
外食産業や急成長企業に共通する体質
通常、従業員が数百人規模の企業であれば、ポスター等の掲示物に問題があると、誰かが気が付き、上司や本社、本部に指摘をすることがある。その時点でポスターの制作や配布を中止したり、万が一外部に出たとしても迅速に回収することで大きな問題にならずに済むこともある。
しかし外食産業の従業員ではパート・アルバイト社員や契約社員の比率が高い。一般企業と比べて入れ替わりも多いだろう。そのため、権限が本社や本部に集中しがちで、現場から意見や提案が出にくい体質がある。そういった体質の企業では、本社や本部の意向を周知徹底させることは並大抵ではない。
一方、一般企業と比べて、顧客と直接対応する従業員が非常に多く、一挙手一投足が顧客から監視されているといっても過言ではない。SNS時代である今は、情報が拡散されることにより、一つのクレームが大きなクレームと変貌する。企業が大きくなればなるほど、意思疎通の欠如による様々なリスクは高くなる。片時も息が抜けない厳しい業界だといえる。
消費者庁や公正取引委員会は面目丸つぶれ
スシローは前月におとり広告で消費者庁から以下の措置命令を受けている。
(1)表示した内容が景品表示法に違反するものだったことを一般消費者に周知徹底すること
(2)再発防止策を講じて、これを役員及び従業員に周知徹底すること
(3)今後、同様な表示を行わない
しかし、1カ月後に同じような不祥事が起きたということは、措置命令が何の効果もなかったということになる。同じ事業者が措置命令を受けた翌月に、再度同じような不祥事を起こしたという例は少ない。消費者庁と公正取引委員会は面目丸つぶれであり、措置命令が機能していなかったことを世間に知らしめたことになる。
スシローは、回転寿司業界のトップ企業である。どんな業界であれ、トップ企業は、業界の模範となるべき存在だ。今回の事案が景品表示法違反になるかどうかはわからないが、もしも返金を求める顧客が多かった場合は、誤解した消費者が多かった証拠になる。そうなった場合は、景品表示法違反に問われるおそれもある。
外食産業に限らず、キャンペーン販売を行う企業は数多くある。今やSNS全盛期ともいえる時代を迎えている。良いことも悪いことも瞬時に広がることは、どの企業も承知のはずだ。今後キャンペーンでの不祥事が起きると「どうしてスシローを教訓としなかったのか」と必ず批判を受けることになる。スシローは「3度目は許されない」と自覚しているだろうが、他の事業者も「他山の石」とすべきである。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)