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清水和夫「21世紀の自動車大航海」(2月9日)

クルマ、視線・音声・ジェスチャーでの操作に…トヨタ、人工知能に1千億円投資

文=清水和夫/モータージャーナリスト

 24時間365日眠らない街、米ラスベガス。ゴールドラッシュの頃に形づくられた街に、“バグジー”ことベンジャミン・シーゲルがカジノホテルの礎を築き、マフィアの暗躍する時代を経て、一大エンターテインメントシティへと発展した。人によって抱くイメージはさまざまだろうが、今のラスベガスを語るキーワードのひとつは間違いなく「コンベンション」(会議、催事)だ。

 なかでも毎年1月開催のCTA(Consumer Technology Association:全米民生技術協会)主催「CES」(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)は抜群の注目度を誇る。もともと世界最大の家電IT見本市として有名だったが、ここ最近は毎年のように自動運転のコンセプトモデルが発表され、話題性は格段に上がった。自動車業界からの出展社数は今年も過去最高を更新し、完成車メーカーは9社、サプライヤーは115社以上、出展面積は前年比25%増の20万平方フィートに達した。

通信機能が進化

 今年の自動運転を象徴するキーワードは「コネクティッド(つながる)」だ。

 トヨタ自動車はまさに「つながる」技術に関する取り組みを発表している。それは、通信機能を備えたデータ・コミュニケーション・モジュール(DCM)の搭載車両を増やし、収集したデータを製品開発やサービスの質向上に役立てるというもの。ドライバーにとっての日常的なメリットは、スマートフォン(スマホ)用アプリが使えるなどの利便性だが、事故が発生した際にはエアバッグ展開と連動した緊急通報システムが作動し、初期対応の迅速化が図られるという。

 また、先ごろ日本市場撤退の報道が出て世間を騒がせている米フォード・モーターだが、米国市場ではもちろん元気がいい。CESではインターネット通販大手アマゾンとの提携を発表した。アマゾンの人工知能搭載スピーカー型デバイス「Echo(エコー)」と、フォードの車載テレマティクスシステム「SYNC(シンク)」がつながるという内容だ。エコーのコア技術はiPhoneの「Siri」やAndroidの「OK Google」のような音声認識で、ニックネーム「Alexa(アレクサ)」と呼びかけると、「今日の天気を教えて」「ミュージックリストを再生して」などと声で操作できる。日本では発売されていないが、米国ではかなり人気が高い。

 このエコーと車がつながることで、車内の空調オンオフや充電残量の確認、ガレージの開閉などを遠隔で行える。エコーは家電製品とつながっているので、将来的にはアレクサが冷蔵庫の中身を確認し、ドライブの帰りに行きつけのスーパーマーケットまで連れて行ってくれるかもしれない。

多様化する操作方法

 コネクティッド以外では、ドライバーと車との情報のやり取りの手段、すなわち「HMI(Human Machine Interface)」に関連した展示も多かった。

 独フォルクスワーゲン(VW)は、コネクティッドカーのコンセプトモデル「e-Golf Touch」にジェスチャーコントロールに対応する9.2インチのディスプレイを搭載。独BMWもジェスチャーによる操作に関する技術を披露している。

 また、パナソニックが最新インフォテインメント(情報と娯楽の融合)技術のモックアップ(模型)として注力している「eコックピット」(電子化した運転席周り)にも、ジェスチャー対応の美麗なディスプレイが並んだ。運転席正面のヘッドアップディスプレイは視線追跡装置と連動しており、目線を2秒以上固定するとそのアイコンが立ち上がるようになっている。

 一方、大手自動車部品メーカー・独コンチネンタルは、なだらかな曲面のモニタを採用した「カーブド・センター・スタック・システム」を出展。こちらはジェスチャーではなく、指で触れて操作する。ダイヤルをくるくる回すと返ってくるカタカタという振動はなんとも心地よい。

 操作する人間にとってベストなのはジェスチャーか、視線か、手か、あるいはSiriのような音声か。人間にとって快適な操作とは、どのようなものだろうか。答えはひとつではなさそうだが、自動車を乗り換えるたびに新しい操作方法を学習しなければならないとしたら、それは面倒だ。誤操作の元にもなる。やはり直感的に理解できるインターフェースが望ましい。

AIの進化で自動運転実現が間近に

 自動運転の実現に向けて、機械やシステムはこれからもっと賢くなっていく。

 トヨタが公開した「ぶつからない」ことを学ぶデモンストレーションは、機械が自ら学習して賢くなっていくというもの。クリアカバーで覆われたデモ用のフィールドには4つの円柱が立ち、6台の模型のプリウスが置かれている。スタート時は6台とも無秩序に走り、あちこちにぶつかって模型同士がもつれたような状態だったが、少しずつ糸がほどけるように挙動が安定し、やがてぶつからずに同じ方向に周回するようになった。

 このデモを担当したのは昨年トヨタが出資して話題になったベンチャー企業Preferred Networks(PFN)。機械学習は人工知能(AI)の基盤となる技術だとされるが、PFNが得意とするのがまさにこの領域だ。

 トヨタはAI研究の新会社Toyota Research Institute, Inc.(TRI)の設立についても発表している。新会社のCEO(最高経営責任者)を務めるギル・プラット氏は米国のロボットに関する国家プロジェクトを率いたAIの専門家だ。主要メンバーにはトヨタ技術統括部主査の岡島博司氏をはじめ、機械学習やクラウドコンピューティングの専門家らがずらりと揃う。予算は5年間で約10 億ドル、日本円にして1200億円弱を見込む。

 自動車業界の新年行事として完全に定着した感のあるCES。来年はどういった技術がお目見えするのか、今後もCESからは目が離せそうもない。
(文=清水和夫/モータージャーナリスト)

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