マクドナルドとサイゼリヤは客に愛される…一方はま寿司は客の不満を解消しない?
新型コロナウイルス感染拡大に伴い首都圏(1都3県)に出ている緊急事態宣言の期限(3月7日)が、2週間程度延長されることとなった。もし宣言が解除されれば、営業時間短縮を余儀なくされていた飲食店からは安堵の声が聞こえてきそうだが、すぐにコロナが収束するという状況ではない。
人々の外出自粛と飲食店の時短営業が効果を発揮しているという報道もあるが、飲食店や地域住民の努力によるところが大きい。時短営業が緩和されることにより、安心できる環境・場所にさまざまな世代が集うことが期待される。
ある日の東京・有楽町界隈をリサーチした。19時になると慌ててアルコール飲料の看板を片付ける店員を多く見かけた。そして20時には店舗自体の看板を下ろし閉店を迎える。特措法の改正に伴い時短営業を厳守しようと努力する飲食店は忙しい。ガード下の牛丼店も閉店15分前には「ラストオーダーです」と店員が店先に立ち説明している。
「さて20時過ぎの居場所は?」とあたりを見回すと、新しい発見があった。有楽町駅前のコンビニ前で、アルコール飲料を片手に煙草をくわえながら談笑する若者の集団を見た。付近には会社員の姿も多く見られた。飲食店から追い出された人たちと見受けられる。受け皿がなく一方的に居場所を喪失した人たち、仕事が終わったものの飲食店の時短営業のために食事する場所を失った人たち、理由はさまざまであろう。
緊急事態宣言の発令により時短営業という目的は達成されたが、不要不急の外出自粛はどうやら達成していないようだ。路上で談笑する多くの住民の存在は、決して感染予防につながっていないと感じる。宣言が解除された後は、予防対策が施された飲食店内で談笑してほしいと筆者は切に願う。
議論はあるが、宣言解除後の飲食店について、(もし段階的な解除とするならば)まず“おひとりさま”の個食を解禁としてはどうだろうか。個食であれば、比較的黙食と思われる。例えばガード下の牛丼チェーンは、語り合いながら食事する居場所というよりは個食の集まる居場所と感じる。
医療の専門家から指摘されているとおり、食べるときだけマスクを外すという行為は、触り方(触れる場所)によっては感染リスクの高いマスク表面に触れる恐れがあり、推奨されるものではない。そのため「個食かつ黙食」という食事スタイルであれば、短い時間で食事を済ませることができ、感染予防の効果も期待できるのではないだろうか。
ファストフードは順調に回復
25日に発表された日本フードサービス協会の月次報告によれば、1月度の売上高は前年同月比でファストフードは98.6%、ファミリーレストランは65.4%となっている。客単価はファストフードは111.7%、ファミレスは103.3%である。時短営業や外出自粛のなかで業態による実績数値の開きがより顕著となってきた様子だ。
ファミレスがテイクアウトやデリバリー強化に全力を注いでいる傍ら、ファストフードは順調に店内飲食が回復しているという印象を受ける。
1月下旬と2月下旬、朝にマクドナルドの店舗を実際に訪問(利用)して比較してみると、朝マックの利用者、デリバリーは増えていると実感できる。デリバリー担当クルーが忙しそうに出たり入ったりする姿を見ると、利用件数の多さが推測できる。イートイン対応として店舗側も机の除菌作業などを手早く実施し、来店する顧客に安心を届けている。
お店には迷惑だったかもしれないが、筆者は時間をかけて店内の様子やお客の動向をじっくりと観察させていただいている。いつも来店するリピーターの数は外出自粛、コロナ禍であっても日に日に増えてきているという印象だ。昨年春には各店舗でよく見かけたソーシャルディスタンスの丸いマークは、感染予防のアクリル板が設置完了した店舗から、順次姿を消していった。利用可能な席数が増えるにつれ、利用する客数も比例して増えていき、日本マクドナルドの実績は堅調に回復基調にあることがわかる。
月次報告を見る限り、ファストフード、ファミレスともに客単価が増えていることは、外食自体の回数は減少しているものの消費意欲は衰えていないことの証左ではないだろうか。
2月28日昼時、中野駅前のケンタッキーフライドチキン(KFC)は店の外まで行列ができていた。距離を保って並んでいるため、結果として店の外まで列ができたと想定される。折りしも同社の通年キャンペーンのひとつである「とりの日(28日)」に重なったわけだが、消費者は安心して外食を利用できる機会や居場所を求めていることがわかる。
先日、ディナー時間帯に訪問したイタリアワイン&カフェレストラン「サイゼリヤ」の スーパービバホーム豊洲店。同フロアに所在する「はま寿司」の来店客待ちオペレーションがポンコツすぎて、笑ってしまうくらい、どんどんお客が他店に流れている。サイゼリヤは9割近くの座席が埋まっている時間帯であるが、店員が声を出しながら笑顔で接客している。見ていてとても気持ちの良い対応だ。このはま寿司は、ネット予約対象外の店舗であり、ショートメッセージによる呼び出しも番号が押せないため登録できず機能していない。過日訪問したスシローの客待ちの仕組みとは真逆の対応と感じた。
はま寿司の店内はいつもお客で混んでいるため、営業上はよい成績を残していると想定される。一方で待ちきれずに他店に流れた逸失顧客数は来店者数を超えるくらい多いという印象を受ける。なぜなら、呼び出しても不在だった番号の表示欄は常に画面いっぱいだったからだ。来店し着席できなかったお客の不満を解消する気概は、この店にはまったくといってよいほど感じられなかった。はま寿司の“残念度MAX”な出来事は次の機会に紹介したいと思う。こだわりは企業の自由であるが、消費者の目線をまったく意識しようとしないゼンショーグループの姿勢を改めて感じた。
気持ちの良い接遇を上で受けたサイゼリヤだが、先日、残念な事件が起きた。ある店舗にヘルプで入った店長が窃盗を行ったのだ。だが、悪いのは店長自身であり、会社自体の問題ではないと、筆者は別の店舗を訪れて改めて感じた。その店舗は地域で愛されており、それゆえコロナ禍であっても営業を継続し、多くのお客が利用している。
「お客様に愛される」という要素は、どんな産業においても不可欠なものだ。サイゼリヤはチェーンの店舗だが、いつも気持ち良く利用させてもらえることに心から感謝したい。
フードアナリストは、単に「この店がうまい」などと評価する仕事ではなく、グルメ関連の公的な資格でもない。消費者の目線で、がんばっている飲食店やチェーンを応援する役割を担っている。飲食店が実際にどのような取り組みを実践しているかを、正しく伝えるメディアとしての側面を持っており、今の時代においてあるべき立ち位置ではないかと感じている。
(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)