日産自動車「フェアレディZ」が、フルモデルチェンジを受けた。1969年に「S30型」として生を受けてから6代目となる。先代の「Z34型」のデビューが2008年だから、14年ぶりの全面刷新だ。
日本を代表する伝統的スポーツカーブランドであり、熱狂的なマニアが存在する。新型の登場があまりにも遅れたことが発端で、このまま53年の歴史を閉じてしまうのかとの噂もたった。
フロントマスクは初代S30型の面影を色濃く残す。明らかに原点回帰であり、当時の隆盛を知るシニア層のハートに響く。テールエンドは、バブルの申し子とされるZ32型を連想させる。「FairladyZ」のロゴも初代のもので、Cピラーのエンブレムも当時と同じだ。インテリアに目を転じても同様で、ダッシュボードとの3眼メーターは、初代フェアレディZで構築したレイアウトだ。堂々と潔いほど、歴代モデルのオマージュなのである。
それでいて、中身は最新である。搭載するエンジンは、「スカイライン400R」に搭載され高評価を得ていた「VR30DDTT」、V型6気筒3リッターツインターボであり、405馬力を発生。日産の北海道陸別テストコースでの試乗会で、その完成度の高さを確認している。フットワークも、いかにもバランスの良いFR駆動のそれで、スポーツカーらしい操縦安定性が際立つ。
ただし、マニアの間で囁かれている疑問がある。新型フェアレディZは、デザインも搭載するパワーユニットもすべて最新であり、まごうことなき新型であるにもかかわらず、「これはマイナーチェンジではないのか」といった声を耳にすることがあるのだ。
というのも、国土交通省登録の型式は「Z34型」。つまり、先代と共通なのだ。その理由は、先代のプラットフォームを流用しているからである。エンジンもデザインも刷新しているというのに、プラットフォームを共用したことで型式を受け継いだ。それが、フルモデルチェンジではなくマイナーチェンジ、いうならば“ビッグマイナーチェンジ”だと指摘する根拠だ。
これには“大人の事情”があるようだ。まっさらの新型の開発には、組織構築や予算確保など社内的な壁がある。型式認定を回避することで、さまざまな届出を省略できるという公的な理由がそれだ。新型フェアレディZの開発には多額のコストが投入されており、公的に環境性能や安全性が認められている。だから商品として一点の曇りもないのだが、型式名を継続したことがきっかけで、否定的な話が湧き上がったのである。
そもそも、フルモデルチェンジという概念が曖昧になりつつある。型式が新しくなれば、それはフルモデルチェンジであろう。だが、搭載するエンジンもプラットフォームも継続であるにもかかわらず、型式だけが新しくなったケースもある。
汎用性のあるプラットフォームを基本に、さまざまなボディをかぶせるのは、現代では一般的な開発手法だ。顔と形と型式は異なるとはいえ、中身はほとんど同じ“兄弟車”も少なくない。効率が重要視されたことで、ライバル企業とのアライアンスが進んだ。これによって、あっちのエンジンとこっちのプラットフォームを合体させて、そっちのブランドで売るという手法も少なくない。
一方、新型フェアレディZは80%のパーツを新設計しており、顔も形も異なる。プラットフォームと型式だけを踏襲したにすぎないのに、フルモデルチェンジか否かの論争に発展するのは、いささか滑稽である。
ただし、コアなファンを多く抱えるマニアからの、こんな声を耳にした。
「新型をなんて呼んだらいいのでしょうか」
クルママニアの間では、モデルの年代を特定するために、型式で呼ぶことがある。初代フェアレディZを、親しみを込めて「エスサンマル」と呼んでいる。Z32型フェアレディZは、「ゼットサンニイ」であり、先代のフェアレディZは「エスサンヨン」である。では新型は……。
そこだけが悩ましい。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)