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キオクシアはWDとの経営統合が破断しても業績回復して単独経営で生き残れる

文=Business Journal編集部、協力=津田建二/国際技術ジャーナリスト
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キオクシアホールディングスのHPより

 キオクシアホールディングス(旧東芝メモリ)と米国ウエスタンデジタル(WD)の半導体事業部門との経営統合をめぐるニュースが連日続いている。10月15日に日本経済新聞などが経営統合の動きを報じ、3日後の18日、経営統合が暗礁に乗り上げたと各紙が報じた。キオクシアに米国投資ファンドを通じて間接的に出資する韓国のSKハイニックスが、統合に反対し、ソフトバンクバンクグループ(SBG)に連携を打診しているという。

 ところが同日、新たなニュースが飛び込んでくる。ブルームバーグが、SKハイニックスは「ソフトバンクグループに連携を打診していないと指摘した」と報じたのである。さらに20日には産経新聞・朝日新聞など各紙が、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、日本政策投資銀行の4行がキオクシアに対して計1兆9000億円の融資を確約したと報じ、ブルームバーグはキオクシアが産業革新投資機構に出資を打診したと報じた。

 こうして10月末と見られる合意に向けて、駆け込むようにニュースがたて続いているが、焦点はSKハイニックスの動向だ。まずSBGへの連携の打診だが、SBGは半導体設計大手のアームを傘下に加えたことから、半導体製造への進出もささやかれた。しかし「セミコンポータル」編集長兼「newsandchips.com」編集長を務める国際技術ジャーナリストの津田建二氏は「SBGは投資会社の立場で、キオクシアとWDの統合会社が投資案件として収益性を見込めるかどうかを判断するだけで、アームと結び付けた半導体製造は考えていないだろう」と指摘する。

 DRAMの開発に強みを発揮していたSKハイニックスは2020年10月に、米国インテルから大連のNAND型フラッシュメモリー工場を買収した。キオクシアの競合相手になったようにも見えるが、この買収は成果を期待できないという。

「最小限の技術しか保有してない工場で、それゆえにインテルは手放したともいえる。その点、キオクシアはメモリー半導体NAND型フラッシュメモリーの技術では、おそらく世界一の水準にある。SKハイニックスはこの技術を欲しがっている。出資時のデューデリジェンスでキオクシアの工場を視察したときに技術力を高く見極めたのだと思う」(津田氏)

SKハイニックスとキオクシアでは技術水準に格段の開き

 なぜSKハイニックスはキオクシアとWDの経営統合に反対しているのか。NAND型フラッシュメモリー製造でもSKハイニックスとキオクシアでは技術水準に格段の開きがあり、SKはキオクシアに連携できる立場にない。一方のWDはハードディスク・コントローラーに強みを持つ。こうした3社の関係を踏まえて、津田氏は今後の展開を読み解く。

「キオクシアとWDが統合すれば双方の強みを生かせるが、SKハイニックスの出番がなくなるうえに、キオクシアに出資以降、出資額に見合うメリットを得ていない。おのずと統合に反対の立場になる。統合に関与する資金調達の目途がつかないなどの事情で、キオクシアとWDの統合を容認せざる得なくなった場合は、たぶん出資金を引き上げるのではないだろうか」

キオクシア赤字の背景

 かりに経営統合が破談になった場合、キオクシアの経営は転げ落ちていくのだろうか。キオクシアの23年4~6月期連結決算で純利益は1031億円の赤字だった。過去最大の赤字を記録し、早期退職の募集にも着手する。

「ただ、この決算数字はキオクシアの経営に問題にあるからではない」

 津田氏が業績悪化の要因に指摘するのは市況である。

「コロナ禍でスマートフォンが多くの消費者に行きわたり、新規購入需要が低下して、買い替え需要に転化し、需要全体が低下した。スマホメーカーは二重三重に半導体の発注をかけていたが、需要低下によって過剰在庫が発生し、納入単価が大幅に下がって業績は悪化した」

 同様の影響は他の半導体メーカーも受けており、SKハイニックス、サムスン電子、マイクロンテクノロジーなども赤字を出した。市況が回復すればキオクシアの業績回復も考えられるという。

「今が業績の底で、景気拡大にともない今年度の第4四半期から来年度の第1四半期にかけて半導体の価格が上昇する見通しなので、キオクシアの業績も回復するだろう。WDとの経営統合が破談になれば、新たな統合先を探すのではなく、単独で経営していくという判断もあり得る」(同)

 懸念されるのは経営力である。端的にいえば経営者の質で、総じて日本の製造業の経営者が米国企業に比べると見劣りするのは否めない。津田氏は説明する。

「日本の総合電機メーカー全体にいえることだが、経営者が弱い。社員として昇進を重ねた末に社長に就任しているだけで、経営専門の人材とは異なる。米国では菓子メーカーのRJRナビスコCEOのルイス・ガードナーがIBMのCEOに就任するというように、プロの経営者を招へいしている。日本で高く評価された総合電機メーカー社長もいるが、不採算事業の整理で利益率を向上させただけで、売上高は伸ばしていない。成長戦略を策定して自社を発展させたとはいえない」

 日本ではプロ経営者がクローズアップされた時期もあるが、言葉の先行にとどまった。当時、プロ経営者と呼ばれた何人かは「経営者は経営のプロであるべきなのだから、プロ経営者という言葉には違和感を持つ。メディアにプロ経営者として取り上げられるのも軽薄な感じがして好まない」と語っていた。キオクシアとWDが統合した場合、社長にはキオクシア側が就任すると伝えられているが、この人事も統合の効果を大きく左右しそうだ。

(文=Business Journal編集部、協力=津田建二/国際技術ジャーナリスト)

津田建二/国際技術ジャーナリスト、「News & Chips」編集長

津田建二/国際技術ジャーナリスト、「News & Chips」編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。
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Twitter:@kenjitsuda2007

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