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「10年待ち」解消へ動く電力業界…データセンター送電網増強の裏にある3つの論点

2026.07.19 05:55 2026.07.18 20:34 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家

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●この記事のポイント
東京電力など大手電力8社が、AI・データセンター需要の急増を受け、全国30カ所で変電所を新増設し送電網を増強。従来最大10年かかった系統接続の迅速化を図る一方、24時間稼働向け脱炭素電源の確保や、託送料金を通じた投資コスト回収の公平性など、残る課題を専門家の視点も交えて解説する。

 東京電力ホールディングスをはじめとする大手電力8社が、全国30カ所で変電所を新増設し、送電網を大幅に増強する計画を進めていることが日本経済新聞の報道で明らかになった。生成AI(人工知能)の急速な普及によって新設が相次ぐデータセンター(DC)向けに、電力需要予測の2倍のペースで整備を急ぐという、業界としては異例のスピード感を伴う投資である。

 この動きが注目される理由は、日本の電力インフラが長年とってきた「需要が確定してからインフラを整備する」という後追い型の発想からの転換にある。これまでDC事業者が電力会社と接続契約を結んでから実際に送電設備につながるまで、事例によっては最大10年程度を要することがあり、これが日本国内でのDC新設・増設における大きな制約要因となってきた。今回の8社そろっての先手投資は、AIインフラをめぐる国際競争において、日本が投資先として選ばれ続けるための布石だと評価できる。

 実際、千葉県印西市では2024年6月、東京電力パワーグリッドが275キロボルトの超高圧送電を可能にする全長10.1kmの地下トンネルを稼働させ、周辺DCの供給力を押し上げた実績がある。今回の全国30カ所での増強は、この印西方式を全国に横展開する試みと位置づけられる。

 背景にあるのは、生成AIの普及に伴うDC電力需要の急拡大だ。電力広域的運営推進機関(OCCTO)の需要想定では、DCと半導体産業の電力需要は2034年度に産業部門全体の1割強を占める規模へと拡大する見通しが示されている。加えて、地政学リスクの高まりを受け、台湾・中国周辺に集中していたアジアのDC投資を、安定した電力供給とインフラが期待できる日本へ振り向けようとする外資系ハイパースケーラーの動きも重なる。電力会社にとって、系統整備の遅れがそのまま日本のDC誘致競争力の低下に直結しかねないという危機感が、今回の異例のスピード投資の背景にあるとみられる。

●目次

送電網の増強で、ボトルネックは本当に解消するのか

 送電網増強がもたらすプラス面は明快だ。DC事業者にとって立地選定から稼働開始までのリードタイムが大幅に短縮されれば、アジア域内における日本のDC拠点としての競争力は着実に高まる。また、これまで首都圏・関西圏に約9割が集中してきたDCを、送電網に余力が生まれる東北や九州といった地方へ分散させる物理的な土台が整うことにもなる。

 もっとも、残る課題もある。今回の整備はあくまで各地域内の変電所・配電網レベルの対応が中心だ。北海道でつくった電気を首都圏へ送るための地域間連系線など、日本全体を貫く「基幹送電網」レベルのボトルネック解消は国主導の別プロジェクトであり、両者が歩調をそろえて進まなければ、全国最適化には至らない。

「変電所の増強はDC誘致の必要条件だが、十分条件ではない。地域間連系線の整備という国家プロジェクトと足並みがそろって初めて、地方分散という狙いが実現する」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)

次に直結する「電源の質」の課題――24時間稼働と脱炭素のジレンマ

 送電線という「道路」が太くなっても、そこを流れる「電気」の中身が伴わなければ意味がない。AI向けDCは24時間365日、一定の大電力を消費し続けるベースロード型の需要を持つ。一方で、Microsoft、Google、Amazonといった外資系ハイパースケーラーの多くが求めているのは、再生可能エネルギー由来の電力、すなわち脱炭素電源での運用だ。

 ここに構造的なミスマッチが生じる。日本が強みとする太陽光発電は夜間に発電できないため、送電線に空きがあっても、夜間帯に供給できるクリーンな電力そのものが不足しがちになる。夜間需要を賄う大型蓄電池はコスト面でなお発展途上にあり、普及には時間を要する。結果として、原子力発電の再稼働や、過渡期の選択肢としてCO2回収技術を組み合わせた火力発電など、安定的なベースロード電源をどう確保するかという、国のエネルギー基本計画そのものに関わる論点に行き着く。資源エネルギー庁の審議会資料でも、DCなど大規模需要を脱炭素電源の近傍に誘導し、先行的・計画的な系統整備を促す仕組みの検討が課題として挙げられている。

 政府の「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」でも、東京・大阪を補完する第3・第4の中核拠点として、風力発電の適地である北海道や九州へのDC誘致を促進する方針が示されている。送電網が地方まで太くつながることは、こうした「再エネの豊富な地域にDCを誘致し、電力の地産地消を進める」という国の戦略とも整合的だ。もっとも、再エネの適地とDCの需要地が離れていれば、結局は長距離送電の整備という別のボトルネックに直面する。送電網の「量」の拡大と、電源の「質」の確保は、切り離して語れない一体の課題であることが改めて浮き彫りになる。

巨額の投資コストは誰が、どう回収するのか

 先手を打つ投資判断は経営戦略として評価できる一方、送電網はあくまで公共インフラであり、その費用回収の仕組みを冷静に見ておく必要がある。送電網の整備費用は基本的に、電気料金に含まれる「託送料金」(送電網の使用料)を通じて回収される。経済産業省の資料によれば、印西エリアで今後必要とされる上位系統の工事費用は総額2000億円を超える見通しで、この費用負担の大半は、地域の需要家全体で薄く広く負担する「一般負担」の枠組みに組み込まれている。

 ここで論点が分かれる。想定通りDC誘致が進み、安定した託送料金収入が得られれば、送電網全体の維持コストが広く分散され、中長期的には既存の家庭や企業の負担が軽減される可能性がある。逆に、誘致競争に敗れたり、実際の稼働率が計画を下回ったりした場合、投資が「空振り」となり、その維持費が一般の電気料金に転嫁される懸念も残る。実際、資源エネルギー庁の系統整備に関する検討会資料でも、DC事業者が提出した契約電力計画が後になって下方修正されたり、使用実績が計画に届かなかったりする事例が複数報告されている。

 海外でも同様の議論は進んでいる。データセンター急増を背景に、米国では送配電投資の拡大に伴い家庭向け電気料金が2割近く上昇したとの報道もあり、需要と供給のミスマッチをどう制度的に手当てするかは、日本に限らず先進国共通の課題となっている。

「送電網投資は”当たれば地域の負担軽減、外れれば地域への転嫁”という二面性を常に持つ。だからこそ需要予測の精度向上と、行き過ぎたリスクを電力会社だけに負わせない制度設計が同時に問われる」(同)

AI時代のインフラ立国へ向けた「第一歩」

 今回の電力8社の動きは、後手に回りがちだった日本型インフラ整備からの転換点として評価できる。ただし、送電網の整備そのものはゴールではなく、あくまでAI時代のデジタルインフラ競争を戦うための前提条件にすぎない。

 今後は、①送電網という「道路」の整備に加え、②安定的な脱炭素電源という「中身」の確保、③コストと便益を公平に分配する「制度設計」――この3つがそろって初めて、日本のAIインフラ戦略は実効性を持つ。逆に言えば、いずれか一つでも欠ければ、送電網だけが太くなった「片肺飛行」の状態が続き、DC誘致競争における日本の優位性は限定的なものにとどまりかねない。

 これは電力業界だけの話ではない。自社が利用するクラウドサービスの料金や、データセンターに依存する事業のコスト構造にも直結しうる、国家レベルの構造変化として注視する価値のあるテーマだ。今回の電力8社の投資が、単なる一過性の設備増強にとどまらず、電源構成の見直しや託送料金制度の再設計まで含めた一連の政策パッケージとして完結するかどうか。それこそが、日本がAI時代のインフラ立国として存在感を発揮できるかを左右する分水嶺になるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=佐伯俊也/エネルギー政策研究家)

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公開:2026.07.19 05:55