トヨタ自動車と、トヨタグループが展開するクルマのサブスクリプションサービス会社KINTOが開発した「ボディカラー塗り替えサービス」に期待が集まっている。
約100色の中から自由にボディカラーを塗り変えることができるという。もちろん、古くからボディの全面塗装の技術は存在した。事故によってボディが損傷した時には「オールペイント」という手法で塗装することは珍しくはない。好みのボディカラーに塗り替える要望にも対応可能だ。最近では、塗料で塗るのではなくラッピングが主流になっている。コンピューターで描き印刷したフィルムをボディに貼るこのが可能で、つまり、塗料では再現できない細かい絵や写真を再現できることから人気なのだ。
今回、トヨタとKINTOが開発した塗装技術は、これまでの塗装よりも格段に簡単である。ボディを特集な膜でコーティングし、その上に塗装する。この塗料は風雨などで簡単には剥がれない。だが、水を高圧で吹き付けると、コーティング塗膜が剥がれるという仕組みだ。薄皮を剥がす要領である。元のボディを痛めない上に、カラーに飽きたら塗り替えることも簡単だ。たとえば、ボンネットを赤、ドアを黒、といったカラフルなクルマに仕上げることも可能なのである。
トヨタとKINTOが「ボディカラー塗り替えサービス」を始めた理由は、ボディカラーの没個性化にある。日本の市場では、白と黒が圧倒的に人気である。車種によっては、下取りの査定価格に100万円ほど差が出ることも珍しくはない。
ゆえに、オレンジやイエローといった個性的なカラーが好みでも、リセールバリューを意識して白や黒で妥協するユーザーも少なくない。そんなユーザーには、ボディカラー塗り替えサービスはありがたい。
今回、トヨタとKINTOがこのサービスを始めることにした理由がまさにそこで、白や黒以外では残価に差が生じることを防ぐ狙いがある。あらかじめ下取り価格で有利な白か黒をサブスクリプションで契約しておき、好みの色に塗り替えてカーライフを堪能する。契約満了時には塗膜を水圧ではがし、予定通り高値で納めるという手法である。
これによって、サブスクリプションを控えていたユーザーのカーライフを演出する目的がある。ボディカラー塗り替えサービスは、サブスクリプションだけではなく、クルマを購入したユーザーにも対応するという、下取り価格を有利にすることは買い替え需要の喚起でもあり、メーカーにとっては二重で利益が期待できる。画期的なシステムなのである。
スポーツカーはイエローでなければ納得できない、というユーザーも少なからず存在する。せっかくのカーライフなのに、凡庸な色彩で妥協するユーザーには朗報だろう。
海外から日本に戻ると、薄鼠色のくすんだ景色に思えることがある。国によって印象は異なるが、その理由の一つはクルマのボディカラーにある。白と黒のクルマが多いからでもある。ボディカラー塗り替えサービスの普及によって、日本の道が少し華やかになるかもしれない。そんな期待もある。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)