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韓国・不動産市場が崩壊の兆候…建設会社の倒産続出に警戒、PFへの新規融資凍結

文=松崎隆司/経済ジャーナリスト
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韓国・ソウル(「gettyimages」より)

不動産PF崩壊のきっかけはレゴランド

 韓国の建設業界に激震が走っている。資金調達難や不動産バブル崩壊で大量の建設会社や不動産会社が破たんに追い込まれるのではないかといわれているからだ。中小零細だけでなく、大手の建設会社にも飛び火し、韓国ロッテグループでは建設会社を支援するグループ会社の経営にも大きな波紋が広がっているという。

 きっかけとなったのは江原道(カンウォンド)が推進していたレゴランド開発事業での債務不履行だ。 韓国では大掛かりなマンション建設や大型のプロジェクト開発の資金調達には不動産プロジェクトファイナンス(PF)が活用されている。レゴランドも不動産PFを活用して2050億ウォンのABCP(Asset-backed Commercial Paper、資産担保コマーシャルペーパー)を発行した。レゴランドのABCPは自治体の債務保証がついているということで短期社債としては最高のA1という格付けを獲得していたが、道が債務保証の履行を拒否し再生手続きの申請を行ったことで、A1からD(デフォルト)の評価に変わり、PF市場は大混乱に陥った。

「レゴランド事件が建設業や不動産業の倒産につながることが懸念されています。調達率は年利7%以上上昇し、不動産不況が続くため、不動産プロジェクトファイナンス(PF)に関する新規融資はほとんど行われていません。不動産PFローンの延滞率も4.7%に達し、昨年末(2021年末)から1.0ポイント上昇しました。資金不足により資金業者の経営が悪化した場合、元本の回収が難しい場合があります」(22年10月25日付スポーツ東亜) 

 現代建設が連帯保証しているソウル黒石9区域再開発PF ABSTB(貸出資産担保付短期債)の借り入れ金利は昨年9月には年3.34%だったのが、10月には年7%と2倍以上急騰した。さらに一部のABCP取引では金利が20%を超え、11月14日にはGS建設が信用補完したSPC「パインウノ」のABCPの金利が20.3~21%に跳ね上がっている。このようななかで中小零細の建設会社は相次いで資金繰りが悪化し、債務不履行に陥るといった噂が絶えず、忠清南道(チュンチョンナムド)で6番目に大きい建設会社Woosuk E&Cは破産宣告を受けた。

 ここで改めて不動産PFローンの仕組みについて簡単に説明しておこう。不動産PFローンとは、不動産開発による将来の収益を担保にあらかじめ開発資金を調達する仕組みだ。開発主体が建設会社の債務保証をもらって着手金として銀行からブリッジローンと呼ばれる金利の高い資金を調達する。期間はだいたい半年から1年程度といわれている。その後、事業計画の承認を得て金利の高いブリッジローンは返済し、建設工事費を調達するためにメインPFを行うことになる。メインPFではSPC(特別目的会社)を設立してABCPなどを発行する。

グループ企業から資金をかき集めるロッテ建設

 レゴランドショック以降、韓国で新しいPFは承認されていない。ブリッジローンをメインPFに転換することも難しいという。それでなくてもマンション市場は減速し、売れ残り住宅が増加。それまで販売したマンションの頭金や住宅ローンの一部でPFの返済などが行われてきたが、それが滞っているという。

「売れ残り住宅の数は2020年には1万7710戸だったのが、今年(22年)9月末時点では4万1604戸と2.3倍以上に増加している」(22年11月6日付時事ジャーナル)

 PFは通常、建設会社が債務保証しているためにプロジェクトを実施している会社がローンを返済しなかった場合は、建設費の支払いの有無にかかわらず、請負業者が債務を負担するか、建物を完成させなければならない。売れ残り・未着工工事が増え続けるなかで、PF保証が建設会社の偶発債務になる可能性が高まっているのである。大手建設会社がかかわっていた首都圏の大規模開発事業では、PFローンの借り換え(リファイナンス)に失敗し、大手建設会社が自ら資金を用意しなければならないというケースも出てきている。

「韓国最大の復興工事」と呼ばれ、現代建設やロッテ建設など大手建設会社が進めていた首都圏の大規模開発事業、遁村住公アパートの再建プロジェクトでは、7000億ウォンのプロジェクト費用の借り換えができずに、危うく建設会社の自己負担で返済しなければならなくなりそうだったが、政府が金融安定化政策の一環で創設した債券市場安定基金を通じて満期日の前日に借り換えに成功し、難を逃れた。昨年9月に韓国ビジネス格付け(KR)は、ロッテ建設、テヨン建設、HDC現代産業開発、GS建設、大宇建設のPF偶発債務が大きいと分析した。「なかでもロッテ建設では多数のプロジェクトが進行中で、その多くは未着手の建設プロジェクトだ」(同)という。 

「韓国信用評価によると、ロッテ建設の偶発債務(近い将来突発的な事態が発生すると債務となるもの)は6兆7000億ウォンを上回る。今月(11月)と来月(12月)はそれぞれ1兆3970億ウォンと3472億ウォンの手形などの満期がくる。来年第1四半期のうち返済すべき債務も1兆8696億ウォンに達する」(22年11月20日付デジタルタイムズ)

 ところがロッテ建設は事業で確保できる現金性資産はそう多くない。現金性資産は6788億ウォンしかなく、追加の資金を確保しなければならない事態に陥っていた。そのようななかでロッテ建設はグループ企業から資金をかき集め、2022年10月から11月にかけて系列会社などから1兆1000億ウォンの資金を調達している。

 10月18日には関連会社を対象に2000億ウォンの有償増資を行った。主要な出資先はロッテ建設の43.8%の株式を保有する筆頭株主のロッテケミカルが875億ウォン、第2位の株主(43.03%)のホテルロッテが861億ウォン、ロッテアルミニウムが199億ウォンだ。その2日後の10月20日にはロッテケミカルから短期借入金返済のため5000億ウォン借り入れている。さらに11月8日にはロッテ精密化学が3000億ウォン、その2日後にはロッテホームショッピングが1000億ウォンの支援を行っている。

 韓国の連合ニュースTVが22年11月10日付で、ロッテ建設側の説明として「短期不動産プロジェクトファイナンスでの資金調達は金融環境が正常化されておらず、安定した財務構造を得ようとしたものだ」と報じている。

ロッテ建設の波紋はグループ企業にも

 しかし、グループ企業へのダメージは大きく、ナイス信用評価は11月16日、資金調達に協力したロッテケミカル、ロッテショッピングをはじめグループの持ち株会社のロッテ持株、ロッテキャピタル、ロッテレンタルの長期信用格付けの見通しをこれまでの安定的からネガティブに下方修正した。同日、韓国企業評価もロッテ持株とロッテケミカル、ロッテ物産の無保証社債信用等級をすべて安定的からネガティブに引き下げた。

 資金調達はグループ企業だけからではない。金融機関からも巨額の資金調達を進めている。日本のメガバンクのみずほ銀行は11月3日、ソウル市瑞草区蚕院洞のロッテ建設本社の土地建物を担保に3000億ウォンを融資した。「日本の金融機関が海外で、売却できるかどうかもわからないものを担保にとって融資するというのはあまり考えられない」(メガバンク幹部)というから、かなり異例のことだったようだ。みずほ銀行にこの融資について確認したところ、「融資をした事実も含めてすべてノーコメント」(同社広報部)と頑なに口を閉ざしている。みずほ銀行はロッテグループの持ち株会社、ロッテホールディングスのメインバンクでもあることから、取引先に対する経営支援のような意味合いがあったのかもしれない。

 ロッテ建設はみずほ銀行以外にも11月18日にはハナ銀行から2000億ウォン、韓国スタンダードチャータード銀行から1500億ウォンを調達したことを明らかにした。地元メディア、デジタルタイムズの22年11月20日付報道によれば、「系列会社であるロッテ物産と『ロッテ建設が貸出金を返済できない場合やロッテ建設の返済金が不足した場合は貸出や出資で補充する』」との約定までかわしていたという。

 これだけではない。22年12月19日には、1月2日と4日に満期を迎える2000億ウォンの超短期高金利(金利は10%)のCPを、サムスン証券を含む証券会社4社に発行。このローンを返済するためにその3日後、12月30日に転換権を行使できる高金利転換社債(CB、表面金利8.4%、満期金利10%)を発行したという。22年12月26日付の金融消費ニュースでは「さまざまな問題や副作用があることから、このCBはロッテなど大企業グループが近年発行していない資金調達手段です。ロッテ建設は依然として不動産PF関連の資金調達関連に苦労していることが認められます」と報じている。

 韓国政府は社債などを買い入れ、金融市場の安定化を図るために22年10月23日に「50兆ウォン プラスアルファ」の緊急支援を表明。ロッテ建設は23年1月9日、メリッツ証券から1兆5000億ウォンの投資契約を取り付けたことを発表した。メリッツ証券はロッテが推進中のプロジェクトでロッテ建設が保証するABCPなどの債券に投資するという。これに先立ちロッテホームショッピングから借り入れた1000億ウォンやロッテ精密化学の3000億ウォン、ロッテケミカルの5000億ウォンは返済したというから、当面の資金難の問題はとりあえず解決したようだ。

 しかし短期金融市場の信用崩壊による資金調達の悪化は単なる前哨戦にすぎない。すでに不動産バブルが崩壊し、その荒波は不動産会社や建設会社に押し寄せている。ロッテ建設は今後、ソウルのMagok MICE複合施設(3兆3000億ウォン相当)や仁川の巨大丹101駅周辺開発プロジェクト(1兆1800億ウォン相当)などを推進していくというが、資材高騰などのあおりを受けてどこまで利益を上げることができるかは未知数だ。さらに今後、完成するマンションの販売はマンション価格の下落や金利高騰でさらに厳しいものになっていく。韓国では住宅ローンの延滞率も10%を超えたという。韓国の不動産関係者の間では「今度どうなってしまうのかわからない」(中小不動産関係者)といった悲観論が飛び交っているという。おのずとPFのリファイナンスも再び難しい局面がやってくるかもしれない。 

 そのようななかで筆頭株主のロッテケミカルは前年度の決算で7584億ウォンの営業赤字に転落し、イルジンマテリアルズを2兆7000億ウォンで買収する。グループ会社を支援する余力がどの程度、残っているのかは不明だ。さらにロッテケミカルをはじめ他のグループ企業も信用格付けの引き下げなどで資金調達がますます難しくなっている。

 果たして韓国ロッテグループはこの難局をどう乗り越えるのか、大きな課題に直面している。

(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)

松崎隆司/経済ジャーナリスト

松崎隆司/経済ジャーナリスト

1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。

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