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日本での「自動運転」はこれまで、ミリ波レーダーの技術などを使って車間距離を一定に保つ機能が高級車を中心に装備されてきた。2012年には富士重工業(スバル)が、車間距離を一定に保つ機能や衝突を回避する自動ブレーキなどのシステムを大衆車にも導入したことで、消費者の認知度が高まりつつあるが、あくまで「運転支援」というかたちで人間を補助する機能と位置づけられている。その理由は現在の道路交通法が完全な自動運転を認めていないからだ。
●日産やグーグルの後塵を拝したトヨタの焦り
それなのに、安全や環境への取り組みは「当社が世界一」を自認するトヨタが、国土交通省や警察庁を怒らせてしまったのはなぜか。ある業界関係者は次のように解説する。
「法律改正を前提条件として日産自動車が20年までに自動運転車を商品化することを今年9月に公表し、米国でその模擬実験をメディアに公開しました。さらに米グーグルも自動運転技術の開発に力を入れており、業界トップ企業を自認するトヨタとしては先を越されたとの思いも強く、『うちもやっている』とアピールするためについつい焦っていたのではないでしょうか」
日産は、日本の当局を刺激しないように、米国で、かつ公道ではなく遊休地を借りて実験したが、トヨタの場合は、国土交通省や警察庁のお膝元である首都高速で堂々と「法律違反」の手放し運転を実施。役所の面子も丸つぶれとなった。
10月14日からは東京で世界ITS会議も始まったばかり。ITSとは「高度道路交通システム」の略で、産官学の関係者が世界中から集まるイベントだ。今年の目玉は自動運転技術だが、トヨタの「法律違反」を契機に態度を硬化させた国土交通省や警察庁内には一時、「自動運転のデモンストレーションは中止にすべき」との声も出たという。世界ITS会議の事務局であるITSジャパンの会長は、元トヨタ専務で現在もトヨタで技監を務める渡辺浩之氏。トヨタは法令を順守してITSを推進する業界団体のトップの立場にある。
もともとトヨタは豊富な資金力を背景に、霞が関や永田町対策に力を入れおり、政治家や官僚に太いパイプを持つ。役所の態度の硬化に焦ったトヨタは今、さまざまなルートを使って必死に事態の収拾に動いているという。
(文=編集部)