今回のEVの共同開発は、パナソニックがトヨタに呼びかけて実現した。共同開発が成功すれば、パナソニックは自動車メーカーの仲間入りを果たすことになる。
パナソニックは自動車関連事業を最重点分野に位置付け、2019年3月期までに売り上げを現在の倍の2兆円にすることを目標にしている。同社が扱っている自動車関連製品は、カーナビゲーション、カーオーディオのほか、自動車の横滑りの防止に使われる速度センサーやカメラモジュール、ETC(自動料金収受システム)端末などだ。環境対応車向けのリチウムイオン電池、車載充電システムも手がけている。これら自動車分野の売り上げは現在1兆円で、その内、カーナビとカーステレオが主力で3割強を占める。
13年3月に生産を停止したばかりの大阪府貝塚市にある電池工場で、再稼動の準備が進む。生産するのは円筒型リチウムイオン電池。この工場はパソコン向けの需要が低迷して閉鎖されたが、米国の電気自動車ベンチャー、テスラ・モーターズからの大量発注があり、息を吹き返した。
テスラには12年からの4年間にEV8万台分、約5~6億個のリチウムイオン電池を供給する契約だったが、米国自動車市場の活況を受けて、14年からの4年間に約20億個を供給する内容に変更した。テスラの量産型EV「モデルS」換算で25万台分に相当する。パナソニックのリチウムイオン電池の累計生産実績は45億個であり、新たな契約でこれまでの実績の半分近くを生産することになる。テスラ向けの電池を生産する住之江工場(大阪市)の増産体制を14年1月に完了させるほかに、貝塚工場を再稼動させる。外資系証券会社のアナリストは、リチウムイオン電池で4年間に7000億円の増収効果があると予測している。懸念される点としては、テスラのEV「モデルS」が13年10月以降、米国とメキシコで3件の発火事故を起こし、米運輸道路交通安全局(NHTSA)が調査に乗り出していることだろう。
●自動車事業、2兆円への戦略
パナソニックの津賀一宏社長は、自動車事業拡大に向けた戦略について、次のように語っている。
「現在の自動車分野をそのまま成長させていくだけでも、19年3月期の売上高は1.5兆円程度まで伸びるだろう。しかし、2兆円という背伸びした目標を達成するには、カーナビゲーションやカーオーディオから、自動車の本体機能に踏み込んだ製品の開発に乗り出さなければならない。そのためにも、他社との協業や事業買収(M&A)を積極的に進める必要がある」
パナソニックの自動車分野の売り上げ規模は、世界の自動車部品メーカーの中で17位。2兆円を達成すればトップ10入りが見えてくる。既存事業の延長線で1.7兆円まで高め、残りの3000億円はM&Aや提携によって積み上げる戦略だ。すでに自動車メーカーに部品を供給している1次サプライヤーとの間で、事業提携やM&Aについて協議を進めていることが明らかになっている。車載事業ではセンサーやカメラなどデバイス(周辺装置)で販売実績があるものの、デバイスを組み合わせた最終製品に近いかたちでの実績は物足りない。そこでシステムで販売実績のある企業をM&Aのターゲットにしているわけだ。
津賀社長は13年1月、米国で開かれた家電見本市で「将来、パナソニックは自動車メーカーになるかもしれない」と発言。自動車分野への参入に強い意欲を示した。同社の13年4~9月期(上期)決算の最終利益は過去最高の1693億円を記録した。好業績を支えているのは、津賀社長が新たな成長戦略の中核に据えている自動車関連と住宅関連の2つの分野だ。9月中間決算を見る限り、自動車分野への転換が順調に進んでいることをうかがわせる。
●「赤字事業の止血」を公約
しかし、パナソニックの構造改革は、まだ始まりの段階にすぎない。中期経営計画では15年3月期までに「赤字事業の止血」を重点施策に掲げ、テレビ向けディスプレイパネルや半導体、携帯電話、半導体事業などを要検討事業として挙げた。赤字止血の具体策として、プラズマテレビや個人向けスマートフォン(多機能携帯電話)からの撤退、半導体事業の大幅な縮小などに踏み切ったが、同社にとってさらなる懸案が浮上してきた。白モノ家電の利益の6割を稼いでいたドル箱、エアコンが赤字に転落したのだ。国内は酷暑の影響でエアコン需要は旺盛で、家電メーカー各社のエアコン売り上げは絶好調だっただけに、パナソニックのエアコン事業の赤字転落は同社に衝撃を与えた。モデルチェンジに失敗したことが原因と見られている。テレビやデシダルカメラ、携帯電話などのデジタル家電に比べて、同社の白モノ家電の収益性は安定しているといわれてきただけに、それに疑問符がついたのは苦しい。
津賀社長は15年3月期までに「赤字事業の止血を完遂する」と公約したが、14年はその公約達成を占う意味でも重要な年となる。津賀社長が推し進める構造改革にとってターニングポイントとなる14年、パナソニックの動向から目が離せない。
(文=編集部)