イブプロフェンで全身の皮膚にただれ…稀に重症の副作用、妊婦や心臓病の人は要注意
英国の新聞「ザ・サン」は、世界でもっとも発行部数が多いとされる日刊大衆紙ですが、その6月4日号にショッキングな写真が掲載されました。イブプロフェンという鎮痛・解熱剤を服用したあと、皮膚がただれて大変なことになったという女性についての記事でした。
同記事によれば、25歳のタイ人女性は、歯が痛くなりイブプロフェンが配合された痛み止めを朝と昼に1錠ずつ飲んだところ、数時間後に全身の皮膚に発赤やただれ、水ぶくれができたということです。ただちに病院に救急搬送され、集中治療室に入れられ、2週間後にようやく退院することができました。医師からは、皮膚が元通りになるまでには長い時間がかかるだろうと言われました。
このような症状は、薬の副作用のうちでも、とくに重症になりやすく命にかかわるとして昔から知られているもので、スティーヴンス・ジョンソン症候群、あるいはより重い場合、中毒性表皮壊死症と呼ばれています。
この女性が服用した薬の名前は、テレビのコマーシャルにもときどき登場するため「どこかで聞いたことがある」という人が多いかもしれません。市販の鎮痛・解熱剤に配合されている代表的な成分です。
鎮痛・解熱剤とは、そもそもどんな薬なのでしょうか?
まず痛みについてですが、歯痛や生理痛、あるいはケガをしたときなどの痛みは、体内で生成される化学物質(プロスタグランジン)により起こるものです。その働きをおさえる薬が鎮痛・解熱剤で、代表がイブプロフェンやロキソプロフェン(商品名「ロキソニンS」など)です。この化学物質は発熱の原因にもなることから、多くの鎮痛剤は解熱剤としても有効だということになります。
次に、お腹の痛みです。その多くは、副交感神経の過敏な反応によって胃や腸、あるいは胆管や尿管がけいれん状態となって生じるもので、原因となる化学物質も異なっていています。有効な薬も別にあり、抗コリン剤という成分が配合されているものが一般的に使われます。
痛みの仕組みはそれぞれ違っていても、最終的には脳が「痛い」という判断をしますから、その中枢を麻痺させる作用があるアセトアミノフェンという成分も市販薬によく使われています。
いずれにしても、市販薬に配合される薬の絶対条件は、副作用が少ないということに尽きます。
市販薬に広く配合
さて、イブプロフェンですが、アセトアミノフェンと並んで副作用が少ないことで知られていて、とくに妊娠中の服用で奇形児が生まれるという副作用(催奇性)が少ないことから、女性の生理痛薬としてもよく使われています。
国内のあるサイトによれば、イブプロフェンが配合されている市販薬は、総合感冒薬や頭痛薬、生理痛薬など合わせて231種類もあるそうですから【注1】、すでに知らないうちに服用している人も多いはずです。
タイの医師は、イブプロフェンはほかの鎮痛・解熱剤より副作用が強いので注意が必要だと述べており、一方、米国の当局は「めったにない副作用で、100万人当たり2~3人ほど」と説明しています。どちらの見解が正しいのでしょうか?
米国では、政府機関が公開しているホームページ上に詳細な情報が掲載されていて、副作用としては心臓病、血栓症、胃潰瘍、胸やけなどが稀にある程度だとしています【注2】。
日本国内で厚生労働省が行った調査でも、ロキソニンSに比べて、イブプロフェンの副作用の発現頻度は約半分で、服用した人のおよそ1.5パーセントに胃腸障害や眠気が認められるだけです【注3】。調査期間中に重症として報告されたのは1例だけで、症状も神経麻痺というものでした。
激しい皮膚症状は、稀な副作用と考えてよさそうです。ただし、ワーファリンという薬を病院から処方してもらっている人、重い貧血、心臓病、膠原病、血液の病気がある人、妊娠中の女性は、医師に相談してから服用するのが絶対条件です。
報じられたタイ人女性の場合、特異体質だったのか、あるいはタイ人にそのような体質の人が多いのか、詳細は不明です。またタイだけで発売されている市販薬もあるため、何か別の成分によるものだった可能性も否定できません。
(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)
参考文献
【1】「イブプロフェン」に関する薬一覧[市販薬](231件), QLIFE.
【2】https://www.nhs.uk/medicines/ibuprofen-for-adults/
【3】イブプロフェンのリスク区分について, 厚生労働省医薬食品局.