日本の家族に寄り添うことで絶大なる人気を博してきたトヨタ自動車「シエンタ」が、3代目になって登場。欧州車に酷似したデザインテイストで話題を呼んでいる。
ややトリッキーなデザインは、先代から受け継いだものだ。コンパクトなミニバンが増えたこで、ユーザーは個性を求めるようになった。「隣の車と同じでは嫌だ」といった差別化嗜好が進んだ。先代が、ハッと息をのむような斬新なデザインでデビューし、販売面での大成功の一助になった。3代目はその流れを汲んでいる。
といっても、先代が唯一無二の個性的デザインだったのに、新型はどこかフランス車を思わせる。ヨーロッパテイストが強調されているように思う。欧州車に酷似していることに抵抗を持つユーザーもおられようが、欧州的な個性を好む人には受け入れられるだろう。
搭載するエンジンは直列3気筒1.5リッター。トヨタ流ハイブリッドとガソリン仕様がラインナップする。駆動方式は2WDと4WD。3列シート(7人乗り)と2列シート(5人乗り)が揃う。
走行フィールは平凡なものだ。特にスポーティではないし、とびきり速いわけではない。日本の道にぴったりの、必要にして十分な動力性能と小高や乗り味に終始する。ただし、燃費は圧倒的だ。WLTC走行モード燃費低28.8lm/lを達成したというから驚きである。燃料タンク容量は40リッターだから、およそ1000kmを無給油で走破できる計算になる。アクアやヤリスのようなミニマムハッチではないことを考えれば、驚異的な高燃費なのだ。
だが、シエンタの最大の力点は走りではなく、内装の使い勝手にある。カップホルダーの位置や数、収納ポケットの広さや深さ、あるいは2列目と3列目のシートの格納やアレンジなどに知恵が感じられるのだ。
最大のライバル、ホンダ「フリード」も同様に人気であり、モデル末期であるにもかかわらず販売は好調だ。そのフリードもインテリアの使い勝手にはこだわっており、さまざまなアイデアが盛り込まれている。コンパクトミニバンを求める家族は、使い勝手に敏感なのだ。
たとえば、新型シエンタは、カップホルダーのサイズを丸から四角にすることで、紙パックのドリンクが収まるようにしている。縦に長い1リットルサイズも収容可能にしたのだ。もはや重箱の隅の世界である。
ただし、そのわずかな改良がユーザーに響くこともある。一般的には、ペットボトルタイプのドリンクが好まれる。口にしたのちにスクリューキャップでフタを閉め、持つ歩く必要があるからだ。だが、朝に事務所を出発したのちにお得意様周りを日課とする営業マンに視点を移すと合点がいく。一日をクルマの中で過ごすことがある営業マンには、安価な1リッター紙パックは都合がいいのだ。つまり、カップホルダーのわずかな細工が、新たな市場を開拓する可能性があるのである。
シエンタは、日本の家族に寄り添うコンパクトミニバンである。だが、これからは日本の営業マンに支持されるかもしれない。カップホルダーの形が多くを語る。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)