外食大手のコロワイドは、居酒屋業態を中心に不採算店196店を閉店すると発表した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で業績が悪化したことを受け、大量閉店に踏み切る。
コロワイドは居酒屋「甘太郎」や焼肉店「牛角」など、さまざまな分野の外食店を展開する。新型コロナの感染拡大に伴う外出自粛や店舗の臨時休業、営業時間の短縮で業績が悪化していた。全業態の既存店売上高は3月が前年同月比27.6%減、4月が58.7%減と大きく落ち込んでいる。
2020年3月期の連結決算(国際会計基準)の最終損益は64億円の赤字(前期は6億3200万円の黒字)に転落した。新型コロナの影響による減収や閉店などによる減損損失の拡大が響いた。計上した減損損失は106億円(前期は48億円)で、将来的に収益性が低下すると予想される店舗も減損処理の対象にしたという。
売上高は3.7%減の2353億円だった。従来予想から226億円下振れした。このうち新型コロナの影響を68億円と見積もった。新型コロナ前から宴会需要の低迷で居酒屋が苦戦していたことも響いた。
コロワイドは1963年に創業。77年に居酒屋「甘太郎」を開店した。その後、関東地方を中心に出店を重ね、勢力を拡大した。そして2000年代から急拡大するが、その原動力となったのが、M&A(合併・買収)だ。02年に居酒屋「北海道」などを展開する平成フードサービスを買収したのを皮切りに、M&Aを駆使して事業を拡大した。05年に「ステーキ宮」など多様な外食業態を展開するアトムを子会社化。12年に焼き肉チェーン「牛角」などを展開するレインズインターナショナル(旧レックス・ホールディングス)を、14年に回転ずしチェーン「かっぱ寿司」を展開するカッパ・クリエイト(旧カッパ・クリエイトホールディングス)を、それぞれ子会社化した。
積極的なM&Aで事業拡大も、かっぱ寿司が足かせに
コロワイドが積極的なM&Aを実施するのは、スピーディーに事業を拡大するためだ。また、幅広い顧客層を取り込むほか、同一地域や同一ビルに複数の業態を集中的に出店する「多業態ドミナント戦略」を実施することも目的としている。そしてもうひとつ重要なのが、「居酒屋依存」から脱却することだ。若者のアルコール離れや、07年に飲酒運転に対する罰則が強化されて業績が悪化したことなどから、居酒屋依存の危うさが浮き彫りとなった。そのため、居酒屋以外の業態を持つ企業を次々とM&Aで取り込み、居酒屋依存からの脱却を図った。こうしたM&Aにより居酒屋売上高が全体に占める割合は低下しており、最近は20%台となっている。
M&Aを推進した背景には、スケールメリットを生かしたコスト削減の狙いもある。共通する食材の仕入れ価格を、安いほうの価格で統一することで仕入れ価格を低減できるほか、規模の大きさを武器に仕入れ価格のさらなる低減も期待できる。また、コロワイドが持つセントラルキッチン(集中調理施設)を活用することで、製造コストを抑えることもできる。それぞれの物流網を活用することで、物流コストも低減できる。本部コストの合理化も図れる。本部を一緒にするなどで本部の人員配置や賃料の面でコストを低減できるのだ。こうしたコスト削減効果も期待してM&Aを進めてきた。
こうしてコロワイドはM&Aを積極的に推進することで成長を果たしてきたわけだが、近年は成長に陰りが見えている。20年3月期まで2期連続で減収になるなど精彩を欠いているのだ。背景には、買収した企業の再生が進んでいないことがある。特に足を引っ張ったのが、かっぱ寿司だ。
「安かろう、まずかろう」という悪いイメージが定着し業績が低迷していたところを狙って、コロワイドが傘下に収めた。再建を果たすことで業績拡大を実現する狙いだった。だが、再建は思うように進んでいない。運営会社のカッパ・クリエイトは、20年3月期まで7期連続の減収が続いているほか、何度も最終赤字を計上している状況だ。
新型コロナの打撃も深刻
傘下の居酒屋の再生が実現できていないことも大きい。不採算店の閉店を進めるなどしてきたが、抜本的な改善には至っていない。居酒屋業態の19年4~9月期の既存店売上高は前年同期比1.4%減と、マイナス成長になっている。レストラン業態が1.8%増と成長していたのとは対照的だ。居酒屋業態の低迷は長らく続いており、さらなるてこ入れが求められていた。
こうしたさなかに新型コロナが直撃した。外食は大打撃を受けたわけだが、今後も当面は厳しい状況が続くだろう。コロワイドとしても、抜本的なてこ入れを実施していく必要があるが、不振が続いている居酒屋のてこ入れは最重要課題といえる。そのため、居酒屋業態を中心に196店もの大量閉店を断行する。
また、宴会需要が減少していることに対応するため、少人数での利用に対応するほか、個室感覚の客席を備えたり、退潮著しい総合居酒屋から勢いがある専門居酒屋への転換を加速させるなどして、消費者ニーズの変化に対応する考えだ。レストラン業態では、新型コロナの影響で需要が伸びている宅配やテイクアウトの機能を拡充させて、需要の取り込みを狙う。
新たに立ち上げた、各種施設に食事を提供する給食事業も推進していく。少子高齢化などを背景に、介護施設や病院などにおける給食市場が拡大傾向にあることから参入を決めた。19年12月に会社を設立し、20年1月に同事業を立ち上げた。すでに他社の社員食堂を手がけており、徐々に領域を広げていく考えだ。既存事業のてこ入れだけでなく、こうした新規事業にも乗り出し、攻めの経営も織り交ぜて事態の打開を目指す。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)