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重盛高雄「謎解き?外食が100倍面白くなる話」

「かつや」店舗を訪問して「快進撃は止まらない」と実感した理由…大戸屋と真逆の風景

写真・文=重盛高雄/フードアナリスト

「かつや」店舗を訪問して「快進撃は止まらない」と実感した理由…大戸屋と真逆の風景の画像1

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、特に外食チェーンは大きな打撃を受けている。業態転換や店舗閉鎖のニュースを耳にすることで、イメージが先行し消費者の外食マインドはより冷えることだろう。

 もっとも居酒屋業態が不振なのは感染拡大が原因ではなく、飲食・生活スタイルの変化に追いつけなかったことが大きな原因と誰もが知っている。業態転換もいまさらの印象を受ける消費者も多いのではないだろうか。仕事が終わってから会社の仲間と飲みに行く、上司の昔話や過去の自慢話を聞きたい、と思う若年世代はそう多くない。このあたりについては多くの識者が“居酒屋談義”を重ねているため、今回は見送るとする。

かつや」の快進撃はコロナ禍にあっても阻害されることはなかった。お客様が足を運ぶ理由はどこにあるのだろうか? たとえば高級といわれる料亭などにおいては当然ながら作法があり、お客様が従う、または合わせる必要がある。「かつや」はどうだろうか。

「かつや」はお客様に合わせてくれる普段着の食堂ゆえに、気軽に立ち寄ることができる雰囲気を醸し出している。店内も明るく、女性でも入りやすい。今では消費者に寄り添う優等生のチェーンであるが、実は昨年まで消費者にやさしくない仕組みが存在した。それは決済手段が現金のみであったこと。電子マネーやスマホ決済が普及した今でも、「かつや」はひたすら現金決済を貫いていたのだ。

 100円割引券の存在や相対的なお得感の強さから、「かつや」ファンの多くは決済手段が限定されていることに異議を唱えず容認していた。姿勢が変わったのは消費増税に伴うキャッシュレス還元、そして次年度に控えた東京オリンピック・パラリンピックの存在。そして人手不足に伴う外国人財の活用も背景にあったのではないかと感じる。

 2019年8月に新橋駅前にある「かつや」を訪問した際、私は大きな衝撃を受けた。多様な決済手段が可能になっていたのだ。同時期に訪問した田町店ではようやく交通系ICカードで支払いができるようになり、進化したなと感じていた矢先のことである。店舗による対応の違いも「かつや」ではあり、と感じた。

「かつや」は1998年に一号店をオープンし、今では店舗展開している。売り上げも比較的好調だ。2019年10月は消費増税もあり9月の駆け込み需要の反動で、売り上げを落としているチェーンも多い。「かつや」を傘下に収めるアークランドサービスホールディングスの20年10月の速報値を見ると、全店売上高は前年同月比129.4%、19年10月は同103.5%であり、比較的堅調に推移している。

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オペレーションレベルの敷居の低さ

かつや」の強み、弱みを消費者の目線から評価してみる。「かつや」は外国人財で運営している店舗が多いことに気づく。ここではあえて人材ではなく人財と記載させていただくが、前述の新橋店や秋葉原店はほぼ全員が外国人財だ。日本人を配置せずに運営ができていることに、「かつや」のオペレーションレベルの敷居の低さを感じる。

 すかいらーくは2018年にマニュアル作成共有プラットフォームを採用し、紙のマニュアルから脱却を図った。紙のマニュアルは差し替えの手間や配布に時間がかかる。利便性の向上だけでなく、外国人スタッフ向けに調理手順などを教えるツールとして導入した。従来は空いた時間を使って店内で指導していた部分を、店外でも習得できるように作り込みされているという。いつでも最新の情報を入手できるだけでなく、調理手順を繰り返し視聴することで、スタッフのレベルアップも狙っている。また、教える立場の負担軽減も効果のひとつとしている。

 そういえば大戸屋・丸の内新東京ビル店に昨年訪問した時、日本人の店長らしき人が外国人スタッフに罵声を浴びせながら指導していたシーンを思い出した。それもお客様のいる前で。指導している場面をお客様に見せたかったのかもしれないが、おそらく逆の評価を得たことであろう。なぜなら多くのお客様が食事を済ませるとそそくさと店を出ていた。食事をする場所で居心地がよくなければ、どんなにおいしいお料理でも、おいしさは感じられない。おいしさはお店の雰囲気やスタッフの接遇次第で大きく変わる、と私は思っている。

 話を「かつや」に戻そう。新橋店は調理スペースが十分確保され、お客様からもスタッフの調理風景や動作を確認することができる。まるでステージを見ているようだ。スタッフがステージ上で演じている。いや、魅せている感覚を受ける。

 新橋店では人気商品のひとつであるとん汁もカウンターに近い場所に鍋が配置され、香りでもお客様を魅了している。もうひとつの強みは、期間限定商品である合い盛りシリーズの展開だ。多くのブログでも取り上げられるほどボリューム感を持っている。私のおすすめは合い盛り商品の定食である。どんぶりでは今にもどんぶりからこぼれんばかりのはみ出し状態で提供されるが、定食では見た目も麗しい食欲をそそる出来栄えを見せる。そして極めつけは汁ものとしてとん汁が提供される。ここも大きなポイント。 

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 揚げ物は自宅での調理や片付けも大変であることから、とんかつと唐揚げは外食や中食のボリュームゾーンとなっている。巣ごもり需要を反映して鉄板焼き系や圧力鍋系の調理家電販売が好調であると聞く。油を使わず高温熱風を使って揚げるノンオイルフライヤーも家庭用調理機器としてテレビ通販でよく目にするが、とんかつと唐揚げはやはり油調理で作るほうが人気であるし、なにより旨い。

家庭では絶対に再現不可能なレベル

 一方、弱みと想定されるものが合い盛りシリーズで展開されるボリューム感を前面に出した量の問題だ。そのためか店舗を訪問すると、年齢構成でいえば高齢者を見かけることが少ない。本当は高齢者にも食べてもらいたい肉料理のひとつなのだが、揚げ物であることや量目の点で控える高齢者層が多いのではないだろうか。私の両親も若いころは子供たちをダシに、とんかつを食べに出かけていたが、高齢になるとカロリー高や胃がもたれるといって敬遠している。

 近年デジタルクーポンが全盛の時代であるが、高齢者はデジタルが苦手の人が多い。紙のクーポンであることから、高齢者層の利便性は高いと感じる。

 10月16日から全店販売開始された「全力ご飯」は普通のチェーン店が値引きで訴求する戦略をとるなかで、定食価格プラス200円で3種類のご飯が楽しめる仕掛けとなっている。それもかなりボリュームアップして。「かつや」ファンの多い20から30代の男性客が喜ぶ設定となっている点も大きなポイントだ。コロナ禍にあって値下げキャンペーンを展開しているチェーンが多いなか、「かつや」の大胆な取り組みには興味津々だ。

 11月19日から販売された数量限定商品である「どっさりベーコンとチキンカツの合い盛り丼」は、翌日食べにいったが、すでに完売となっていた。15万食限定という初の食数限定の試みであったが、なんと1日で瞬間蒸発していた。話題性という面では、勝るものはないだろう。

 1000円以下の価格帯であっても消費者から選ばれる価値を持つ「かつや」。こだわりを実践する姿勢と、丁寧な店舗調理は家庭では絶対に再現不可能なレベル。まだまだ、「かつや」の快進撃は止まることはないなと、私は感じた。

(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)

重盛高雄/フードアナリスト

重盛高雄/フードアナリスト

ファストフード、外食産業に詳しいフードアナリストとしてニュース番組、雑誌等に出演多数。2017年はThe Economist誌(英国)に日本のファストフードに詳しいフードアナリストとしてインタビューを受ける。他にもBSスカパー「モノクラーベ」にて王将対決、牛丼チェーン対決にご意見番として出演。最近はファストフードを中心にwebニュース媒体において経営・ビジネスの観点からコラムの執筆を行っている。
フードアナリスト・プロモーション株式会社 重盛高雄プロフィール

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