東京都では、3月時点で24.0%だったテレワーク採用企業が、新型コロナウイルスの長期化で5月には62.7%と2.6倍も急増しています(東京都防災ホームページより)。
テレワークになって、仕事の効率が上がったという人もいますが、多くの人が仕事の効率が下がったのではないでしょうか。実際に、公益社団法人の日本生産性本部が行った調査によると、テレワークになって仕事の効率が「下がった」「やや下がった」と答えた人の合計は、66.2%という結果になりました(日本生産性本部ホームページより)。
パフォーマンスコーチの立場からすると、これは当然の結果といえます。なぜなら、オフィスは仕事の効率が上がるように設計されており、自宅は仕事用に設計されていないからです。ですから自宅で作業する際にはデスク環境や照明など、さまざまな配慮が必要になります。
しかし今回は、自宅のほうがオフィスより圧倒的に仕事に有利となる事例を紹介いたします。
オフィスの冷房に関してダイキンが800人に調査したところ、夏のオフィスの冷房状態を92.5%の人が「不快」に感じていることがわかりました。理由としては「室内の温度にムラがある」「暑すぎる」「寒すぎる」などが主な原因です。
クールビズの関係もありますが、もっとも多くの職場が設定温度を28度にしているからかもしれません。そもそも、クールビズで推奨している「室温28度」という基準に、仕事の生産性の科学的根拠はありません。
2005年に始まったクールビズの当時の担当課長が「科学的に知見を持って28度に決めたのではない。なんとなく28度という目安でスタートし、それが独り歩きしたのが正直なところ」と発言し、物議を醸しました。
実際には、昭和45年に環境省が制定した「建築物環境衛生管理基準」が室内の温度を「17度から28度以内」と定めており、その上限値を基準にしたのが始まりのようです。ですから、28度は室内の温度の上限値であり、仕事の生産性はまったく考慮されていないことになります。
さらに、エアコンの設定温度を28度に設定した場合、実際の室温は28度以上になっていることも考慮して、温度計で実際に室温を確認することも必要です。
仕事をするのに最適な室温は?
では、仕事に最適な室温は何度なのでしょうか。
2005年に米コーネル大学は、保険会社に勤める事務職員のタイプ入力数や入力ミスについて、室温を変えて16日間計測する実験を行いました。その結果、20度の室温の時に比べて、25度の時にタイプミスが44%減り、入力数が150%も増加したというから驚きです。そのほかにも、室温と生産性に関する実験はいろいろ行われていますが、大体25度付近がもっとも生産性が高いようです。
2019年には、兵庫県姫路市役所が設定温度を28度から25度に変えたことで残業代が14.3%減り、人件費が4000万円も削減できたそうです。ちなみに、上がった電気代は7万円ということでした。
そのような事例から、仕事の生産性は平均として25度がもっとも高いことがうかがえます。しかし、ここで注意してほしいのが、最適室温には個人差があるということです。
ダイキンが行った最適室温のアンケート調査でも、平均最適室温は25.1度と、やはり25度付近ですが、年齢が若いほど低い室温を好み、年齢が高くなるほど高い室温を快適と感じる傾向があるようでした。
さらに、年齢より大きいのが男女差です。オランダ・マーストリヒト大学医療センターが2015年に行った調査では、男女で約3度、最適温度に差があったと報告されています。このように年齢や男女、体質によってかなり最適室温に個人差があるので、一概に25度が自分の最適室温とは言い切れません。
ですから、テレワークになって自宅で仕事をする際には、自分が仕事をする上でもっとも快適にできる室温に設定することをお勧めします。ダイキンの調査では、電気代を気にして「少し暑いけれど我慢している」人が多いようです。先の姫路市役所のように、電気代と自分の時給を比べてみるのも重要かもしれません。
テレワークでは、自宅を自分の最適室温にしやすいというメリットを生かして、クーラーを活用して生産性を高めてください。
(文=角谷リョウ/パフォーマンスコーチ)