客と店員が“ほぼ非接触&スムーズ”なスシロー、入口に店員と客が大混雑の「はま寿司」
政府は4月25日、東京都をはじめ4都府県を対象に3度目となる緊急事態宣言を発令した。感染予防の観点からやむを得ないとする声もある一方で、具体的な内容については異論が噴出している。特にたび重なる時短要請の対象となる飲食店に関して、業界団体である日本フードサービス協会は4月19日付で政府に以下要請を行った。
「外食産業は食のみならず国民生活を担うインフラ産業であり、仮にも飲食店に対し、休業要請、あるいは週末の休業要請が行われると、生活者に多大な影響を及ぼすため、休業要請は極力、避けていただくようお願いいたします。」
もっともな要請であると筆者は受け止める。新型コロナウイルス感染予防に対しては、多くの飲食店があらゆる対策を講じてきた。緊急事態宣言発令前であっても、まん延防止等重点措置が実施され、都内の飲食店は20時までの時短営業を余儀なくされてきた。チェーン店はいうまでもなく、個店であってもパーテーション等の予防措置を取り、工夫・苦心しながら営業を継続している。
4月中旬に筆者が東京・有楽町界隈をリサーチ中したところ、20時過ぎのコンビニ周辺に集まる人たちが以前より増加していた。宣言発令前の週末にニュース番組などで有楽町や新橋界隈の路上飲酒が取り上げられていたが、先に3月7日配信の連載記事でお伝えした事例であり、いまさらの感を覚えた。
同じ外食産業においても、きちんと対策を講じているチェーンや店舗がある一方で、なんら対策を講じることなく営業している業態(目に付くのはほぼ居酒屋業態)があることは、業界団体も頭の痛いところであろう。
4月26日に日本フードサービス協会が発表した3月度外食産業市場動向調査によると3月は緊急事態宣言が首都圏4都県で21日に解除され、市中への人出の回復がみられたものの、営業時間短縮要請は継続されたことから、全体売上は対前年比97.1%、コロナ禍の影響がなかった前々年比では80.4%と、依然として厳しい状況となった。とりわけ酒類提供の時間を制限されたパブ・居酒屋業態への打撃は大きく、売上は前年比60.3%、前々年比32.1%となった。
居酒屋業態は旅行会社と同様に、社会的な役割を終えつつある業態だ。職場の飲み会や宴会など法人を中心とした需要は、コロナ禍にかかわらず、すでに終焉を迎えている。少しでも集客につなげるためにと「喫煙可能」な場所を提供したりと、予防対策をしていない居酒屋の存在は、感染予防を施しながら懸命に努力する飲食店からみれば甚だ迷惑でしかない。
スシローの配慮された仕組み
感染予防に対して非接触を徹底強化しているチェーンが好調だ。多くの識者も取り上げている「スシロー」は有楽町に続き新宿にも都市型店舗を出店し、多くの消費者に選ばれている。全店および既存店の前年同月対比実績によると、3月度は全店売上高127.2%、既存店同120.0%、既存店客数110.2%、既存店客単価109.0%となっている。昨年の3月は緊急事態宣言が初めて発令されたことにより大幅に客数を落としたが、今年の3月はようやく100%を超えることができた。
昨年は来店という母数自体が少なかったとはいえ、時短営業や不要不急の外出自粛などの影響にもかかわらず客数を伸ばすことができた。客単価は持ち帰りやデリバリーが奏功し、コロナ禍でも100%を上回る実績を上げていた。客数の伸長はコロナ禍にあって各社とも戦略上の命題であったといえるのではないだろうか。
スシローの強みは「アプリ利用顧客の確保・拡大・維持」に努めていることと筆者は感じる。たとえば、アプリを利用する顧客から見れば公平であるが、アプリを利用しない顧客からは不公平と揶揄されそうな客席予約の仕組み。店舗で順番を待っているときに「申し訳ありません。ご案内の順番が前後します」というアナウンスにピンとくる消費者は少なくないだろう。
実は事前にアプリで座席の予約を行い30分以内に店舗にチェックインすると、このアナウンスが流れ、アプリ予約した顧客が優先して席に着くことができる仕組みになっている。店舗前で待つ来店客の誤解を招かないように、アプリ予約された番号は「お呼び出し済のお客様」に表示される。なかなか配慮された仕組みという印象を受けた。
チェックイン後の店内の流れは以下のとおりだ。発券機から自身の席番号が記されたシートを受け取り、座席に進む。座席にあるタブレットが番号を表示し待ち受けている。店舗スタッフに出会う機会は、最少で1回。食べ終わってから精算のボタンを押すと、お皿の数を数えるために現れ、会計時の札を手渡される。会計時もスタッフと接触することなく、自身の希望する精算方法で会計することが可能だ。オペレーション上の効率的な人員配置が実践されている印象を受ける。
4月26日「スシロー有楽町店」に開店時間に合わせて訪問した。すでに数人のお客が列をつくり、順番に店内に吸い込まれていった。カウンター席も空いている限り、一つ空けの着席となっていた。タブレットのドリンク類を検索すると、アルコール飲料の欄には枝豆とノンアルコールビールの表示しかなかった。今回の緊急事態宣言においては、アルコールの提供は事実上禁じられており、要請に沿った取り組みの結果と思える。
スシローの非接触の仕組みは、顧客にだけ利点があるわけではない。スタッフにとっても利便性は高いと想定される。なぜなら、ほとんどの業務が年齢や国籍を問わず誰でもできるようになっているからだ。
例えばキッチンにおいては、バックグラウンドであることから全員が熟練者である必要はない。注文された商品に応じて新人と熟練者が分担することが可能となる。客席とは衛生上仕切りで区分けされ、客からは見えないことも利点といえる。フォアグラウンドでもお皿を数える、お皿を片付ける、使用後の客席を消毒するというように業務を小分けすることができ、対応する人材の幅はより広がる。
高齢者や外国人材の活用の面で外食業には避けて通ることのできない課題が存在するが、スシローの採用している非接触を中心とするオペレーションは、ある程度それらの課題をクリアできていると感じた。
客が他店に流れる「はま寿司」
同じ回転寿司業態では、オペレーションが残念なチェーンも実は存在する。特にポンコツと感じた「はま寿司スーパービバホーム豊洲店」を例に紹介しよう。同店舗はアプリ予約を受け付けしていない店舗だ(筆者追記:5/28現在アプリ予約は可能になっています)。画像にあるとおり、予約番号を読み上げる専任のスタッフが1名、客席に案内するスタッフが1名、会計を担当するスタッフが1名と、店舗入り口に3人が重なっている場面をよく見かける。
番号を読み上げるスタッフの業務は忙しい。予約の順番に番号札を読み上げるだけでなく、番号を呼び出ししたものの客が不在だった番号も順次読み上げている。週末になると、同店舗の入り口には大勢の客が待っている。
過日訪問した時には、順番が来た時に通知されるショートメッセージの機能も故障中だった。場所柄、子どもを連れて来店する客も多いが、待合場所や座席数が少ないことも災いし、待ち切れずに他店に流れる家族や、泣き出した子どもの手を引いて駐車場に向かう家族も多く見られた。その間もカウンターでは呼び出しを担当するスタッフが、いなくなった客の番号も含めて何回も呼び出していたことは言うまでもない。
客目線で考えると、例えば、待ちきれずにやむなく帰宅する客から番号札を回収するなどのひと工夫を加えることで、今のシステムのまま、もう少し「お客様の心に寄り添った対応」ができるのではないかと感じた。はま寿司も非接触の取り組みを推進している一つの会社であるが、その仕組みが客だけでなくスタッフにも利便性が高くなければ浸透していかないことだろう。
もともとは東京オリンピック・パラリンピックに外国から来訪する客に向け、タッチパネルの多言語化や決済手段の多様化が推進されてきた。今では感染予防の面でも非接触が大きなトレンドとなっている。「これから数年はコロナと共存だ」という覚悟を持ち、あらゆる可能性に挑戦する姿勢が、特に外食業には求められる。
筆者は4月21~23日に東京で開催された業務用「食」の見本市「ファベックス2021」に参加し、これからのテイクアウト戦略のカギになりそうな「容器」をいくつか発見した。次回は、テイクアウトの可能性拡大という観点から容器にフォーカスしてお届けしたい。