「世界1位」BYDの憂鬱…テスラを抜いた裏で“4カ月連続減”、中国EV市場の飽和

●この記事のポイント
・BYDはEV世界首位を奪還したが、中国市場の飽和で販売は4カ月連続減。価格競争の限界、IT勢の参入、海外関税強化が同時に襲い、成長モデルの転換を迫られている。
・米欧の高関税で中国EVの海外展開は封じられた。国内過当競争と地政学リスクが重なり、BYDは「売れば成長」の時代を終え、守りの経営局面に入った。
・BYDは全固体電池を逆転の切り札とするが、量産とコストの壁は高い。EV一本足から多角化へ向かう世界潮流の中で、世界王者の真価が問われている。
「棚ぼた」の首位奪還と、忍び寄る需要の絶壁
2025年、世界の自動車産業に激震が走った。中国の比亜迪(BYD)が、BEV(電気自動車)の年間販売台数でテスラを抜き、世界首位に返り咲いたのである。
かつてイーロン・マスク氏が「中国のバッテリー屋」と揶揄した企業が、ついに世界の頂点に立った——その事実は重い。しかし、その内実を冷静に見つめると、祝杯を挙げるにはあまりに不穏な兆候が並ぶ。
BYDの首位奪還は、自社の爆発的成長というよりも、テスラの販売不振(前年比マイナス成長)という「外的要因」による側面が大きい。さらにBYD自身も、直近で4カ月連続の前年割れを記録。世界一の称号を手にしたその瞬間から、同社は「成長企業」から「耐久企業」への転換を迫られている。
●目次
中国国内市場の袋小路——EV普及50%の“その先”
BYDの急成長を支えてきたのは、14億人を抱える中国市場だった。しかし、その巨大市場は今、明確な飽和局面に入っている。
2025年、中国のNEV(新エネルギー車)普及率は一時50%を突破した。これは裏を返せば、「欲しい層には行き渡った」状態を意味する。
自動車アナリストの荻野博文氏はこう指摘する。
「上海や深圳などの沿岸部ではEVはすでに“当たり前”の存在です。残された地方市場は、充電インフラや可処分所得の制約が大きく、同じ成長曲線は描けません」
象徴的なのが、BYDが2025年の販売目標を550万台から460万台へ下方修正した事実だ。90万台分の需要が「消えた」この修正は、単なる調整ではなく、構造的な需要鈍化の表れと見る向きが強い。
IT巨人の襲来——クルマの「スマホ化」が突きつける現実
BYDを最も追い詰めているのは、既存の自動車メーカーではない。シャオミやファーウェイといったIT企業の本格参入である。
彼らはクルマを「移動手段」ではなく、巨大なモバイル端末として再定義した。

「BYDは“良いクルマ”を作っているが、若年層が求めているのは“楽しい体験”です。このギャップは想像以上に大きい」(荻野氏)
BYDの武器だった価格競争は、今や自らを傷つける刃になりつつある。利益率の急低下、ブランド価値の毀損、中古車市場の混乱ーー、こうした状況を受け、中国政府も「不当な価格競争の抑制」に動き始めた。価格競争を封じられたBYDは、戦略の再構築を迫られている。
封じられる海外市場——関税という「見えない壁」
国内で余った在庫を海外へ——そのシナリオも、地政学リスクによって閉ざされつつある。
・米国:追加関税100%
・EU:最大約45%
・カナダ、トルコ:100%関税
「これは保護主義ではなく、安全保障と産業政策の問題です。中国EVは“安いから売れる”時代を終えました」(政策アナリスト・田代隆盛氏)
BYDが極秘裏に進める全固体電池開発は、2026年量産開始が噂されている。
ただし電池技術の研究家からは「性能より難しいのは量産コストです。トヨタやサムスンSDIも同じ壁に直面しています」と、慎重な意見が漏れてくる。成功すれば逆転、失敗すれば致命傷——まさに最後の賭けである。
世界は「EV一本足」から多角化へ
EV一辺倒の未来に、消費者と政策がブレーキをかけ始めている。
欧米で補助金縮小
HV・PHEV回帰
EUの2035年方針修正
その中で、トヨタの「マルチパスウェイ戦略」が再評価されているのは象徴的だ。
BYDは今、「攻め」の成長企業から「守り」の世界王者へと立場を変えた。問われているのは販売台数ではない。技術・ブランド・信頼を再構築できるか——その一点だ。
世界一の重圧の中で、BYDは真のグローバル企業へ脱皮できるのか。その答えは、2026年以降の選択が示すことになる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











