ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 日本でGAFAM生まれない理由
NEW

日本でGAFAMが生まれない理由をWinny事件と関連づけるのは正しいのか

文=LUIS FIELD、協力=本田雅一/ITジャーナリスト
【この記事のキーワード】, ,
日本でGAFAMが生まれない理由をWinny事件と関連づけるのは正しいのかの画像1
「gettyimages」より

 3月10日に公開された映画『Winny』。本作は2002年にファイル交換ソフト「Winny」を開発したプログラマー・金子勇氏の不当逮捕について描いた映画で、実話をもとに制作されている。「日本の国家組織が一人の天才開発者を潰した」と解釈できる内容になっており、この事件を取り上げて「アップルやグーグルのような企業が日本で生まれなくなった原因」だとする見解もみられる。たとえば11月4日に実業家の「ひろゆき」氏はSNS・X(旧Twitter)上で、『Winny』に触れている漫画『邦キチ! 映子さん』へのリンクと共に次のように投稿している。

<「何故、日本からGoogleやfacebookやappleが生まれないのか?」とか言う人に答えを教える漫画。 ソフトウェア開発者を逮捕して刑事事件にした日本に莫大な損失を与え続けてる京都府警はお咎め無し。 上場IT経営者を逮捕した事件も同上」>

 そこで本記事では改めてWinny事件を振り返り、世界的IT企業が日本に誕生しない理由についてITジャーナリストの本田雅一氏に話を聞いた。

Winny事件とは何だったのか?

 金子氏によって開発されたWinnyとは、インターネット上でつながった複数のユーザー間でファイルを共有できる「ファイル共有ソフト」のこと。サーバーを介さずに不特定多数の端末同士でファイルを共有できる「P2P(ピアツーピア)」技術を発展させ、大容量データの送受信を可能にした。そんな画期的なソフトを利用する人は瞬く間に増え、一時は200万以上の人が使用していたともいわれている。映画やゲーム、音楽などのデータが違法的に交換され、著作権侵害と指摘されるようになった。さらに情報を漏洩させるウイルスが同ソフトによって広まり、機密データがインターネット上に漏洩する問題も発生した。

 違法コピーした人が逮捕されるなか、04年5月に著作権法違反幇助の容疑で金子氏が逮捕される。弁護団が結成され、金子氏と共に逮捕の不当性を主張するも、第一審では有罪判決が下される。金子氏は約7年後の11年12月に無罪を勝ち取るが、13年に急性心筋梗塞で亡くなるのだった。

GAFAMのような世界的企業が生まれないのはWinny事件の影響なのか

 Winnyを悪用する人が後を絶たなかった結果、開発者の金子氏まで逮捕されることになった。いくら良質なソフトを開発しても逮捕されるリスクがつきまとうため、開発者が二の足を踏むようになったという見解もみられる。開発者に厳しいことが露呈した日本だが、こういった経緯から囁かれ始めた「GAFAMのような企業が生まれないのは、Winny事件のような事件が起こる土壌が原因」という見解は的を射ているのだろうか。

「金子氏のような開発者が捕まるような日本だから、日本から世界的IT企業が誕生しなかったという見方は少々強引だと考えています。その理由は2つあります。

 1つは、Winnyが非合法なファイル転送を匿名で行うことを幇助することを目的で設計されている可能性が高いことです。Winnyの特徴は暗号化されたファイルを細かく分割し、ネット上のさまざまな端末に分割保管。ダウンロードする際には、分割データを様々な端末から取得して結合されます。ユーザーは、どの端末がどのデータに関与しているかを知る由もありません。開発前後の背景や金子氏の書き込みなどを振り返ると、著作物を公衆向けに送信する『公衆送信権』の侵害を避けるための工夫です。一度アップロードしたファイルはWinnyのネットワークから削除できないなどの問題もあり、合法的な使用を想定していたとは考えにくい部分が多い。当時、非中央集権的な分散共有の仕組みも登場し始めてましたが、匿名性に強くこだわった設計には意図を感じざるを得ません。

 世界的IT企業が登場しなかったのは、当時の社会的な構造としてボトムアップでのアイディアが採用されにくい問題があったことのほうが影響としては大きい。Winnyが世に出た頃を振り返れば、大企業が支配している既存のビジネスが極めて大きく支配的な一方で、IT技術をはじめとする新しい要素技術やサービスの研究開発も、大企業のビジネスモデルを拡張・発展させる方向に向いていました。社会全体が、それまでに存在していなかった発想を受け入れにくい構造だったことは否めません。“非中央集権的”な考え方や“分散型ファイル共有”といったアイディアそのものは有益ですが、金子氏が開発したWinnyはそうした先進的なアイディアを売り込んでいた訳ではありません。優れたアイディアも、提案のやり方次第で社会からの受け入れられ方が異なるのは当然ですから、いずれにしろ投資対象にはなりえなかったでしょう。

 一方で、アメリカはかつての産業・社会の構造的問題を乗り越え、1990年代半ばから大企業が取り組むにはまだ小さい産業だったパソコン向けソフトを出発点にベンチャーが勃興し、IT技術で発展することで国力全体が高まり、ベンチャー投資や育成へのノウハウや社会的な受け入れ体制も整って行きました。その結果、GAFAMのような世界的企業が誕生しましたが、国ごとに異なる歴史をWinnyと結びつけるのは論理の飛躍が過ぎると思います」(本田氏)

日本に世界的IT企業が誕生するのは難しいのか

 産業構造が変化したことによってアメリカが世界のITを先導する現在、日本に世界的IT企業が誕生することは難しいのだろうか。

「クラウドやスマートフォンなどのイノベーションは、すでに“引き起こされたもの”です。それを生み出した企業の土俵に立っています。土俵の上で勝負はできても、それはすでに作られた他国企業のプラットフォーム上での話です。そこで勝負したところで世の中は変わりません。

 一方で、日本が世界に先駆けて直面している少子高齢化が、世界的企業を生み出すきっかけになる可能性はあると思います。日本の少子高齢化の状況を考えた時に、労働人口が減少していくなか、今の社会を維持・発展させるには創意工夫が必要です。今後、日本以上に少子高齢化が進むと言われる大国が多数ある中、人口が減少する中でどのように社会を維持し、経済活動を拡大していくのか。テクノロジーだけではなく、創意工夫によって克服することができれば、そのソリューションを海外に輸出していくことはできるかもしれません」(同)

(文=LUIS FIELD、協力=本田雅一/ITジャーナリスト)

本田雅一/ITジャーナリスト

本田雅一/ITジャーナリスト

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

Twitter:@rokuzouhonda

日本でGAFAMが生まれない理由をWinny事件と関連づけるのは正しいのかのページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!