—大阪という土地柄を考慮して、前衛的要素が強すぎる点についての懸念はありませんでしたか。
野村 「東京や京都ならまだしも、大阪で成功するわけがない」という意見が大半を占めました。私たちが運営する会員制サロン「ナレッジサロン」の年会費は10万円です。「そんな価格設定では会員は集まらない」「閑古鳥が鳴いたらどうするのか」という批判的な声もたくさん聞きました。ただ、実際にスタートすると、約2000人が会員になってくれました。ステレオタイプ的な大阪の見方とは違い、知的消費を求めている人も多数存在したのが現実でした。このプロジェクトを通して、通説、俗論に惑わされてはいけないと痛感しました。
–企業や研究者、大学教授にとっては、どのような参画のメリットがありますか。
野村 マーケットの規模や消費者にとってのニーズを、いち早くダイレクトにつかめる点が挙げられます。また、開発段階で消費者の受け入れの可否を判断する一つの指標となることもメリットです。プロモーションの一環としても有効だと考えています。参画者には短期的な利益を追い求めるのではなく、長期的な戦略として理解をいただいています。ほかにも、他業界や他業種との交流による人材育成も有益です。
商業施設に訪れる変革の波
–オープンからの2年を振り返ってください。
野村 予想以上に女性の利用者が多いということです。主婦や若い女性も、産業や技術に興味を持つ方が増えてきているということを肌で感じています。また、男女問わず知的消費に対する関心は高まっていると思います。
–具体的には、どのような点でそう感じますか。
野村 わかりやすい例は、近畿大学のマグロです。ナレッジキャピタルの「近畿大学水産研究所」は、オープン以来行列が続く繁盛店です。決して安くはない養殖マグロを、行列に並んでまで消費者が食べに来るのはなぜでしょうか。それは、近畿大学が実現困難といわれた養殖マグロの生産に成功した、というストーリーを消費者が求めているからです。これも知的消費の一例といえるでしょう。
–現在、都心部を中心に大型商業施設を新設する動きが加速していることを、どのように見ていますか。
野村 個人的には、「ターミナル」という概念自体、厳しくなってきていると感じています。大量消費の時代が終わりを迎えつつあり、商業施設も大きな変革期に入っています。生産と消費が同時に行われているサービス産業は、時代のニーズによってその形態を変えていかざるを得ません。現在の日本のGDPの70%はサービス産業ですが、サービス産業は一般的に生産性が低いといわれています。今後は、どのように生産性を上げていけるかが課題となっていくでしょう。アイデアや技術を組み込んでサービス産業を変えていき、その中で商業施設はどのような変化をするのか、という点が論点になると思います。