かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトの田辺公己社長が、はま寿司の営業秘密を不正に取得した不正競争防止法違反の疑いがあるとして、警視庁が逮捕状を取った。かっぱ寿司と「はま寿司」は同じ回転寿司業界で競合関係にあるが、かっぱ寿司の親会社コロワイドと、はま寿司の親会社ゼンショーホールディングス(HD)も大手外食企業としてライバル関係にあり、外食業界関係者の間では事件の成り行きが注目されている。
大手回転寿司チェーンのスシロー、はま寿司、くら寿司、かっぱ寿司のなかでひときわ苦戦を強いられているのが、業界4位(国内店舗数ベース)のかっぱ寿司だ。運営会社カッパ・クリエイトの2022年3月期決算は、前期に続いて経常利益は赤字。当初の会社予想では赤字幅が縮小する見通しだったが、ふたを開けてみれば前期比28.3%の減益、約19億円の経常赤字に沈んでいた。
カッパ社は21年3月期まで8期連続で前期比売上減が続き、勢いに乗る業界トップ、スシローとの格差は拡大。そんななか再建を託されたのが、今回逮捕された田辺社長だった。
成果が出初めていた田辺氏による経営
「すき家」などを運営するゼンショーHD取締役だった田辺氏は、20年11月にカッパ社の顧問に就任し、21年2月から社長を務めていた。報道によれば、田辺氏はゼンショーHDに在籍していた20年10月頃、つまりカッパ社顧問に就任する直前、ゼンショーHD子会社の「はま寿司」の仕入れ価格に関する情報などを外部に持ち出した疑いがあるという。警視庁は不正競争防止法違反容疑で田辺氏の逮捕状を取った模様だが、昨年7月にはカッパ社は、田辺氏が「はま寿司」から告訴されたと発表し、社内調査を行っていた。
「最近、かっぱ寿司自身がCMでも『最近かっぱがうまいらしい!』というキャッチコピーを打ち出しているように、SNS上でも『かっぱ寿司が美味しくなった』と話題になり、以前から定着していた『安かろう、マズかろう』というイメージが払拭され始めていた。そのタイミングでスシローの不祥事が続出し、6月には景品表示法違反(おとり広告)で消費者庁から措置命令を受けるなどして、客数と売上高がともに前年同月比減となる月が続き、このまま客離れが起こり、評判が上がっている『かっぱ寿司』に客が流れると予想されていた。
カッパ社は今期(23年3月期)は黒字転換の見通しとなっており、田辺氏が社長に就任して1年、着実に成果をあげているようにみえていたが、今回の事件はせっかく吹き始めた追い風を打ち消すものとなってしまった。
また、成果が出初めていた田辺氏による一連の施策が“『はま寿司』からパクったノウハウ”によるものだったという見方も広まってしまった。『寿司が美味しくなった』と評判を上げている『かっぱ寿司』だが、田辺氏が『はま寿司』から『かっぱ寿司』に持ち出した情報はまさに仕入れに関するものだったということなので、『はま寿司』から持ち出した情報を『かっぱ寿司』で直接的に利用していた可能性もあり、悪質性が高く、ゼンショーHDがマジギレするのは当然だろう。
もっとも、今回の事件はスシローのおとり広告のように、直接的に客に損を与えるような類のものではないし、寿司が安くて美味ければこれまでどおり客は足を運ぶだろうから、『かっぱ寿司』の業績への影響は限定的かもしれない」(外食業界関係者)
ちなみに「かっぱ寿司のクオリティ向上」については、9月24日付当サイト記事『「かっぱ寿司が美味しくなった」は本当?徹底検証…あえてサイドメニュー注力せず?』内でフードアナリストの重盛高雄氏も次のように評価していた。
「あくまで個人的な感想ですが、やはり以前よりも味のレベルが上がったように思えます。提供速度にこだわらずに美味しい状態で提供していることや、寿司として尖りのないニュートラルな味わい、漬けや炙りでごまかさずにネタの品質にこだわっていると感じますね」
ゼンショーとコロワイド
今回の事件をめぐっては、田辺氏の経歴も外食業界関係者の間で注目されているという。
田辺氏が「かっぱ寿司」に転じる前に取締役を務めていたゼンショーHDは、国内外食チェーントップの売上高を誇り、主軸の「すき家」に加え、近年は積極的な海外チェーンの買収による海外展開や、スーパー事業や介護事業の展開などで多角化を進めるなど、飽くなき成長を続けている。
その「すき家」といえば、14年に深夜のワンオペ勤務をはじめとする従業員の過酷な労働実態が発覚。全国で一時閉店する店舗が相次ぎ、約2000店舗(当時)のうち最大で123店舗が店を開けられない状態に。さらに深夜のワンオペを廃止した影響で、全店の約9割を占めていた24時間営業店のうち、実に約7割の店舗が24時間営業の休止に追い込まれた。
すき家の労働環境改善に関する第三者委員会が公表した報告書によれば、ゼンショーHDは12年度以降、時間外労働などで64通にも上る是正勧告書を労働基準監督署から受け取っており、恒常的に月500時間以上働いていた社員や、2週間帰宅できなかった社員がいたことなども明らかになった。
「すき家の運営は法令違反であることはもとより社員の生命、身体、精神に危険を及ぼす重大な状況に陥っていた」(第三者委の報告書より)
さらに今年1月にも早朝にワンオペ勤務中の女性が店内で死亡するという事件が起こるなど、労働環境の改善が進んでいないとの指摘もある。
一方、田辺氏が社長を務める「かっぱ寿司」の親会社コロワイドといえば、かつて社内報に以下の創業者で会長の蔵人金男氏の言葉が書かれていることが公になり、その企業体質に疑問の目が向けられることになったことは記憶に新しい。
「コロワイドが、レインズを買収して5年。未だに挨拶すら出来ない馬鹿が多すぎる。お父さん、お母さんに躾すらされた事がないのだろう。家庭が劣悪な条件で育ったのだろう。閑散とした家庭環境の中で育ったのか。蚊の無く様な声で●△×…挨拶。個人的に張り倒した輩が何人もいる」
「私が嫌いで、嫌悪感すら感じるのだろう。そのアホが、何故会社にいる?辞めて転職したらいいのに。この会社を買収時、面接をしなかった事が、一番の原因だろう。今更、その程度に私に逆らっても始まらない。所詮、コロワイドが買収した会社。生殺与奪の権は、私が握っている。さあ、今後どうする。どう生きて行くアホ共よ」
また、カッパ社は14年にコロワイドに買収されたが、17年には当時の大野健一社長が社長在任期間わずか11カ月で辞任。コロワイドの傘下入りしてから3年で4回目となる社長交代となったことが大きくニュースにもなった。
「コロワイド創業者の蔵人会長とゼンショー創業者の小川(賢太郎)会長は、裸一貫から一大外食チェーンを築き上げた人物だけに、自社や買収先の経営陣に対する徹底した成果主義には凄まじいものがある。その2人の下で役員を務め、さらに強烈なライバル同士であるゼンショーからコロワイドに情報を持ち出すという大胆不敵な行動をとった田辺社長とは、いったいどんな人物なのか興味深い。そんな恐ろしいことをする人がいるなど信じられないというのが率直な感想」(前出と別の外食業界関係者)
(文=Business Journal編集部)