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アイシン、太陽電池にパラダイムシフトを起こす技術開発…再生エネが飛躍的発展

文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授
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アイシンのHPより

 アイシンが自動車部品以外の領域での取り組みを強化している。その一つとして、次世代太陽電池の本命として注目されるペロブスカイト型太陽電池関連事業がある。2025年にアイシンはペロブスカイト型太陽電池の実証実験を目指し、研究開発を加速している。なお、ペロブスカイト型太陽電池は日本で生み出されたエネルギー関連の技術であり、実用化に取り組む日本企業は多い。早期の量産体制の確立と日本の産業競争力向上のために、アイシンの役割期待は高まっている。

 その一方、中国では共産党政権が成長期待の高い分野の企業に補助金などを積極的に支給している。歩留まり向上に課題があるといわれているが、ペロブスカイト型太陽電池の量産に関して、日本が中国に追い越されているとの見方もあるようだ。インドなども次世代太陽電池の実用化を急いでいる。競争激化が予想されるなか、アイシンに求められることは、これまで以上に権限の委譲などを強化し、先端分野での新しいモノの創造を強化し続けることだ。

急速に変化するアイシンを取り巻く事業環境

 アイシンは、アイシン精機やアイシン・エィ・ダブリュなど複数のグループ会社が協力して主に自動車関連の部品を製造し、成長を遂げてきた。見方を変えると、アイシンはグループ各社に分散されたモノづくりの力を“すり合わせる”ことによって、世界的に競争力の高いトランスミッションなどを生み出し、すそ野の広い企業グループを構築した。ただし、リーマンショック後、徐々にそうした事業運営体制を維持することは難しくなった。特に、EVシフトの加速化によって自動車の製造に用いられる部品点数は減少する。それによって自動車生産は、すり合わせ型から、デジタル家電のような“ユニット組み立て型”に移行している。それに加えて、世界全体で脱炭素も加速している。

 2016年頃からアイシンは激変する事業環境に対応するために、グループ企業を統合し始めた。2016年にはアイシン精機とシロキ工業、2017年にはアイシン精機とアート金属工業が経営統合した。同年にはグループ企業各社の製造技術を集約するためにバーチャルカンパニー制も導入された。2020年にはカンパニー制に移行し、2021年4月にアイシン精機とアイシン・エィ・ダブリュは経営統合してグループの経営資源がアイシンに集約された。

 経営統合以降、アイシンの経営改革はさらに加速している。ファクトリー・オートメーション(FA)の推進など既存分野での生産性向上に加えて、EV向け素材の研究開発などを行うスタートアップ企業への出資、生産ラインの短縮化など、これまで以上に事業運営の効率性向上が徹底されている。

 ただし、そうした取り組みにもかかわらずアイシンの収益状況は厳しい。2022年4~6月期の最終損益は前年同期比53.0%減の216億円だった。車載用半導体の供給不足などによってトヨタグループ以外の自動車メーカーに対する製品納入が減少したことは大きかった。ウクライナ危機や中国経済の後退リスクの高まりなどによって、アイシンを取り巻く事業環境の不安定感は一段と高まる可能性が高い。2023年3月期の通期業績に関しても経営陣は減益を予想している。

非自動車分野の事業運営体制強化

 その状況下、アイシンは自動車部品以外の分野で事業運営体制を強化している。その一つに、ペロブスカイト型太陽電池の塗布技術の開発がある。ペロブスカイト型太陽電池は、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授が発明した次世代の太陽電池だ。シリコンを原材料とする既存の太陽電池は壊れにくい反面、曲げることができない。一方、ペロブスカイト型太陽電池はフィルムのような形状をしており、シールを張るようにして様々な場所に設置可能だ。

 製造工程は、まず、原料を含んだ溶液を金属酸化物の上に塗布し、ペロブスカイト結晶膜と呼ばれる薄い膜を形成する。その上にプラスの電気を集める層を形成することによってペロブスカイト型太陽電池は生産される。ただし、ペロブスカイト型太陽電池の生産には課題がある。特に、高い変換効率を実現する薄膜の形成技術は開発段階にあり、生産コストは依然として高い。環境負荷のより低い素材を用いたペロブスカイト型太陽電池の生産も課題であるようだ。

 アイシンは、ペロブスカイト型太陽電池の素材を均一に塗布する技術の向上に取り組み、収益源を多角化しようとしている。そのスプレー工法技術の実用化が実現すれば、住宅の屋根だけでなく外壁やドア、室内の壁などに太陽電池フィルムを張り付け、可視光線を用いた発電を増やすことができると期待される。ウェアラブルデバイスにフィルムを張り付けて、機器を使いながら発電や充電を行うことも当たり前になるかもしれない。それが現実のものとなれば、再生可能エネルギーの利用はさらに加速するだろう。その結果として、太陽光発電パネルの運搬や設置などにかかった総合的なコストは圧縮される可能性が高い。

 ペロブスカイト型太陽電池の成長期待の高さを背景に、中国では一部で量産が開始されている。しかし、均一な塗布の実現は難しいようだ。そのため、欠陥も多いと聞く。言い換えれば、アイシンによる高変換効率を可能にするペロブスカイト結晶膜の塗布技術の確立は、同社が新しい収益の柱を確立するための重要なチャンスになりうる。

注目集まる実証実験の前倒し

 今後の展開として注目されるのは、アイシンによる、より早期のペロブスカイト型太陽電池実証実験の開始だ。日本では、積水化学や東芝などがペロブスカイト型太陽電池の実用化を目指している。超高純度の半導体部材などの分野で高い競争力を発揮している日本企業も多い。アイシンの塗布技術の確立、それを用いた実証実験の早期実現は、日本の企業や研究機関の新しい取り組みが結合し、迅速、かつ、持続的な収益創出が目指される重要な契機になる可能性が高い。

 現在のアイシンには実証実験の計画を前倒しで進め、収益化を目指す力が備わっているはずだ。そう考える一つの要因に、美容機器市場への新規参入がある。9月1日、アイシンは「WINDSCELL(ウィンセル)」を発表した。ウィンセルは世界最小の微細な水粒子を肌に浸透させる装置だ。アイシンはグループ企業の経営資源を統合することによって、各組織に分散されてきた発想をより迅速に結合し、新しい需要を生み出す力を発揮しつつあると考えられる。美容機器という本業とは異なる分野での新商品開発は、素材レベルからアイシンが新しい取り組みを加速し、最終商品を生み出す力を向上させていることを示唆する。その上で新商品の投入が実現したことは、アイシン全体での権限移譲が加速していることも示唆する。

 世界経済では物価が高止まりしている。米国やユーロ圏などの中央銀行は、インフレ鎮静化のために金融引き締めを強化しなければならない。資金調達コストの増加や自動車需要の減少など、アイシンはより強い逆風に直面する恐れが高まっている。その一方、異常気象の深刻化によって、各国で発電源の多様化は急務だ。先行きの事業環境の厳しさは増すだろうが、アイシンにとって自動車部品以外の分野でビジネスチャンスは加速度的に増える可能性は高い。チャンスを確実に収益につなげるために、アイシン経営陣はこれまで以上に権限移譲などを強化すべきだ。それによって組織を構成する人々がより能動的に新しい発想の実現に取り組む展開が期待される。

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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