100円ショップ最大手のダイソーで、“サイレント値上げ”が進行していると話題となっている。SNSでの書き込みを見ると「これまで55枚入りのポリ袋が33枚入りになっていた」「30枚入りのマスクが25枚に」「ガムテープが短くなった」といった言葉が並ぶ。
サイレント値上げといえば、コンビニの弁当で容器を上底にしてごはんやおかずの量を減らす手法が話題となっていたが、ここにきて100円ショップにサイレント値上げの波がきているのはなぜなのか。専門家に事情をうかがいつつ真相を探ってみた。
「みなさんもご存じの通り、ここ1~2年は物価の上昇が止まりません。サウジアラビアなど産油国の減産による原油高、ウクライナの戦争による小麦などの食料品の高騰、世界的に起こっている人件費の高騰など、さまざまな要因で値上げが続いています。100円ショップは『100円』であることをウリにしているので、商品の単価を上げるわけにはいかない。となると量を減らすしかありません」(流通ジャーナリスト・西川立一氏)
かつて一皿100円で販売していた回転寿司は「100円寿司」という看板ではなかったため堂々と値上げができたが、「100円」を看板にしていると量を減らさざるを得ないのだ。さらに西川氏は指摘する。
「100円ショップの商品の大半は中国などのアジア諸国で生産され、日本に輸入するという形をとっています。これが昨今の円安の影響をモロに受けてしまっているのです」
10年前は1ドル100円程度だったのが、現在は150円ほど。人民元も10年前は1元15円だったのが現在は20円ほど。
「9月22日に発売されるiPhone15は、アメリカではiPhone14と販売価格は変わりませんが、円安の影響で日本での販売額は5000円値上がりしました。このように円安が進むと、海外で価格が据え置きのものでも日本で発売する場合は値上げせざるを得ません」
さらに、海外では人件費が日本以上のペースで上昇しており、「海外の労働力は日本より安い」「世界の通貨に対して円が強い」という前提で進められたビジネスモデルが崩れているのだ。
100円ショップで、このように量を減らして価格を維持する方法が採られる前に、コンビニでその手法が行われた。その際、上底容器などを使ったため、量が減ったことがパッと見ではわからなかった。それが価格を下げずに量を減らす販売方法にマイナスのイメージを与えてしまったかもしれない。
現在の物価高、円安を考えると、100円ショップという形態はそう遠くないうちに消滅しそうな感じもあるが、どうだろうか。
「現在は100円ショップにとって厳しい状況ですが、業界自体に元気がないわけではありません。サイレント値上げがSNSで話題となっていたダイソーはTHREEPPY(スリーピー)という300円ショップの展開を進めています。販売価格が300円となりますが、100 円ショップが全国に広がり始めた頃にあった『ワクワクするようなグッズ』『目からウロコの便利グッズ』などが並ぶ店を目指して、ユニークな商品を開発しています。
業界2位のセリアは現行の100円ショップ路線のまま突き進むようです。さらに業界3位のキャンドゥは大手スーパー、イオンの傘下に入りました。プライベートブランド『トップバリュ』のあるイオンと手を組めば、他では作ることができない商品を作り出すことができるかもしれません」(同)
今後も物価高が続けば、定番商品のサイレント値上げは続くだろう。しかし「これが300円で買えちゃうの?」といった感動の商品や「円安が進んでいる中、どうやってこれを100円で作っているの?」という高コスパ商品が誕生する土台が業界内には形成されつつあるのだ。
(文=渡辺雅史/ライター、協力=西川立一/流通ジャーナリスト)