おそらく知らない人はほぼいないであろう、大塚製薬の炭酸栄養ドリンク「オロナミンCドリンク」。その知名度の高さのためか、一部ネット上で「他社にパクられまくっている」と指摘され、多くの類似商品が存在することが話題になっている。
オロナミンCは、1965年に大塚製薬が「おいしいドリンク剤」を追求した成果として誕生。大塚製薬の大ヒット商品「オロナイン軟膏」の「オロナ」と、製品に豊富に含有している栄養素「ビタミンC」の「ミンC」を取って「オロナミンC」と名づけられた。発売間もなく「元気ハツラツ!」のキャッチコピーとメガネがずり落ちた大村崑の写真で有名なホーロー看板などが生まれ、一目で分かる赤と白の特徴的なラベルは発売当初からほとんどデザインが変わっていない。
プロ野球・巨人とのタイアップCMなどで爆発的に知名度を高め、「年間約5億本」を安定して売り上げるロングセラーとなり、2021年には国内累計販売本数が350億本を突破。価格の安さも魅力で、2022年に値段が税抜105円から120円へ引き上げられたことが話題になったが、実は1965年の発売当初の価格は120円だった。つまり、一度値下げをして、60年近い歳月を経て元の価格に戻っただけだったのだ。ラベルデザインも含め、この変わらなさが安心感や信頼感につながり、長く消費者に愛され続けているのだろう。
だが、これだけの大ヒット商品となると多くの類似品が出てくるようだ。先日、一部ネット掲示板で「大塚製薬のオロナミンCがパクられまくっている」とする書き込みが話題となった。実際に模倣かどうかは別にしても、よく似ている8種類の類似商品の写真が例として提示されている。これはあくまで一例であり、すでに販売終了になったものなども含めるともっと大量に類似品は存在する。
写真を提示されていたのは、タムラ活性の「ミンナミンC」、日本薬剤の「ビタミンCドリンク」、奥田薬品の「ビタレモンC」などで、ボトルのデザインや名称、特徴的なラベルなどは確かに似ている。どれも「オロナミンCっぽい」のだが、微妙にデザインや名称が異なっていて価格はいずれも「本家」より安めだ。
パッケージに関しては「模倣」かどうかの判断が非常に難しく、これは居酒屋の看板がよく引き合いに出される。大手居酒屋チェーンの「鳥貴族」は、看板のデザインや名称などが似ている「鳥二郎」「やきとりセンター」「豊後高田どり酒場」「鳥メロ」などのフォロワーが生まれ、「鳥貴族」が「鳥二郎」の運営会社を訴えたことがあったが、結果は「和解」であった。似ているのは間違いないのだが、法的に「パクリ」とまで判定するのは容易でないようだ。
そのような事情もあり、オロナミンCにどことなく似ている「ビタミンC系炭酸栄養ドリンク」が大量に誕生し、ある意味で「共生」する状況となっているのだろう。「オロナミン」という特徴的な名称をそのまま使えばアウトだが、どの商品も「誤認する」といえるほどの名称ではなく、ボトルもオロナミンCが一度開けると閉め直せないマキシキャップであるのに対し、類似しているとされる商品はすべてスクリューキャップだ。ただ、パッと見ただけなら「オロナミンCだ」と思うくらいに外見は似ているのだが……。
「今回、酷似しているといわれている商品のうち、私が調べた限り『ミンナミンC』は商標登録がされており、これがどこにでもあるような茶色い瓶に詰められているだけなので、商標違反もその他知的財産権侵害もありません。また、その他の商品名も、『オロナミンC』とは『C』がかぶっているだけなので類似性があるとは思えません。さらに、『瓶』をまねしたという指摘があるかもしれませんが、どこにでもあるような茶色い瓶ですし、『オロナミンC』はマキシキャップなのにそれ以外はスクリューキャップですから類似性がありません。したがって、大塚製薬の『オロナミンC』の人気にフリーライドしたと評価することはできません」
「やっぱりオロナミンCが一番」
デザインがどうであろうと、肝心なのは中身という見方もある。オロナミンCは、ビタミンC、ビタミンB2、ビタミンB6などが含まれ、特に名称の由来でもあるビタミンCは220mgも含有している。だが、類似品も200mg~250㎎のビタミンCを含んでいるとするものが大半で、多少の栄養素の違いはあるものの、正直なところ成分表などで確認する限りはさほど差はないようだ。
しかし、味についてはネット掲示板で「やっぱりオロナミンCが一番」「類似商品は味が結構違うんだけど、やっぱりオロナミンCがおいしいと思う」といった声が多く、長年愛されているだけにオロナミンCに大きなアドバンテージがあるようだ。
多くの類似品が販売されていることについて、大塚製薬に取材を申し込んだところ、「オロナミンC」については立体商標を取得しているとしたうえで、以下の回答を寄せた。
「具体的な回答は控えたいと思いますが、これに限らず、著しく弊社製品のブランド棄損に当たる場合は、適切な対応を行っております」
いくら類似品が出てこようとも、半世紀以上にわたって愛されてきた「国民的飲料」の座は揺るがないという「王者の余裕」が感じられる。
(文=佐藤勇馬、協力=山岸純弁護士/山岸純法律事務所代表)