緊急事態宣言が5月25日に解除されてから2カ月が経過しましたが、新型コロナウイルス感染者は増加傾向にあり、再び緊急事態宣言が発出されるのではないかとの懸念が高まっています。学校に通う子どもたちにとっても、生活は一変しました。3月から始まった一斉休業が再び行われるかは不確定ですが、長期にわたった一斉休業で、本来あるはずの学校生活がない状態は、子どもたちに多くの影響を与えました。
リモート授業は、インターネットの通信環境やデバイスの利用状況の格差に加え、授業内容の理解度や進み具合による学力差が顕著になったり、新型コロナへの不安や、長期の巣ごもり生活で精神的な不安を抱える子供も多く、学校再開後も混乱が生じているようです。
子どもたちの食生活にも変化がありました。学校給食がないことによる栄養バランスの偏りです。
新型コロナの感染予防は、石けんでの手洗いやアルコールによる除菌とマスク着用が基本ですが、もうひとつの柱である栄養バランスの取れた食事をして体力、免疫の維持向上も重要です。しかし、その栄養バランスが偏った食生活を強いられた子どもが多くいるようです。
栄養バランスを担っている学校給食
2016年に厚生労働省が発表した「日本の小中学生の食事状況調査」によると、学校給食がある日とない日(家庭での食事のみ)の摂取食品の比較では、学校給食のない日の食事内容は主食の量が多く、主菜・副菜とも少ない傾向が見られました。一方、学校給食のある日は食全体の栄養バランスが良い傾向がありました。管理栄養士による栄養バランスのとれた献立が提供されていることもあり、学校給食が子どもたちの栄養バランスを担っている証左でしょう。
子どもは自分で食の管理ができませんので、親やそれに代わる大人から与えられる食べものが食生活のすべてです。したがって、食を供給する側の栄養に関する知識や理解度が、子供の食生活の質に反映されます。実際、前述の調査でも、食生活に関心の低い家庭ほど、調査に参加していない傾向があることが指摘されていました。
また、2018年の国民健康・栄養調査(厚労省)では、家庭の経済状態と栄養状態の相関も示唆されました。所得が少なくなるほど栄養バランスのとれた食事(主食、主菜、副菜を組み合わせた食事)の摂取頻度が少ない傾向があることがわかったのです。
栄養の知識や経済状態が招く栄養バランスの偏りを是正しているのが、生徒に一律に供給される学校給食なのです。
巣ごもり生活が招く栄養の偏り
コロナ渦にあって学校にも行けず、遊びにも行けない、いわゆる巣ごもりの日々は、子供だけでなく親にとっても大きなストレスです。そんな生活の中では、食べることは手軽なストレス解消にもなるので、ついつい好きなものに偏った食生活になりがちです。唐揚げやポテトフライなどの揚げ物、チョコレートやケーキなどの甘いものを食べる回数が増えたのではないでしょうか。
これらの食品には油脂が多く使われ、脂質の過剰摂取に繋がります。また、好きなものだけでおなかが満たされると、相対的に野菜や魚の摂取量が減り、ビタミンやミネラル、食物繊維、必須脂肪酸のDHA、EPAなどが不足しがちになったことが容易に想像できます。
成長期の食生活の偏りが、その後の健康を左右する
人体は食べたものでできているので、成長期の栄養状態がその後の健康度を左右すると言っても過言ではありません。
子供は大人の縮小形ではなく、心身ともに未発達な成長過程にあります。未発達なのは骨格や内蔵だけではなく、神経系、循環器系、内分泌器系、感染予防に必須の免疫系など健康な人生を送る上で欠かせないシステムも発達途上にあり、これらを形成するのに不可欠なのが栄養バランスのとれた食生活なのです。
新型コロナの特徴に、子どもの感染者が少ないことと、たとえ感染しても軽症で済むことが大多数であると判明しています。しかし、どんな時でも成長期の子どもたちに必要なのは栄養バランスの取れた食生活です。再び一斉休校などの事態になったとしても、学校給食に頼らない栄養バランスのとれた食生活を習慣とすることがとても大切です。
(文=林裕之/植物油研究家、林葉子/知食料理研究家)