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なぜ多くの会社が「DX化」に失敗するのか…“何のためか”が不明瞭で手段が目的化

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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社内執務を行う企業の様子
社内執務でもリモートワークでも情報やデータと向き合うのは変わらない(写真はイメージ)

 多くの会社で新年度となる春は、新卒採用や経験者採用で(主に)20~50代の人材が入社したり、社内異動でメンバーが入れ替わったりする時期でもある。

 今回は、新年度だからこそ「情報データの活用」について考えたい。どんな業務もITを駆使しないと進まないが、新しいソフトやアプリが次々に登場する。一方で使用制限や互換性などもあり、データ活用ができなくなる例も多いからだ。

 世の中は「DX(デジタルトランスフォーメーション)化」の言葉が飛び交うが、ビジネス現場を取材して感じるのは、「総論賛成」「それで、何をすればよいの?」という雰囲気だ。理由のひとつは、「自分の業務にとって身近に思えない」ことではないか。

 また、年度末のような目先の業務に追われる時期だと、いったん横に置いておきたいのが本音だろう。今回は専門家の説明を受けながら、具体的な事例をもとに考えてみた。

「気持ちよく情報活用」するためにもDX化は大切

 話を聞いたのは、インサイトテクノロジー(本社:東京都渋谷区)という会社だ。1995年創業で、データベース監査ツールでは10年以上、シェア首位を続けている。2月8日には新商品「インサイトガバナー」(Insight Governor)のメディア発表会を行った。筆者は、「社内に散在するデータを統合する」という商品特徴に興味を持った。

 まず「新卒の社員に、『なぜDX化が大切か?』と聞かれたら、どう答えるか」を聞いた。

「たとえば、仕事で得た情報を社内で有効活用するためにも必要だからです。みなさん、学生時代からアプリをスマホにダウンロードして動画や音楽などを楽しんでいたと思います。社会人として、仕事情報を社内で共有すれば、上司や先輩も活用しやすくなります」

 高橋則行さん(取締役 CDO=最高開発責任者)は、こう説明する。インターネットの黎明期から開発業務に関わってきた高橋さんは、他社でも最高技術責任者を務めてきた。

 この意識は、ベテラン社員にも必要だ。森田俊哉さん(代表取締役CEO=最高経営責任者)が説明する。

「データを用いて仕事を進めるのは、ベテランなら長年やってきたでしょう。ただ最近は、使うソフトやアプリも多岐にわたりますし、個人所有してしまう例も目立ちます。

 また、たとえば営業部門と生産部門では、使用するソフトが違うケースもあり、実際に欲しい情報やデータが入手できないこともあります。データ量が増大し続ける時代に、そうした不都合を放置しておくと、どんどん使い勝手が悪くなってしまうのです」

CEOの森田俊哉さん

CDOの高橋則行さん
CEOの森田俊哉さんとCDOの高橋則行さん(写真提供:KMCgroup、撮影のためマスクを外しています)

「グミ新商品」を開発する場合、入手情報をどう扱うか

 たとえば、「20代や30代にウケるグミの新商品」を開発したい場合、どんな情報やデータがあり、共有化に向けてどうするかを考えてみよう(以下に記す内容は、筆者が行った過去取材を基にした例である)。

(1) 現在の「グミ商品の売れ行きランキング」

(2) 日本で人気の味と食感、海外で人気の味と食感

(3) グミを生産する製造設備の状況

(4) 小売店舗の状況

(5) 商品化スケジュール

(6) 販売促進策

(7) 社内外の担当者とのやりとり

など

グミが陳列されている商品棚
グミの人気は高まっており、子どもから大人まで好きな人も多い(写真はイメージ、写真提供:KMCgroup)

 いくつか簡単に説明すると、(2)は、日本で人気の味(ぶどうが一番人気)の調査ランキング表や紹介記事もあるが、フリー使用できるデータや記事以外は使用許可の申請も必要だ。また、海外で人気の食感(歯ごたえある食感)の記事には外国語表記も多い。

「提供会社のルールもあると思います。たとえばランキング調査の他社事例は、社名をA社やB社としたうえで活用するなどです。手前みそですが、当社が開発した『インサイトガバナー』のマスキング機能なら、社名や人名などの固有名詞や機密情報を隠すこともできます。また、英語などの人名の意図にも対応しています」(高橋さん)

「失敗事例の共有化」も大切

(4)の小売店舗状況は、既存商品の売れ行き好調な店を社内共有する会社も多いだろう。(6)販売促進策の参考事例としては、SNSの存在がどんどん高まっている。

 以前の取材では、人気飲料を推す若者が始めた「無駄にカッコよく撮る選手権」という事例を知った。SNS上にその飲料の撮影画像をアップすると、賛同者も次々に投稿。メーカー側も好意的なイジリなら見守ったり、時には働きかけてタイアップをしたりする時代だ。

 情報感度が高い人ほど、こうした事例を収集しているが、個人発の情報でもコンプライアンスを遵守し、社内ポリシーなどに基づいて共有したい。

「インサイトガバナーにはカタログ機能もあり、さまざまなデータをカタログとして一覧・可視化することもできます。クリック操作のみで登録でき、登録情報の検索も簡単です」(CTO=最高技術責任者・宮地敬史さん)

CTOの宮地敬史さん
CTOの宮地敬史さん(写真提供:KMCgroup)

 かつて、大手企業でコーポレート情報を担当し、現在は各企業に取材を続ける筆者の立場でも、こうした機能は興味深く感じた。

 新商品が成功すれば、「私が担当した」という人が増え(手柄自慢)、失敗すれば「声が小さくなる」(なかったことのようにしてしまう)例もよく聞いてきた。志ある人は「なぜ失敗したか」を検証してデータや画像を集めるが、個人レベルの所有になりがちだからだ。

「今回はヒトの声も記録できるようにしました。『この情報は、××の理由で5行目以降は注意して読んでください』といったコメントもでき、担当者が代わっても共有できます」(同)

「インサイトガバナー」の機能画面例
「インサイトガバナー」の機能画面例(写真提供:インサイトテクノロジー)

リモートワークを充実させるためにも

 コロナ禍ではリモートワークが一気に進んだ。

 各種の申請書もデータ化やアクセス権を設定して、使い勝手を高めておかないと、「そのために出勤」となりかねない。同社では、コロナ以前に行っていた活動が功を奏したこともあるという。

「大手ネット銀行の例ですが、顧客数が増えた結果、顧客情報データベースが肥大化してしまい、分析処理に負担がかかっていました。そこで一部の処理をクラウド上のデータベースに分離して運用するため、今回の商品とは別の当社ソフトを採用されました。

 ただし金融機関として、『顧客情報を生データのまま外部に持ち出せない』という社内ルールがあり、その解決策として、個人情報に関わる箇所をマスキングする当社の別ソフトも導入されたのです。その結果、行員の方々が自宅のパソコンからでもデータベースにアクセスでき、リモートワークもしやすくなりました」(宮地さん)

 また、最近はチーム情報を、チャットやLINEのような簡易ツールで行う例も多い。大型展示会の視察内容を現地訪問した部下とオフィスにいる上司がやりとりする例も見てきた。

「効果的な活用には各ツールの連携も必要です。たとえば、外出先で聞きたいことを投稿して、社内のしかるべき人から回答が返ってくれば、仕事の効率性も高まります」(高橋さん)

通勤する人の画像
通勤風景は戻ってきたが、日によってリモートワークを選ぶ人は多い

何のためにDX化するか、目的を明確にする

 最後に、少し引いた視点で「DX化」を考えたい。森田さんが、こう説明する。

「DX化の失敗例で多いのは、『何のためなのか』というゴールが明確になっていない場合です。これがないと手段が目的化してしまい、ソフトの仕組みづくりなどに目が行ってしまいます。また、稼働後のシステム運用=日常の担当者は誰か、ということも置き去りにされがちです」

 筆者がよく取材する外食業界でもDX化は進む。

 たとえば、注文時のタッチパネルでの入力だ。利用客もなじんできたが、一方でレジ支払い時に、自分で入金することは苦手な人も多い。理由として「いつも買い物するスーパーなら慣れているが、たまに行く飲食店は機械によって操作が違うから」という声も聞いた。

 ただし運営側にとっては、注文ミスや入出金ミスが激減し、労働時間短縮にもなる。

「飲食店なら『DX化でレジ締めにかけた時間を短縮し、そこで浮いた時間を季節限定メニューの開発に充てる』といった目的を定めて導入を図ればよいと思います」(高橋さん)

 今回は「情報共有化」や「労働時間短縮」といった視点から紹介してみた。共通するのは「仕事がしやすくなるために」だ。その目的あってこそのDX化なのは、再度強調したい。

(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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