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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

半導体業界の覇者インテルが存亡の危機に陥った理由…微細化に失敗しAMDに敗北

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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インテルのHPより

米インテルの苦境

 1992年から2017年まで、世界半導体売上高ランキング1位の座に君臨してきた米インテルが苦境に陥っている。その具体的な事例を挙げてみると、次のようになる。

・2022年10月12日、インテルはPC市場の失速に対応してコスト削減を図るため、数千人規模の人員削減を行う見込み(2022年10月12日付けブルームバーグ)

・2022年10月27日、インテルは業績が悪化していることを受け、2025年までに最大100億ドルのコスト削減に取り組むと発表した(2022年10月28日付け日本経済新聞)

・2023年2月1日、インテルはCEOの基本給を25%減らすことを明らかにした。ほかの経営陣や管理職の基本給も5〜15%減らすという(2023年2月2日付け日経新聞)

 これらに加えて、筆者が聞いているところでは、インテルが初めてEUV(極端紫外線)露光装置を使う「intel 4」がいまだに立ち上らず、2023年中の量産は絶望的であるという。EUVを使いこなすことができていないと見られる。このように、プロセッサ市場を独占してきたインテルについて、良いニュースが何もない。そのインテルの行方について、今流行りのChat GPTに聞いてみた。

「インテルは倒産するのではないか?」

 Chat GPTに、この質問を英語で聞いてみたところ、次のような回答が得られた。

「インテルは 50 年以上にわたって事業を展開してきた老舗の大企業であり、その間、財務上の課題と力強い成長期の両方に直面してきました。近年、インテルは、特にモバイルデバイスの市場において、他の半導体メーカーとの競争の激化に直面しています。これらの課題にもかかわらず、インテルは依然として収益性の高い企業であり、その財務諸表は、予見可能な将来にわたって事業を継続するのに十分な現金と流動性があることを示しています。しかし、半導体業界は技術と需要の急速な変化にさらされており、どの企業もいつまでも成功し続けるという保証はありません。要するに、確実に将来を予測することは不可能ですが、現在の情報に基づいて、インテルが差し迫った破産の危険にさらされているようには見えません」

 そうなのかなあ? 筆者は、Chat GPTの回答に納得できない。そこで、自分でインテルの苦境のほどを調べてみた。その結果、「Chat GPTの回答は楽観的過ぎる」という結論になった。以下では、筆者の分析結果を示す。

世界のPCの出荷台数

 図1に、四半期毎の世界のPCの出荷台数を示す。PCの出荷台数は2011年第3四半期(Q3)に9540万台を記録したが、その後、上下動しながら減少し、コロナ前の2019年Q1に6000万台を下回る。この原因は、米アップルが2007年にiPhoneを発売し、2010年頃から本格的なスマホの時代が到来したため、スマホがPCを駆逐し始めたことにあると思われる。

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 そのようななかで、2020年にコロナ騒動が起きた。PC出荷台数は同年Q1に5290万台まで低下するが、その後、リモートワークやオンライン学習が爆発的に普及したため、PC需要が急拡大し、同年Q4には9130万台を出荷する。ところが、このようなコロナ特需は2022年に入ると一気にしぼんで終焉したため、PCの出荷台数は急落し、同年Q4には6530万台まで減少した。このコロナ特需終焉によるPC出荷台数の減少が、プロセッサのトップシェアメーカーのインテルに大きなダメージを与えたのではないか。では、そのダメージは定量的にどのくらいなのかを分析してみよう。

世界半導体市場統計のMPU(プロセッサ)の出荷個数

 世界半導体市場統計(World Semiconductor Trade Statistics、WSTS)のデータによると、MPU(プロセッサ)の四半期ごとの出荷額と出荷個数は図2のようになる。まず、出荷個数に着目してみよう。MPUの出荷個数は2011年Q3に1.45億個でピークアウトして減少する。これは、PCの出荷個数の動向と同じ現象が起きているといえる。つまり、スマホが普及したため、PCが売れなくなり、その結果、PC用MPUの出荷個数が減少したわけである。

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 ところが、MPUの出荷個数は2013年頃から上下動しながら増大し始める。これは、人類が生み出すデータが指数関数的に増大し、クラウドサービス提供企業が競ってデータセンタを建設し始めたことに起因する。つまり、データ量爆発の時代を迎え、データセンタ用のサーバー需要が急拡大した。そのために、サーバー用のMPUの出荷個数が増えていくと解釈できる。

 しかし、MPU出荷個数は2016年Q3に1.36億個でピークアウトし、2019年Q1に8900万個まで減少する。これは次のように解釈している。2016年にインテルが14nmから10nmに微細化を進めることに失敗した。その後、インテルは、微細化は14nmのまま、MPUの高性能化を図らなくてはならなくなった。その手法が、1チップ内のコア数を増やすというものだった。しかし、コア数を2→4→6→8…と増やしていくと、性能は上がるが、チップサイズが大きくなる。すると、1枚のシリコンウエハから取得できるMPUの数が減少する。そのため、2016年から2019年にかけてMPUの出荷個数が減少していった。

インテルの10nm立ち上げ失敗が招いたメモリ不況

 以上の結果、2019年に世界的なMPU不足を招いてしまった。そして、サーバー用やPC用に生産されたDRAMとNANDが市場に溢れかえってしまい、価格が大暴落した。その結果、ひどいメモリ不況が到来した。要するに、2019年のメモリ不況はインテルが10nmの立ち上げに失敗したために起きたといえる。

 しかし、2019年Q1以降、上下動しながら、MPUの出荷個数は増大していき、コロナ特需が起きた2021年Q4には1.4億個まで回復した。にもかかわらず、2022年に入るとMPU出荷個数は激減し、同年Q3には1.04億個になってしまった。このように、2022年に入ってPCの出荷台数が減少していることと並行して、MPUの出荷個数も減少している。今度はMPUの出荷額に注目してみよう。その出荷額の急減はあまりにもひどい。

目を疑うMPUの出荷額の減少

 2011年から2018年頃まで、上下動はあるもののMPUの出荷額は、四半期あたり100~120億ドルで推移していた。それが、2018年以降、上下動しながら増大していき、2022年Q3に四半期としては過去最高の184億ドルを記録した。ところが、同年Q4に113億ドルまで急降下している。つまり、MPUの出荷額は、2022年Q3からわずか3カ月後のQ4に、40%も減少してしまった。MPUの出荷額が短期間でこれほど急減少したのは過去に例がない。筆者もグラフを書いていて、最初は何かの間違いではないかと思ったほどである。もし2022年Q3までのグラフだったら、「MPUの出荷額は順調に成長している」と解釈してしまうところだった。しかし、たった3カ月で事態は急変した。

 それでは、プロセッサの世界シェア1位のインテルと同2位のAMDの売上高や営業利益率などの業績はどうなっているだろうか。MPUの出荷額の急降下のダメージを受けているのは、一体どちらか。ちなみに、インテルは設計から生産までをすべて自社で行う垂直統合型(Integrated Device Manufacturer、IDM)であるが、AMDは生産をTSMCに委託しているファブレスである。

インテルとAMDの売上高

 図3に、インテルとAMDの四半期毎の売上高、およびインテルに対するAMDの売上高の割合の推移を示す。

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 インテルの売上高は2009年以降、上下動しながら2019年頃まで増大している。2020年以降は横ばいになるが、2021年Q4に四半期としては過去最高の205億ドルを記録する。しかし、その後急激に売上高が減少し、2022年Q4にはピーク時より32%少ない140億ドルまで落ち込んでいる。

 落ち目のインテルとは対照的なのがAMDである。2018年頃までは10億ドル前後だったが、2019年頃から売上高が増大し始め、2022年Q2には四半期として過去最高の66億ドルを記録する。その後、少し減少したが、同年Q4に56億ドルで踏みとどまっている。

 AMDは、2018年後半からTSMCにMPUの生産委託を開始した。このころ、インテルは10nmが立ち上がらず、14nmで微細化が止まったままだった。しかし、AMDはTSMCの先端プロセスでMPUを生産させることができており、MPUの性能でもインテルを凌駕し始めていた。それが売上高にも反映され始めたといえる。実際、インテルに対するAMDの売上高の比率を見てみると、2019年頃までは10%程度だったが、2020年に入って、その割合は急拡大し、2022年Q2には43%を記録した。その後も40%前後で推移している。

 このように、2022年に入ってインテルの売上高が急落する一方、AMDは売上高を伸ばしており、この傾向が続けば、2年後あたりにAMDがインテルを抜いてもおかしくないと思われる。そして、2社の売上高から、PC出荷台数の減少、および世界のMPU出荷額急降下のダメージを受けているのは、AMDではなくインテルだといえる。

 では、インテルとAMDの営業利益はどうなっているか。

インテル、参っている

 図4に、インテルとAMDの四半期ごとの営業利益の推移を示す。この図を見れば、インテルが慌ててコスト削減に走る理由もわかるだろう。

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 2022年Q1に四半期として過去最高の81億ドルを記録したインテルの営業利益は、同年Q2に赤字のマイナス5億ドルまで減少した。Q3に10億ドルになったが、Q4には再び赤字のマイナス7億ドルに沈んだ。インテルの業績がここまでひどいとは思わなかった。一方、売上高でインテルを猛追しているAMDも、さすがに2022年Q4にはマイナス1.5億ドルの赤字に陥った。しかし、ファブレスで身軽なAMDは、この赤字はあまり問題にはならないだろう。

 PC出荷台数の減少、MPU出荷額の急降下、そしてインテルの四半期売上高の急減少と赤字。Chat GPTは「インテルが差し迫った破産の危険にさらされているようには見えません」と回答したが、それは間違っている。筆者には「インテル、参っている」ように見える。また、ここで舵取りを間違えたら、インテルが経営破綻することもないとはいえない。インテルは、企業存亡の危機に直面しているのではないか。

(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

湯之上隆/微細加工研究所所長

湯之上隆/微細加工研究所所長

1961年生まれ。静岡県出身。1987年に京大原子核工学修士課程を卒業後、日立製作所、エルピーダメモリ、半導体先端テクノロジーズにて16年半、半導体の微細加工技術開発に従事。日立を退職後、長岡技術科学大学客員教授を兼任しながら同志社大学の専任フェローとして、日本半導体産業が凋落した原因について研究した。現在は、微細加工研究所の所長として、コンサルタントおよび新聞・雑誌記事の執筆を行っている。工学博士。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『電機半導体大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北』(文春新書)。


・公式HPは 微細加工研究所

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