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小林敦志「自動車大激変!」

高級セダンの殻を破った新型で、トヨタがあえて「クラウン」の名を残した理由

文=小林敦志/フリー編集記者
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「トヨタ クラウン | トヨタ自動車WEBサイト」より
トヨタ クラウン | トヨタ自動車WEBサイト」より

 前回、7月15日に正式デビューした16代目となるトヨタ新型「クラウン」について、クラウンの歴史や、フリート(ハイヤーやタクシー向け)販売に対する事実上切り捨てたかのような決断について述べた。

 また、16代目クラウンで忘れてはいけないのは、今までほぼ一貫してきた日本限定モデルに近い立ち位置ではなく、グローバルモデルへと変化していくということ。記者会見での発表によると、世界40カ国あまりで販売を展開していくとのことである。

 アメリカでも正式発表前から“チラ見せ”が行われていたようだし、そうなればアメリカはもちろん、世界一の市場である中国も当然ラインナップされてしかるべきと考えるのが一般的。事実、中国の自動車系ネットメディアを見ると、7月15日の発表直後から詳細に紹介しており、かなりクラウンで盛り上がっていた。さらに、中国国内でも年内に“クロスオーバー”が発表になるのではないかと報じていた。なんといっても、中国はかつてゼロクラウンを現地生産していたほど(クラウン史上、海外現地生産は初)、クラウンブランドが定着しているのである。

 グローバルモデルとなれば、16代目が4つのボディタイプを得たことも納得できる。しかし、過去も完全に国内オンリーの販売に徹してきたわけではない。初代からしばらくは対米輸出が行われていたし、かつて韓国でもノックダウン生産されていたことがある。当時、韓国の人の間でも日本人のようにクラウンに憧れていた人もいて、その後韓国でレクサスブランドを展開し始めた頃は、アメリカへ留学経験がありレクサスブランドを知っている若い世代のほか、クラウンに憧れていた世代もレクサス車を購入するケースが目立ち、市場は小さいものの比較的順調にブランド展開できたとも聞いている。

 かつては東南アジアでもクラウンは走っており、韓国同様に憧れの気持ちを持つ古い世代はいるようだ。また、中東へも輸出されていた時代があり、クラウンという車名は意外なほど世界で浸透しているのである。

高級セダンの殻を破ったトヨタの判断

 となると、今回のように高級セダンの殻を大きく破る方法以外にも、伝統的な日本のクラウンというものを追求して、“日本テイスト”の強いモデルで世界展開していく手段もあったように思えるが、トヨタは量販を大前提に考えて「16代目クラウン」という判断を下したものと推測する。

 今までの日本限定モデルであれば、おそらく今回の16代目クラウンは日本国内ではあえてクラウンとは名乗らずに、別車名で登場していたことだろう(つまり、クラウンは15代目で絶版となる)。仮に国内限定モデルとなるなら、セダンをやめて「アルファードSUV」や「アルファードクロス」(もしくは今のヴェルファイアを廃止してヴェルファイアと名乗る)などと、アルファード系の派生モデルにした方がよかったかもしれない。

 しかし、海外(特にアメリカと中国)市場での展開を考えれば、“クラウン”と名乗ることの意味が大きくなる。アメリカや中国ではフルサイズセダンとなる「アバロン」をラインナップしているが、クラウンは、このアバロンの後継モデルとしてラインナップを検討しているのではないかという話もある。

 ただ、中国市場に導入するのであれば、すでに「クラウンクルーガー」(一汽豊田/一汽トヨタ)というSUVがラインナップされているので(ヴェルファイアも「クラウン ヴェルファイア」と名乗っている)、こちらとの関係も気になるところである。

 アメリカも中国も、消費者は、たとえばBMWミニでも「5ドア」や「クロスオーバー(海外名カントリーマン)」を“イギリスのMINIブランド”として素直に受け入れている。日本では「やっぱり3ドアが本流」とか、「とうとう3ナンバーになってしまった」と嘆くぐらいならまだしも、BMWミニとそれまでのクラシックミニの間に明確な境界線を引く考えまであるようだが、アメリカや中国ではMINIブランドのクルマであればいいとしている。

 そのため、荒っぽい言い方をすれば、16代目クラウンが従来のイメージがまったくなく、SUVがラインナップされるなど革新的進化を遂げたとしても、クラウンと名乗っていればすんなり受け入れてもらえる可能性は十分高いのである。

 初代クラウンこそアメリカの販売では苦戦したが、その後しばらく対米輸出が行われていた。それでも長きにわたりアメリカではラインナップされてこなかったのだが、アメリカのクルマ好きから「日本にはクラウンという高級車があるんだろ」と聞かれたこともある、アメリカでは“知る人ぞ知るクルマ”であり、中国でも、改革開放経済の初期に企業経営などで成功した人はこぞって黒塗りのクラウンセダンに乗っていたこともあり、“伝説の高級車”的存在となっている。

 そのため、クラウンと名乗ることだけで、世間の注目を浴び、購買意欲を刺激する効果は絶大なものになると考えている。海外で売るためにも、日本でもあえてクラウンとして売らなければ意味がないのである(日本でもしっかり売っているという証拠作り?)。

新型クラウン、大ヒットが期待できる理由

 オジさん世代の筆者からすれば、まさに衝撃的なモデルチェンジを遂げたと思える16代目クラウン。しかし、不思議なことに、トヨタ車はデビュー当初は「大丈夫かなあ」と思えるぐらい革新的な変化を遂げたモデルでも、しばらくするとヒットモデルに大化けすることが珍しくない。セールスマンの努力など販売力も加わり、街なかでよく見かけるようになると、風景の一部として何の抵抗もなくなるのである。新型クラウンも、風景の一部になるほどヒットしてくれることを願うばかりである。

 トヨタ車以外でも、ヒットモデルの多くはデビュー直後には「大丈夫なのかなあ」と思われたモデルから生まれるともいわれているので、その存在が賛否両論になっていることを考えると、16代目クラウンも大ヒットモデルになるのではないかとの期待も持てる。

 ただし、そうはいっても、どこかに“クラウンらしさ”が残っていないと“名前負け”してしまう可能性もある。海外市場は別としても、少なくとも日本市場では今までタクシーやハイヤーとして大活躍しており、そのある意味“トラディショナル”なイメージが“固着”している人も多い。実際に乗ってみて“これでクラウンなの?”となったときに、作り手として理路整然と答えられるように理論武装しているか、もしくは“見かけはともかく、やっぱりクラウンだ”と思わせるものになっているのか。その答えは、実車を運転してみればわかるだろう。

 個人的には、後者の方を期待したい。70年近くも継続して同じ車名で販売してきたモデルは、世界的にも珍しい。それなのに、一貫した“クラウンらしさ”が継承されていないのは、なんともさびしい。そんな大げさなことでなくても、メーカーのこだわりとして、エンブレム以外でクルマとしての進化を邪魔しない部分で“らしさ”は残しておいてほしいものと考えている。

 さまざまなことを述べてきたが、真の評価は、やはり実車を運転するまでは確定しない。「見た目はどうも……」と思っても、いざ運転してみると、五感を大いに刺激するおもしろいクルマということもよくある。約70年の歴史を背負いながら、どこまでブレークスルーさせているのか、そしてクラウンらしさは残されているのか。実車に大いに触れ、運転して、車両そのものをじっくり評価できる日を楽しみに待ちたい。

 とりあえず、50代半ばとなる筆者や、筆者の周りの同世代のクルマ好きの間では「うーむ、なんともいえない」的な反応の人が大半の状況を考えると、16代目開発にあたってのトヨタの“目論見”は成功しているといえるようだ。

小林敦志/フリー編集記者

小林敦志/フリー編集記者

1967年北海道生まれ。新車ディーラーのセールスマンを社会人スタートとし、その後新車購入情報誌編集長などを経て2011年よりフリーとなる。

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