全国の約150の学校や寮、官公庁などの給食・食堂運営を手掛ける株式会社ホーユーが経営悪化に伴い一部施設で事業を停止し、給食・食事の提供を受けられない施設が続出している。そのホーユーがベトナム人女性の技能実習生を最低賃金以下の3カ月で約3万円、月給換算で月1万円ほどで働かせ、この実習生から待遇改善を求められた直後に解雇していたことがわかった。2020年7月6日付時事通信記事によれば、ホーユーと実習生の受け入れ窓口となっていた監理団体は連名で、この実習生が行方不明になったとする虚偽の書類を作成し、監理団体がベトナムの送り出し機関から違約金を受け取っていたという。ホーユーをめぐっては従業への賃金未払いや納入業者への代金未払い、給食・食堂運営業務を受託する施設との連絡遮断、適正金額を大幅に下回る格安での受注なども判明しており、その企業体質が問題視されている。
1994年創業のホーユーは、北は北海道から南は沖縄まで、保育園や学校、寮、官公庁、病院、さらには自衛隊の駐屯地など幅広い種類の施設で給食・食堂事業を運営していたが、債務超過に陥り、すでに自己破産申請の準備を進めており、全国各地の施設で給食提供の停止や食堂の閉鎖が相次いでいる。
ホーユーの山浦芳樹社長はメディア各社の取材に対し、原材料や電気代、人件費の高騰を理由に施設や自治体に値上げを求めたが受け入れてもらえず、経営が行き詰まったと語っているが、給食事業に詳しい関係者はいう。
「そもそも給食・食堂運営の世界では施設側にも『安くて当たり前』という意識があり、複数年の契約期間中はいくら原材料費の上昇などがあっても値上げを認められないという風潮があり、多くの事業者が苦しい経営を強いられているのは事実。だが、ホーユーの場合は、施設側に『明日から給食を提供できない』と伝えたり、突然食堂を閉鎖し連絡を遮断するケースも多く、リニューアルオープンすると言って数カ月間も閉鎖したままの施設もあるということなので、なかり悪質。まともな企業とはいえず、経営に問題がある。他の給食業者と一緒くたにして議論すべきではない。また、ホーユーは明らかに採算が取れない安値で受注を広げていたので、経営がまずかったという面が大きく、同情する余地はない」
テレビ新広島の取材(9日付「FNNプライムオンライン」記事)によれば、広島県の4つの高校の給食の入札(3年契約)では、他の事業者が1億7,640万円、5,899万円で入札していたところ、ホーユーは1800万円で入札・落札していたという。
そんなホーユーだが、前出・時事通信報道によれば、2016年にベトナム人の技能実習生を不当解雇し、実習生は同社と監理団体に対し損害賠償を求めて訴訟を提起。20年に同社と監理団体は不要解雇の責任を認めて和解し、200万円の解決金を支払っていた。
「ホーユーのあり得ない安値受注の裏には、外国人実習生を不当に安値で働かせたり、従業員や納入業者への支払い遅延を起こしていたといった実態がある。常に資金が足りないので、それを補うために、またどこかから安値で受注するという自転車操業の負のスパイラルに陥っていたとみられ、破綻は時間の問題だった。要は典型的なブラック企業で、経営が杜撰だったという一言に尽きる」(前出・業界関係者)
当サイトは9月7日付記事『ホーユー破綻→全国で給食中止が続出…値上げ拒否する学校・行政の責任、安値発注も』で給食・食堂運営業界の現状を報じていたが、以下に改めて再掲載する。
――以下、再掲載――
全国の約150の学校や寮、官公庁などの給食・食堂運営を手掛ける株式会社ホーユーが経営悪化に伴い一部施設で事業を停止し、給食・食事の提供を受けられない施設が続出している。背景には、原材料や電気料金、人件費の値上がりなどを受け給食事業者が学校や行政に値上げを要求しても拒否され、赤字での事業継続を余儀なくされるなど、業界全体に横たわる根深い問題があるようだ。ホーユーの山浦芳樹社長はメディアの取材に対し
「値上げの申請に行くと『わかった値上げしよう』という学校や役所はゼロ」(テレビ新広島の取材に対し)
「広島の落札金額は他の府県と比べると半分以下。全国で一番安い。運営できない金額で平然と落札される」(同)
「(値上げの相談をした高校から)『値上げの根拠を教えてくれ』と言われる。鶏肉の値段を出して、回答が来るのが1~2カ月後」(「テレ朝news」より)
「食材費や人件費は高騰しているが、業界は非常に安い。ビジネスモデルは崩壊している」(同)
などと発言。給食事業者の破綻が相次ぎ発生する懸念も指摘されており、学校や行政、さらには国民全体の意識もカギとなってきそうだ。
1994年創業のホーユーは、北は北海道から南は沖縄まで、保育園や学校、寮、官公庁、病院、さらには自衛隊の駐屯地など幅広い種類の施設で給食・食堂事業を運営していたが、債務超過に陥り、すでに自己破産申請の準備を進めており、全国各地の施設で給食の提供が停止している。
補助金、1食当たりわずか30円
背景には、昨今の原材料・電気料金・人件費の高騰がある。前述のとおり、給食事業者が施設や行政に値上げを要求しても受け入れられず、加えて、新型コロナウイルス感染拡大の影響で給食・食堂が休止となったり、学校でのオンライン授業の導入などで売上が落ちるなどして、事業者の経営が圧迫されているという。
実際にホーユーが値上げの相談をしたある学校では、「物価や光熱費が上がったから給食の現状を維持できない」と伝えても、学校側から「いいからそれ(=現状の契約金額)でやって」と言われたこともあったという(テレビ新広島の報道より)。ちなみに、同社が広島県の補助金の申請を行わなかった理由について山浦社長は「テレ朝news」の取材に対し、
「申請したとしても、1食当たり30円しか高くならないうえに、とても手間がかかる」
と明かしている。
「給食は安くて当たり前」という国民の意識も問題
給食・食堂事業者から委託元への値上げ要請は、受け入れられにくいという実態はあるのだろうか。一般社団法人 日本給食経営管理学会理事長の赤尾正氏はいう。
「給食事業者と委託元の契約期間は一般的に1年~複数年の期間を定めた契約になっており、値上げの相談をしても『次の契約更改のタイミングで検証』とされて契約期間途中での値上げは認められないケースが多い。従来であれば、次の契約更新を待つかたちでも事業者側は持ちこたえることができましたが、昨今の物価上昇は企業努力で吸収できる範囲を超えており、今回のようなケースにつながったと考えられます。
物価上昇に加えて人手不足も深刻です。労働人口の減少に加え、コロナ禍による一部事業の停止・縮小などで離れたパート・アルバイト社員が、コロナが落ち着いて業績が回復し賃金が上昇基調にある飲食業界に流れ、戻ってきにくくなっており、従来より高い賃金を設定しなければ人手を確保できず、結果として経営を圧迫する要因になっています。突然の給食提供中止・食堂閉鎖が起きれば、委託元および給食の提供を受ける利用者にとっても大きな痛手となるため、委託元もそうした事業者側の事情を考慮して、柔軟な対応を検討すべき時期にきています」
今回のような事例が起きないために、給食事業者側と委託元が取り組むべきことは何か。
「委託元は事業者の選定にあたり、その事業者が継続してサービス提供が可能かどうかを評価する仕組みを取り入れるべきです。また、契約のなかに、もし仮に事業者がサービスを提供できない事態となった場合に代わりに提供してくれる別の事業者を設定する『代行保証』の項目を盛り込むことも重要でしょう。
一方、事業者は、体力のある大手が現在も行っているように、過度に安いなど不適切な金額での契約は行わない、サービスの質低下を伴う契約は辞退するということもときには必要です。また、原材料価格の高騰などが生じた場合には契約内容の見直しを行うといったことも、あらかじめ契約書に盛り込むよう委託元と調整すべきでしょう」(赤尾氏)
ホーユー社長が指摘するような安値受注競争の実態はあるのか。
「とにかく安価な給食事業者を使いたいという発注者も少なくなく、そうすると経営基盤が脆弱な事業者が、人件費や原材料費を落としてでも金額を安くして受注するということが起きてしまいます。
また、世間一般の人々の間には『外食に比べて給食は安いもの』という意識が定着しており、これが給食業界でなかなか値上げを実現できない背景にあると感じます。例えばランチが500円というのは安価に感じても、給食一食が同額であれば満足感を得にくい人は多いでしょう。これは給食業界全体の課題であり、第2・第3のホーユーを生まないためにも、今回の事案が国民の意識を変えるきっかけになればよいと思います」(同)
外食チェーン関係者はいう。
「値上げに対し消費者から一定の理解を得つつある外食業界とは異なり、世間からも発注者である施設からも『安くて当たり前』という意識を持たれている給食事業というのは、かなり難しい面がある。くわえて、複数年契約のため自社の判断ですぐに値上げできないという特殊な事情もある。
ホーユーに関していえば、発注元が急に連絡が取れなくなったり、一方的に食堂を閉鎖して、施設側から何度問い合わせを受けても『担当者不在』を理由に逃げ回ったりと、企業として明らかに問題があるのは事実。それとは別の話として、未曾有の物価・人件費上昇という給食事業者の置かれた窮状を無視して、頑なに値上げを拒否する行政や学校にも問題はある。事業者が破綻すれば回りまわって発注元も大きな不利益を被るわけで、しっかりと事業者の声に耳を傾けるべきだ」
(文=Business Journal編集部、協力=赤尾正/日本給食経営管理学会理事長)