大戸屋、店舗訪問で見えた客離れ&債務超過の原因…好調「かつや」との致命的な差
大戸屋ホールディングスは10日、9月末時点で14億9500万円の債務超過になったと発表した。不採算店舗の減損処理に伴い17億円を計上したことが響いたと報じられている。
4日に臨時の株主総会を開催し、旧経営陣を一掃したあとでのこの発表に、戦略的な印象操作を感じた大戸屋ファンも多かったのではないだろうか。
大戸屋のお家騒動に端を発した近年の騒動は、コロワイドグルーブによる買収劇をもって幕を閉じた。経営方針をめぐり敵対的な買収にまで発展し、結果として勝利を収めたコロワイドであるが、世間的な評判は決して良くない。旧経営陣にすべての責任を押し付けて、自分は会社を立て直す存在であることをことさらに強調する姿はあまり美しいものではない。
「店内調理へのこだわり」(大戸屋)と「セントラルキッチン利用」(コロワイド)をめぐる対立と世間ではみられているが、両者ともにコロナ禍における戦略は決して成功したとはいえない。
コロワイドは10日、2021年3月期第2四半期決算短信(連結)を発表。コロナ禍終息が見通せないなかで、業績への影響は大としている。
大戸屋の業績は4月以降、来店者数に正比例して売上高が減少している。客単価に大きなブレがないなかでの業績低迷は、イートイン以外の戦略が底支えになっていなかったことの証左だ。直近で発表のあった9月期では、既存店の売上高は前年同月比20.4%減、客数は20.0%減、客単価は0.5%減である。4~9月の上半期平均では売上高は前年同期比31.0%減、客数は30.0%減、客単価は1.4%減である。
ビジネス街の店舗では昼食時間帯に多くの弁当を並べて販売していたが、他業態の弁当や弁当業者の移動販売と重なり、結果を残すことは難しかった。大戸屋は路面店が少ないなかで、店舗前で販売するというデメリットもあったのかもしれない。
大戸屋最大の失敗は大きく2つあると、筆者は各店舗を回って感じた。
10月6日放送の『ガイアの夜明け』(テレビ東京)でも触れられていたが、新商品の試食は社長が行うという商品戦略(開発)が一つ目の失敗。大戸屋の原点・想いは「かあさん額」であり、お客様に喜んでもらう手作り料理である。ところが、商品開発の場面では社長が全商品を試食して評価しており、そこにお客の姿はない。社長に認められる料理をつくるために料理人が腕を振るうことに違和感を覚えた人は多かったのではないか。一軒しかない定食屋さんなら自然な姿かもしれないが、大戸屋の規模であれば不自然だ。
また、全国一律のレシピも疑問だ。コンビニのおでんでも地元の味を大切にして、出汁を変えていることは知られている。地域だけでなく客層によってもおいしいと感じる味は違う。
さらに大きな失敗は、みそ汁の味。昨年三田店に伺ったときに出されたみそ汁は、あの吉野家やすき家でよく見かける「みそ汁サーバー」でつくられたものだった。料理がどれほど心を込めてつくられたとしても、最初の一口は、まずみそ汁からという人は多いのではないだろうか。お箸を湿らせるためにみそ汁を一口すするという作法もある。確かに「みそ汁サーバー」にはアツアツで提供できるという利点もあるが、客層や天候、地域により調整されているのか疑問だ。その後、大戸屋に足を運ぶ機会は大幅に減少した。
汁ものにも手を抜かない「かつや」
一方、汁ものにも手を抜くことなく、快進撃を続けているチェーンが存在する。アークランドが運営する「かつや」だ。コロナ禍の1~6月期の既存店売上高は前年同期比98.2%。客数は90.0%だが、客単価は109.1%となっている。直近の10月を見ると既存店売上高は101.7%、客数は96.7%、客単価は105.2%と比較的堅調に推移している。
毎回配布される100円割引券が集客の秘訣という識者もいるが、私はそう感じない。実際店舗に訪問した際に観察していたが、会計時に割引券を使うお客は半数くらいだった。つまり約半数のお客は割引券なく来店し、食事している勘定になる。
「かつや」のとん汁はほぼ半数のお客が注文する人気の商品。調理場をよく見ると、鍋で温めている。材料はビニール袋に入っているが、店舗で最終調整している場面を見る。いや、あえて見せているのだろう。これが人気商品たるゆえんではないかと私は感じた。アツアツかつ具だくさんで提供される商品。
ブログなどで大盛であることや季節限定商品に関する書き込みが見られることも多いが、基本商品である「とんかつ」やとん汁を丁寧に調理していることが、お客のリピートを誘うのだろう。「かつや」については、また別の機会に紹介したいと思う。
(文=重盛高雄/フードアナリスト)