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清水和夫「21世紀の自動車大航海」(3月2日)

日本の自動車エンジン開発に歴史的転換 メーカー・国・大学一体研究で日本発交通革命へ

文=清水和夫/モータージャーナリスト、日本自動車研究所客員研究員
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日本の自動車エンジン開発に歴史的転換 メーカー・国・大学一体研究で日本発交通革命への画像1「Thinkstock」より
 昨年5月、国内の自動車メーカー8社が参加して、エンジンを共同で研究する「自動車用内燃機関技術研究組合」が発足した。アイス(AICE)と呼ばれる同組織は、トヨタ自動車、日産自動車、本田技術研究所、マツダ、富士重工業、三菱自動車工業、スズキ、ダイハツ工業の8社と日本自動車研究所によって立ち上げられ、その後、いすゞ自動車、産業技術総合研究所も参加した。アイスに関しては、すでに多くのメディアで取り上げられているため、ご存じの人も多いだろう。今回は、このアイスが発足した背景や、同時進行しているもうひとつの展開についてご紹介したい。

 日本の自動車メーカーはハイブリッド車では欧米のメーカーに先行したが、エンジンの基礎研究で欧州に後れていることが自動車技術会で話題になった。そこで、経済産業省がまとめ役となってアイスを発足させ、産学協同でエンジンを開発することになった。

 なぜ、産学協同なのだろうか。有力な自動車メーカーが多いドイツでは、自動車技術の基礎は産学が協同して研究するのが当たり前となっている。さらに、ロバート・ボッシュなどのメガサプライヤーも連携し、垣根を超えた「チーム・ジャーマン」で先進技術をリードしている。それが、ドイツ自動車産業の強さの秘密なのだ。

 一方、日本では昔からメーカーが独自で技術開発を行っており、エンジン開発はそれぞれが競争するべき領域という意識が強かった。しかし、若者のクルマ離れとリンクするように、大学でもエンジンを専門とする教授や学生が減りつつある問題がクローズアップされている。そこで、アイスでは大学を含めて基礎研究を協同で行い、将来の人材確保および育成も目的のひとつとなっている。事業費は年間10億円だが、半分の5億円は経産省から支援され、残りをメーカーで負担するかたちだ。

 しかし、ここでリポートしたいのは、もうひとつのエンジンの研究スキームである。それは安倍晋三首相直轄の、各省庁に横串を刺すSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)のひとつである、革新的燃焼技術を推進する計画のことだ。わかりやすくいえば、「日の丸エンジンが地球を救う計画」である。

 アイスは自動車メーカーと政府がスポンサーとなり、大学機関で研究されるが、日の丸エンジン計画は実際の研究チームを公募している。その技術的目的は、2020年までに熱効率50%のエンジンを実用化することだ。予算は文部科学省から捻出されるが、推進委員会は内閣府に置かれている。こう聞くと、アイスと日の丸エンジン計画はまるで二重行政ではないか、と思うかもしれない。しかし、アイスは実務的プロジェクトで人材育成という側面に主眼が置かれ、日の丸エンジン計画はもう少しアカデミックに、エンジンの基礎研究をする性格が強い。

 例えば、原子力技術でも、文科省が推し進めてきた「もんじゅ」と、経産省が監督する原子力発電があり、それぞれ異なる目的で実施されている。日の丸エンジン計画で推進委員会を内閣府に置いているのは、縦割り行政の無駄をなくす目的もあり、もんじゅのような排他的な計画にはならないのではないか。

 実は、筆者はSIPのひとつである「自動走行」ジャンルの推進委員を務めている。SIPの本音は、縦割り行政といわれてきた各省庁の壁を乗り越え、色々な技術分野で「チーム・ジャパン」を結成し、世界に打って出るというものである。自動走行に関しては、すでに会議が始まっており、一部の内容が公開されている。具体的には20年の東京オリンピックを一里塚として、自動走行(有人)を実現するという計画だ。ITS(高度道路交通システム)を駆使した交通システムが、いよいよ実用化の段階になるわけだ。

 環境に優しく、事故がない都市交通を東京から目指す。SIPによって日の丸エンジンと日の丸安全技術が革新的に進化すれば、日本の成長にもつながるというわけだ。エンジニアを目指す若い人は、今後SIPがどのように進捗するのか注目しておくといいだろう。
(文=清水和夫/モータージャーナリスト、日本自動車研究所客員研究員)

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