新型コロナ肺炎のニュースが連日報道されていた4~5月、風邪で病院に行く患者さんが激減しました。先日、薬剤師の私は薬局で休日当番を担当し「今日は風邪の方が多いと予想されるからがんばろう」と気合十分で臨んだのですが、ふたを開ければ閑古鳥が鳴いていました。今までならば「熱が出た」「のどが痛い」「咳が止まらない」というような患者さんで溢れ返っていたのですが、「病院に行くのが怖い」に変わってしまいました。多くの方は自宅療養のみで治しているということです。
風邪の原因のうち80~90%はウイルスです。主なウイルスはライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、アデノウイルスです。コロナウイルスはもともと風邪の原因の一つであり、武漢由来の新型が現れる前までは重要視されていませんでした。そして、これらのウイルスに効果のある薬はないため、風邪の患者はつらい症状を薬で抑えながら自分の免疫力で治るのを待つしかありません。症状を抑えるだけなら市販の総合感冒薬でもできますので、わざわざ病院に行かなくても治せるものです。
原因となるウイルスを検査する方法は、1つ目は咽頭ぬぐい液を検査キットに入れてウイルスがいるか調べるものです。咽頭ぬぐい液は、インフルエンザの検査で使われる、あの綿棒についた液のことです。2つ目は、2週間程度の間隔を空けて血液検査を行い、抗体が増えているかを確認する方法です。しかし、原因となるウイルスを判定するのは難しいことが多く、調べている間に「治っている」ということが多いです。そのため、医師が症状を問診して「風邪です」と診断するのが一般的です。
自宅で風邪を治すための第1ステップは葛根湯
調子が悪いと感じたときは、仕事を休んで自宅にいるようにしてください。症状にもよりますが、まず飲んでおきたいのが「葛根湯」です。軽い「違和感」程度ですぐ飲むようにしてください。
「葛根湯の普通感冒・インフルエンザ重症化抑制効果を検証するランダム化対照試験」というのがあります。葛根湯群と総合感冒薬群に分けてすべての症状が治るまで「風邪日記」として記録したものを調べた研究です。これによると、重症化した割合は葛根湯群で22.6%、総合感冒薬群で25.0%と両者には有意差は出なかったそうです。
また、犬でのデータではありますが、体温を上昇させる効果があります。服用後30分から有意に体温が上がり5時間以上持続するそうです。さらに、マクロファージ(免疫細胞の一つ)のウイルスを食べる能力が服用1時間後から有意に上昇し、24時間後でも持続していたそうです。体内に入ったウイルスが少ないうちにこうした作用を発揮してもらえば、それだけ早く治すことができます。そのため違和感がある時点ですぐ飲めるように「常備薬」として持っておくことをお勧めします。
総合感冒薬が使いにくくなってきている
新型コロナウイルスが蔓延する以前は、病院では風邪の患者に対して総合感冒薬を使って症状を抑え体力を温存するという方法を勧めてきました。しかし米国食品医薬品局(FDA)は、イブプロフェンなどの解熱鎮痛薬の使用により、新型コロナウイルス感染症が悪化する可能性があるとの新規報告を把握しているそうです。FDAはこの問題をさらに調査しており、今後の発表が待たれています。
以前、本連載で書きましたが解熱鎮痛薬は転写因子を増やす作用があります。この転写因子により炎症性サイトカインと呼ばれる物質が大量生産されます。炎症性サイトカインは病原微生物と闘うためにつくられるのですが、薬により大量生産すると総攻撃を始めます。総攻撃した場所で炎症を起こし組織を破壊します。
何が起こるかわからない現在、イブプロフェンを含む総合感冒薬を控えたほうがよいと私は考えています。のどの痛みにはうがい薬、鼻の症状には点鼻薬といった外用薬を使いながら、つらい症状を抑えていくのが今のところ得策と考えています。
それでも薬を飲みたいという方のためにイブプロフェンを含まない総合感冒薬を紹介しておきます。「パブロンSゴールドW」です。「パブロン」シリーズは似たような名前が多いので注意してください。副作用が出なかった方が98.4%と多く、安心して使えます。気道粘膜のバリア機能を改善する薬が2種類配合されています。粘膜をきれいにする「アンブロキソール」と修復する「カルボシステイン」が原因となる微生物の排泄を促します。そして解熱鎮痛薬の「イブプロフェン」が入っていないのがポイントです。12歳以上から服用できます。
「パブロン」シリーズでもう一つ紹介します。それが「パブロン50」です。漢方の「麦門冬湯」が配合されています。さらに痰切り成分を配合しバリア機能を改善します。こちらも「イブプロフェン」が入っていないのがポイントです。こちらは眠気を起こす成分がゼロなので、眠くなっては困る方に適しています。
次に「エスタック総合感冒」です。「エスタック」シリーズも種類が多いので、注意が必要です。バランスよく風邪の諸症状を抑える成分が入っています。5歳から飲める安心設計です。しかも小粒の錠剤です。もちろん「イブプロフェン」は入っていません。
風邪は自宅で治せる場合はそうしましょう。持病のある方は「かかりつけ医」に電話で確認をして医師の判断に従ってください。
(文=小谷寿美子/薬剤師)