トヨタ自動車の4代目「ノア/ヴォクシー」が、新型になって登場した。基本コンセプトは“箱の追求”。ミドルサイズミニバンの王道を突き進むノア/ヴォクシーは、さらにスペース効率の理想を追い求めたのである。
ボディサイズは拡大、特に全幅が35mm拡大され1730mm。全高も70mmも高くなった。それによって居住空間は広くなったものの、5ナンバーから3ナンバーに移行。その数字に相応しい堂々としたボディを持つに至ったのである。
箱の追求は、細部にまで行き届いている。室内空間の拡大は乗員の圧迫感を和らげることに成功。Aピラーは細く、3角窓はワイドになり、乗員間に感覚的な余裕が生まれた。これまでミドルサイズのミニバンで少なからず感じた窮屈な印象が減ったのだ。
商用車でもあるまいし、これまでまで天井を高くしなくても人を運ぶには困らないはずなのだが、いざドライブしてみると想像以上の開放感に驚く。
それによって、税制上は3ナンバー扱いとなる。幅が広くなり天地にも伸びたことが、あるいは既存のユーザーから見放される可能性がある。駐車場や経済性など、日本ファミリーには課題があるからだ。
だが、それを承知でノア/ヴォクシーは拡大路線に駒を進めた。これが凶と出るか吉と出るかは時間が証明してくれるだろうが、最大のライバルであり手強いホンダ「ステップワゴン」が、時を同じくして新型にスイッチする。その商品性戦略の成否に興味が注がれる。
それはトヨタも承知のうえで、3ナンバー化に伴って車格感を増す道を選んだようだ。7人乗りの2列目には、クラス初のオットマン付きキャプテンシートを組み込んだ。シート間にはテーブルがある。シートにはUSBポートも準備されている。ビジネスエリートには都合が良い。リクライニング角度は深くなり、長距離移動も楽だろう。
ノア/ヴォクがアル/ヴェル化、吉と出るか凶と出るか
これまでノア/ヴォクシーは、主に家族の足として重宝されてきた節がある。親子二代、あるいは三代の家庭に、ちょうど頃合の良いサイズ感だった。それが格上げされたことを機に、より高級な路線にシフト。たとえば、「アルファード/ヴェルファイア」に迫るモデルとしたのである。
ボディの拡大は、使い勝手の良さに現れている。キャプテンシートは、そのままの位置でロングスライドが可能になった。これまではリアのタイヤハウスなどに干渉してしまうことから、一旦中央寄りに横スライドさせてから前後にスライドさせるという煩わしさが残った。だが新型は、その点でも使い勝手がいい。
3列目のからくりシートも細工が凝らされている。3列目の空間も格段に広くなり、長距離移動での苦痛を感じさせないが、折りたたみしやすいから荷室を確保するのも容易である。これまでのように引いたり倒したり、数々のレバーを順番通りに操作する必要はない。ひとつのレバーを引くだけで3列目が跳ね上がり固定される。これまでの10分の1以下の労力で格納できる点には感心させられた。
そもそも、左側のドアを開けると自動でステップが現れる。乗り降りにさえ、心憎い配慮がなされているのだ。
いわばミドルサイズミニバンで人気のノア/ヴォクシーの“アルファード/ヴェルファイア化”である。ショーファードリブン風な性格を纏ってノア/ヴォクシーは誕生した。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)