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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

最先端を独走するTSMCが売上高で世界1位へ…驚異の営業利益率49.5%の理由

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
TSMCのHPより
TSMCのHPより

2022年の世界半導体売上高ランキング

 米調査会社のガートナーが1月17日、2022年の世界半導体売上高ランキング・トップ10の速報値を発表した。それによると、1位は韓国サムスン電子(656億ドル)、2位は米インテル(584億ドル)、3位は韓国SKハイニックス(362億ドル)等となっている(図1)。

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 ガートナーは、このようなランキングにファウンドリを入れない。しかし、筆者は台湾積体電路製造(TSMC)がどのポジションにくるかを知りたい。そこで、1月12日に行われたTSMCの決算報告会の資料を調べてみると、2022年の売上高が758.8億ドルであることが分かった(図2)。

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 これは、ガートナーのランキングで1位のサムスンを上回る売上高である。つまり、2022年の世界半導体売上高ランキングで、TSMCが初めて第1位になったということである。

2022年のランキング上位企業の特徴

 ガートナーの速報値に、TSMCの業績を加えたグラフを書いてみた(図3)。なお、日本企業が1社もないのは寂しいので17位のキオクシアも書き加えてみた。このグラフから、どのようなことがいえるだろうか。

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 第一に、2021年から2022年にかけて、ファウンドリとファブレスの多くが大きく成長した。上位から順に、1位のTSMCが33.5%、5位の米クアルコムが28.3%、7位の米ブロードコムが26.7%、8位の米AMDがなんと42.9%、11位の米アップルが20.4%となっている。なお、10位の台湾のファブレスのMediaTekだけが3.5%の成長に留まっている。スマホ用や通信用半導体で米クアルコムなどにシェアを奪われたのかもしれない。

 第二に、インテルとメモリメーカーが軒並みマイナス成長に陥っている。上位から順に、2位のサムスンが-10.4%(ひどい)、3位のインテルが-19.5%(ひどい)、4位のSKハイニックスが-2.6%(軽微)、6位の米Micronが-3.7%(軽微)、17位のキオクシアが-13%(ひどい)となっている。この原因は、コロナ特需が終焉して、PC需要が急激に縮小したこと、およびメモリ価格が大暴落したことにあるだろう。

売上高でも微細化でもチャンピオンになったTSMC

 このようにサムスンとインテルに急ブレーキがかかった結果、成長著しいTSMCが売上高で初めて世界1位になった。TSMCは2022年12月29日に3nmの量産を開始したと発表した。したがって、TSMCは売上高でも微細化でも世界チャンピオンになったわけだ。

 それにしてもTSMCの快進撃はすさまじい。図2の決算報告書を見てみると、2022年の営業利益率(Operating Margin)が49.5%となっている。筆者は、これほど高利益率の半導体メーカーを見たことがない。また、ここ数年の売上高の推移を見ると、2019年に346.3億ドルだったものが、わずか3年後の2022年に2倍以上の758.8億ドルに成長している(図4)。

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 過去の経緯を振り返ってみると、2011年以降、上位3社がインテル、サムスンTSMCに固定された(ただし2018年に1度だけSKハイニックスがTSMCを抜いて3位になった)。1992年以降1位の座に君臨し続けてきたインテルは、2018年に初めてサムスンに抜かれた。2019年と2020年は再びインテルが1位に返り咲いたが、2021年に僅差でサムスンが1位となった。そして2022年、サムスンとインテルが大きく売上高を減らすなかで、2019年以降、急激に売上高を伸ばしてきたTSMCが初めて世界1位の座を獲得した。

 では、TSMCの驚異的な売上高の成長と凄まじい営業利益率の源泉は、どこにあるのだろうか。

TSMCの競争力の源泉

 図5に、TSMCの2021年と2022年の技術世代(Technology・Node)別の売上高比率を示す。2021年に7nmが31%、5nmが19%、その合計が50%だった。それが2022年には、7nmが27%、5nmが26%、その合計が53%になった。要するに、TSMCの売上高は、2021年以降、その半分以上が7nm以降の最先端半導体になったのだ。

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 今度は、TSMCの四半期毎のTechnology・Node別の売上高を見てみよう(図6)。2019年第3四半期(Q3)までは、四半期の売上高が100億ドルを超えることはなかった。ところが、2019年Q4に初めて100億ドルを超え、2020年Q3に5nmの量産が始まると、売上高は直線的に増大し、2022年Q3には200億ドルを超えた。

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 このように見てみると、2つターニングポイントがあると思える。一つは、2019年Q3に最先端露光装置EUVを世界で初めて7nm+(7nmの改良版)に量産適用したこと、もう一つは、2020年Q3に5nmの量産を開始したことである。そして、サムスンもインテルも、EUVの量産適用に手間取り、TSMCが7nm+から5nmへと微細化を進めたことについてくることができなかったため、TSMCが7nm以降を独占することになった。それが、飛躍的な売上高の向上とすさまじい営業利益率につながっているといえるだろう。

 それでは、TSMCは、このような最先端の微細加工技術で、どこ向けに何用の半導体を生産しているのであろうか。

何用の半導体をどこ向けに生産しているのか

 図7に、TSMCの2022年のプラットフォーム別の売上高比率を示す。高性能コンピュータ(High Performance Computing、HPC)が41%、スマートフォンが39%となっており、この2つのプラットフォームで合計80%を占めていることがわかる。この2つのプラットフォームがTSMCの売上の大黒柱となっている。

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 一方、2021年に対する2022年の成長率(YoY)では、クルマ(Automotive)が74%、HPCが59%、IoTが47%、スマートフォンが28%成長したのに対して、デジタルコンシューマ機器(Digital Consumer Electronics、DCE)はわずか+1%の成長に留まっている。この成長率から考えると、もしかしたら今のところ売上高に占める割合こそ5%しかないクルマ用半導体が、次の柱として期待されているのかもしれない。

 そして、このような半導体を、TSMCは米国向けに約70%生産している(図8)。その主なカスタマーは、図2の半導体売上高ランキングで5位の米クアルコム、7位の米ブロードコム、8位の米AMD、11位の米アップルなどの米国のファブレスである。加えて、米インテルも画像プロセッサ(GPU)をTSMCに生産委託している。

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 このように見てみると、TSMCというファウンドリと米ファブレス等がWin-Winの関係となって、お互いに成長を促進していると言えるだろう。

今後の展望

 2022年に世界半導体売上高ランキングでTSMCが世界1位になった。EUVを量産適用した2019年からの3年間で売上高は2倍以上となり、営業利益率は49.5%を叩き出した。この成長の源泉は、7nmや5nmの最先端半導体で世界シェアを独占していることである。TSMCは、この最先端技術で、HPCやスマートフォン用の半導体を、主として米国向けに生産している。

 TSMCは2022年12月29日に3nmの量産を開始した。サムスンやインテルは、今までと同様、TSMCについてこれないと思われる。となると、TSMC1強の時代は今後も続くだろう。唯一気がかりなのは、中国が台湾に軍事侵攻する「台湾有事」の勃発である。そのような戦争が起こらないことを願わずにはいられない。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

湯之上隆/微細加工研究所所長

湯之上隆/微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。


・公式HPは 微細加工研究所

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