先日、FOOD&LIFE COMPANIESが傘下の大手回転ずしチェーン「スシロー」の2023年9月期の月次情報を発表。既存店客数が前年比で12.7%も急落し、深刻な客離れが起きていたことが浮き彫りになった。その一方で全店売上高はさほど下がっておらず、客単価は逆に増加するという意外な結果となった。なぜお客が大きく減ったのに売上にはさほど影響がなかったのか、飲食業界の専門家に解説してもらった。
月次情報によると、既存店の客数は昨年10月から今年7月まですべて前年同期比で減少となっており、通期計で前期比-12.7%の大幅減に。特に落ち込みが激しかった昨年11月は26.6%減、同12月は26.8%減となった。全店売上高も昨年10月~同12月まで前年比20%前後も減少するなど厳しい状況だったが、今年7月から前年比で増加に転じ、8月に前年比16.9%増を記録したことなどが影響して、通期計は5.5%の減少にとどまった。
スシローに次ぐ業界2位の「くら寿司」は、2023年10月期の月次情報によると既存店の客数は前年比で2.3%と微減、全店売上は9.3%の増加で堅調。業界3位の「はま寿司」は親会社のゼンショーホールディングスが個別の詳細なデータを出していないので除外するが、業界4位の「かっぱ寿司」は同時期の既存店客数が前年同月比を下回ったのは昨年10月のみで1年にわたって軒並み増加となり、全店売上も前年比16.8%増の月があるなど順調に推移している。
こうして見ると、スシローの客数減少は回転ずし業界の中でも「一人負け」といえるような特筆すべき落ち込み方だったようだ。なぜそれほど激しい客離れが起きてしまったのか、フードアナリストの重盛高雄氏はこのように分析する。
「昨年、景品表示法違反に当たる行為(おとり広告に該当)があったとして措置命令を受けるなど不祥事が続発したことも影響したでしょうが、客数が減少した最大の要因は値上げでしょう。もともとスシローは、くら寿司やはま寿司などの競合店と比べると価格設定が高めなのですが、原材料費高騰などの影響で昨年10月から黄皿が10円アップの120円、赤皿が15円アップの180円、黒皿が30円アップの360円と値上げ(いずれも郊外型店価格)になりました。スシローは郊外型、準都市型、都市型の3形態で価格を分けているので、準都市型や都市型はもっと高い。この値上げで家族連れにとってスシローは敷居が高くなり、はま寿司やくら寿司などに流れてしまったため、客数が大幅に落ち込んだと考えられます。
私が店舗訪問を通して見た感じだと、客層は個人客や男性中心のグループが多くなり、家族連れや若い世代のグループは目に見えて減っているように感じられました。新型コロナの5類移行によって日常が戻り、気兼ねなく外食できるようになったことでお店の選択の幅が広がったことも『値上げしたスシローを避けて別の店に行く』という消費者行動につながったのではないかとみられます。また、スシローは迷惑動画騒動をきっかけに回転レーンでのすし提供をやめ、タッチパネル注文に統一していますが、子どもがパネルで高いメニューを注文したりしたら親は気が気でないでしょうし、混雑時の提供スピードなどの効率も落ちますから、それも客離れに影響したのではないでしょうか」(重盛氏)
家族連れや若者グループを呼び戻し
値上げ直後の昨年11月~12月に前年比25%以上も客数が落ちていることから考えても、多くの客が「高くなったスシロー」から離れてしまったようだ。急激な客離れに危機感を抱いたのか、スシローは今年5月末から最も高い360円だった「黒皿」を手に取りやすい新価格260円に変更。260円を超える高価格帯の商品については、値段を定めない時価ともいえる「白皿」の新規導入で対応した。さらに、最も安い「黄皿」のメニューを従来よりも多い80皿以上に拡大し、家族連れや若者グループの呼び戻しを図った。
その甲斐あって既存店客数は今年7月ごろから大幅に回復。追加策として、スシローは10月から12月末までの期間限定で、かつて回転ずしの代名詞だった「100円皿」を復活させている。ただ、それだけだと「客単価を落として安売りで客を集めている」という状況になってしまうが、実は既存店客単価は昨年10月から今年9月まで一度も前年同期比を下回ることなく、通期計で5%増となっている。なぜ単価を落とさずに客数を回復させられたのだろうか。
「消費者心理として、店を訪れると高めの商品であっても『一度試してみたい』という気持ちが湧いてきます。特に、スシローは期間限定、数量限定といった限定メニューに訴求力があり、思わず注文したくなるような商品を打ち出してきます。告知方法がうまい上に、味についてはこれまで築いてきたスシローブランドの信頼感がありますから、お客さんとしては『高い分だけおいしいはず』と安心して頼める。ちょうど値段的に納得感があって、許容できる範囲の価格帯とメニュー内容にしているのも、スシローの妙味といえます」(同)
それでも苦境にあることに変わりはないスシローだが、低価格から高価格帯まで幅広いメニューを出せるのは、再浮上に向けての大きな強みになるようだ。
「はま寿司のように『一皿100円(税抜き)』とうたっているような店舗をはじめ、他の競合チェーンはメニューの価格展開が限られていますから、高価格帯のメニューは出せません。その点、スシローは価格帯に幅があり、ご褒美的に食べたくなるような高価格帯の商品を自由に展開できます。低価格帯と高価格帯の双方で攻めることができるのは、スシローの大きな強みになるでしょう。スシローに限らず、回転ずしが今後発展していくためには、近年注目されている未利用魚(サイズが小さい等の理由で市場に出回らない魚)の活用なども含め、もっと多様な価格や商品を展開していくべきではないかと考えます」(同)
(文=佐藤勇馬、協力=重盛高雄/フードアナリスト)