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中途採用の応募者に現勤務先への退職意思伝達を確認…ゲーム会社に真意を聞く

文=日野秀規/フリーライター
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サイバーコネクトツーのHPより

「ドラゴンボールZ KAKAROT」「戦場のフーガ」などのタイトルで知られる老舗家庭用ゲーム会社サイバーコネクトツーの創業者で、代表取締役を務める松山洋氏は、ブログサイト「note」で定期的に情報発信を行っている。「週刊少年松山洋」と題して、同社およびゲーム業界についての情報公開や提言などを重ねており、なかには挑戦的なタイトルの記事も含まれる。2023年9月4日公開の記事「私はあなたを殺しません、だからあなたも私を殺さないでください」は、その物騒なタイトルも引きとなり広く読まれた結果、SNS上ではさまざまな反応が生じた。その内容は中途採用における引き抜き(転職エージェントを使った求人活動)の否定と、応募者に対して、退職意志を現勤務先に告げることを求めるというもの(以下、松山氏の「note」記事より引用)。

<弊社では中途採用を行うにあたって、他のゲーム企業にはあまり無いルールが存在します。それは中途採用を進める前に、その応募者が現在所属している企業に対して退職の意思を伝えていることを確認している、ということです。もし退職の意思を伝えずに「転職先が決まったら会社に退職することを伝える予定です」という方に対しては「では弊社での採用は進められません、少なくとも現在所属している会社に対して退職する意思を伝えてから改めてご応募ください」と伝えています>

<ゲーム業界の一部の企業は頻繁に引き抜き行為を行っているというメーカーが存在します。それ自体の良し悪しを語るつもりはありませんが、私はそういった行為を激しく嫌悪しています。そもそも企業に入社する時には「ぜひ御社に入社させてください、よろしくお願いします」と言って入社しているにも関わらず、退職する時には先に転職先を決めてその後に「退職します、次の転職先も決まっています、入社時期が○○なのでこの日までに退職させてください」というのはあまりにも行儀が悪い不躾な行為だと私は思っています>

 SNSでは「転職活動者にも生活がある」「転職できなかった場合の肩身の狭さ、昇給・昇進面で不利益を被るリスクを応募者に負わせるのか」といった反発が起こった。松山氏に、その真意と発信に至る経緯を尋ねた。

創業以来28年間変えていない「会社の根幹にかかわるポリシー」はゲーム業界でも特異なもの

 2024年春に大阪の開発拠点オープンを控えて採用活動を行うにあたり、改めて採用ポリシーを周知しておきたかったと松山氏は語る。氏のもとにはどのような反応が寄せられたのだろうか。

「多くの人の目に留まるように、記事のタイトルはあえて強度のあるフレーズにしました。反応は2通りに分かれ、おおむね想定通りです。業界内ではそれなりに認知されているので、関係者からは『相変わらずだね』という程度です。当社を知らない人からは『こんな意味不明なポリシーあり得ないだろ』といった反発の声も届きました」

 転職をする際には、内定を獲得してから現勤務先に退職を申し出ることが一般的な流れだ。松山氏のポリシーは、ゲーム業界では一般的で説得力を持つものなのだろうか。

「他社と情報交換をする席や、新卒採用の合同説明会などで『いまだに非常識にやっているんですね』と言われることはよくあります。やはり特有の考え方なのでしょう。noteに書いた内容は創業から28年間、変わっていないポリシーです。根幹にかかわるものなので、時代や一般常識とは関係なく、曲げるつもりも変えるつもりもありません。誰に押し付けるものでもなく、自分のポリシーを公開しただけなのですが、記事を読んで自分を否定されたような気持ちになった人がいたようです。反発も読まれたうえでの反応ですから、目論見は成功したのかなと思っています」

すべてのスタッフが同じ方向を向くために、知りたいのは応募者と会社の「水が合うかどうか」

 反発も覚悟のうえで、それでも松山氏は採用ポリシーを世に広く訴えたかったということだ。賛成するにも批判するにも、そこに込められた思いや目的を知っておくことは必要だろう。

「前提として、人材採用において重視しているものが他社とは異なっていると思います。基本的に、ゲーム業界はどこも人手がまったく足りていません。できるだけ人材を多く確保したい、しかも即戦力が欲しいという会社が多くなります。そういった企業が第一に見ているのは能力です。当社はもちろん能力も見ていますが、それ以上に『能力の発揮のしかたを当社に合わせることができるか』という点を重視しています」

 仕事において能力を十分に発揮できるかどうかは、会社と水が合うかどうかが極めて重要だと松山氏は強調する。会社のポリシーを理解したうえで応募してくれた人であれば、応募数は少なくても当社に向いた人に絞られ、かえって話が早いというわけだ。人は会社と歩みを同じくして成長していくものであり、むしろ能力はあっても他社のやり方に凝り固まっている人は厳しい。すべてのスタッフが同じ方向を向いて進んでいくことがベストだと、松山氏は考えているのだ。

水面下の転職活動を「行儀が悪い、ぶしつけだ」と言う「背景」と「思い」とは?

 今回のnoteエントリーに批判的な反応もあがったのは、転職希望者に求めるリスク負担の大きさに加えて、刺激的な表現にも原因がありそうだ。勤務先に開示せず転職活動をすることを「行儀が悪い、ぶしつけだ」と断じる、その真意は何だろうか。

「当社の人事担当者ともよく話すのですが、採用の場面では『私を雇ってください』というふうに採用応募で売り込んできた人が、退職する時は自分の都合だけで辞めるのか、入る時の話と違うじゃないか、と思うことがあります。退職を考えた時、まずは勤務先に相談することが最初で、それが礼儀ではないでしょうか。そのうえでしっかり引継ぎをして正々堂々と退職すれば、狭い業界でまた顔を合わせた時にも普通に話すことができるはず。それが立つ鳥跡を濁して、隠れるようにこそこそ離れていく人がこの業界は少なくないのです」

 会社は変わっても業界の仲間として挨拶できるような関係でいるための、いわば「仁義」として松山氏は採用ポリシーへの賛同を求めている。もちろん誰が賛成するのも批判するのも自由であり、労働者や経営者個々が自分の価値観に基づいて判断し、行動すればよいことだろう。サイバーコネクトツーは、現に採用の実を上げている。

 最後に、そうはいっても比較上弱い立場にある応募者に高いハードルを課していることについて、そのカウンタパートである松山氏自身の「あり方」を尋ねてみた。経営者としての矜持と行動は、主張の正当性を担保する1つの材料になると考えたからだ。

「当社と他社が決定的に違うのは、代表である私が現役のクリエイターであることです。現場スタッフと苦労や問題意識を共有することで、経営者と社員という関係と、仲間というスタンスを両立できると考えています。そしてもう1つ、私が私腹を肥やしたいタイプの経営者でないこともあるでしょう。会社があげた利益はスタッフの待遇とスキルアップに還元して、会社と社員がともに成長することしか考えていません」

「私は会社の利益を別荘やプライベートジェット、高級時計に変えていくタイプの経営者ではありません」と松山氏は笑いを交えて言う。社員が会社のことを自分事と考えられる環境を作り、維持していくために求める「基本合意」が、同社にとっては採用ポリシーということになるのだろう。

(文=日野秀規/フリーライター)

日野秀規/フリーライター、個人投資ジャーナリスト

日野秀規/フリーライター、個人投資ジャーナリスト

社会経済やトレンドについて、20年にわたる出版編集経験を活かし幅広く執筆活動を行っている。専門は投資信託や ETF を利用した個人の資産形成。

Twitter:@kujiraya_fp

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