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ニトリ「IT人材枠」採用でも1年半の現場研修に賛否…社員側に意外なメリット?

取材・文=文月/A4studio、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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ニトリのHPより

 インテリア業界のトップランナーとして君臨するニトリホールディングス。2022年2月期の売上高は8115億8100万円、営業利益は1382億7000万円を突破し、35期連続で増収・増益を達成している。そんなニトリは、19年から新卒枠にIT人材の採用を開始している。DX化が遅れているといわれる小売業界のなかで、ITへの投資が重要と認識しての経営判断だが、その研修の内容がネット上で賛否を呼んでいるのだ。

 1月24日付「日経XTECH」記事によれば、ニトリにIT人材として新卒入社した社員は1年半の期間、現場研修を受けるという。店舗で1年、物流部門で半年の間、ニトリグループの業務を経験させ、現場とシステム側のつながりを徹底的に理解してもらおうとする方針。研修の間は、週に1度の情報システム改革室のエンジニアとのミーティングや、年に数回の集合研修もあるようだが、ネット上では「現場での研修、1年半は長すぎ」という意見が続出しているのである。

 ニトリはIT人材の対象として、「入社までにITパスポート、普通自動車第一種運転免許(AT限定可)の取得可能な方」と規定。ITパスポートとは、ITに関する基礎知識の習得を証明する国家資格であり、合格率は50%ほどとそこまで難易度は高くない資格だ。そのためニトリ側としても、即戦力として高度なITスキルを持った人材を求めているわけではなく、じっくりと育てていこうと研修期間を長めにしているのかもしれないが、それでも1年半という期間が長いと感じる人も多いだろう。

 そこで今回はニトリのIT人材の研修について、経営戦略コンサルタントで百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏に話を聞いた。

自社ITシステムを内製化する狙い

 鈴木氏によると、ニトリのIT人材の採用には、ITシステムを内製化する狙いがあるという。

「ニトリのIT人材採用には、自社展開しているECサイトなどのITシステムを自社内で開発、運営していきたいという目的があるように感じます。従来、日本ではITシステムの開発、運営をシステムインテグレータ(SIer)などに外注するのが一般的でしたので、コストがかかるだけでなく、発注側が想定したものとは異なるシステムが出来上がることも珍しくはありませんでした。そこで自社内でIT人材を育てていったほうが、外注のコストも減りますし、プロダクトのビジョンも共有しやすいので、積極的に採用を進めようとしたのでしょう。現在ニトリに限らず、経営体力のある大手企業では、こうしたITシステム内製化の動きは珍しくありません」(鈴木氏)

 だが、IT人材として採用されたにもかかわらず、1年半も現場の研修に時間を割くとなると、内心焦りを感じる新入社員もいそうだ。

「ここは難しいポイントですし、当然人それぞれなのですが、IT人材は必ずしもスキルアップ、キャリアアップを急ぐ割合が高いわけではありません。IT人材は大別すると、企業にずっと残り続けたいタイプと、キャリアを重ねてステップアップしていきたいタイプの2パターンに分かれています。

 そしてニトリの新卒の募集要項を見ると、自社内でIT人材をじっくり育てていこうとする狙いがあるように感じられるので、前者の人材を求めているのがわかります。ITに特化するのではなく、ニトリという企業への知見とITに関する平均的なスキルを持つ人材を育成し、将来的なIT開発の主軸メンバーにしようとしているのでしょう。採用される社員もその時点で即戦力になるほどITに精通した者は多くないと予想できるので、ニトリでITエンジニアとしてのキャリアに悩む人の割合もそこまで高くないのではないでしょうか。

 そう考えると、先ほどの2パターンのうちの後者のタイプの方々が、この研修に対して否定的な見解を述べているのだと思われます。こうした方々は、よりスピーディーに実力、実績を求めようとする傾向にありますので、ニトリのやり方に懐疑的な目を向けるのも納得できる話ではあります」(同)

1年半は長いけど、効果は絶大?

 そんな1年半にも及ぶニトリの現場研修だが、その効果についても賛否両論あるようだ。

「個人的には、長いというのが正直な感想です。たとえば、大手自動車メーカーで新卒採用されたエンジニアは、研修という名目でディーラーに配属されますが、それでも3カ月から6カ月ほど。一般的な研修期間としても1年半は異例の長さといえます。

 しかし裏を返せば、それだけ時間をかけなければニトリという企業の本質を理解できないという面もあるかもしれませんね。ニトリの業務は店舗だけでも、レジ打ち、発注作業、商品陳列など多岐に渡るため、IT戦略の当事者としても学ぶべきところはたくさんあるはずです。いわば、店舗と物流のオペレーションにニトリのIT戦略の中核があるといっても大げさではないかもしれませんからね」(同)

 それだけニトリの業務は複雑なのだと鈴木氏は続ける。

「ニトリはホームセンター規模の敷地面積を誇る店舗も少なくないので、取り扱っている商品の数も多いです。それらの販売マニュアルを覚えるだけでも一苦労ですし、お客から相談を受けたり、荷物の大きさによって商品の配送方法も変わったりするなど対応することもたくさんあるのでしょう。それに加えて、利益率、商品の回転率なども学ばなくてはいけないので、ニトリのビジネスの大枠を掴むのに1年半近くかかってもおかしいとは思いません。

 どんな企業のIT職でも、現場やサービスの仕組みに関する知識がないと、ITで効率化なんてできませんし、机上の空論で終わってしまいます。また、3カ月から半年ぐらいの研修だけだと、社員の意識ではなくお客様感覚のまま研修を終えてしまう可能性もあるでしょう。そういった面から考えると、1年半という期間は自社の仕組みを学ばせ、社員としての自覚をしっかり持たせるために必要な時間なのではないでしょうか」(同)

 だが逆にいえば、IT人材としてキャリアアップしながらいろいろな企業を渡り歩きたいと考える人にとっては、不向きといえる採用枠かもしれない。

「ニトリ内のシステムに精通する専門家になってしまえば、人材価値は上がり、他企業でもいいポジションに就ける可能性は充分あるため、将来的な転職を視野に入れているタイプであっても、ニトリでIT人材として採用されることをおすすめできないとは断言できないですね。

 ニトリのITへの投資は、中長期的に見ると肯定的に評価できる事案ですので、あとは獲得した人材をどれだけニトリに精通させ、長く在籍させ続けられるかどうかが肝になってくるかと思います。そのためには採用したIT人材のキャリアコースをしっかりと用意してあげることが重要になってくるでしょう」(同)

 ニトリにずっと残り続けたいタイプだけでなく、転職を視野に入れているタイプであっても、急がば回れの長期プランで考えられるのであれば、1年半に渡る現場研修にも価値を見いだせるかもしれない。

(取材・文=文月/A4studio、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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