今回のツアーでは、リプウィット社のセミナーに出席した。興味を持ったのは、同社がモロッコ原産のアルガンオイルの主要な供給元であり、なかんずく日本への輸出社としては最大だと説明されたことだ。セミナーでも、日本人来場者のために、日本語の通訳が用意されていた。
保湿効果に定評のあるアルガンオイルは、最近、化粧品やサプリメントに採用されることが多く、ブームになっている感がある。しかし「なぜ、モロッコのオイルをドイツの会社が供給しているのだろうか?」という疑問が生まれる。モロッコなら、旧宗主国であるフランスの会社が権益を握っていそうなものである。同社のピーター・ヘス社長は、以下のように語る。
「知り合いのドイツ人がモロッコ人と婚姻関係にあり、モロッコのビジネスに乗り出しました。アルガンの樹は、モロッコでも特定の地域にしか自生せず、その地方の住民と特別な関係がないと、ビジネスの相手にしてもらえないのです」
また、セミナーでは以下のような話もあった。
「優秀な日本人スタッフがいるので、日本にアルガンオイルを最初に紹介したのは、当社となりました」
「日本向けに輸出している当社のアルガンオイルは、モロッコでも最高の品質で、100%純正を保証している」
一方でアルガンオイルの需要が世界的に高まったことで、混ぜ物が入った低品質製品も出てきている、と警告していた。
グルメ需要もあるアルガンオイル
「ブランド化してきているな」と思って聞いていたら「今年、国際フェアトレード認証ラベルを取得した」と見得を切られ、驚いた。生産にあたる発展途上国を不当に低収益にしない、という国際的なCSR(企業の社会的責任)を果たしていることを条件に、フェアトレード認証が受けられる。取得するのは難しい。
フェアトレードの問題では、ナイキが1990年代後半にベトナムで製造を行っていることで手痛い非難を浴びた。日本でも、海外に製造を委託している会社は、この問題に直面し始めている。これからは、自社が海外に製造委託をしていなくても、輸入した原料や素材を使用しているだけで、フェアトレードの問題を突きつけられる可能性も出てくる。
ヘス社長は、「モロッコのアルガンオイル取扱業者としては、フェアトレードの認証は当社が初めてだ」と説明した。日本におけるアルガンオイルの今後の可能性について尋ねると、以下のような回答が返ってきた。
「日本以外の欧米諸国では、アルガンオイルは化粧品素材としてより、高級調味料や高級食材としての消費のほうが多く、『アルガン・グルメ』と呼ばれています。日本はまだ『アルガン・グルメ』としての消費がまったくない状態なので、今後はこの分野が急速に立ち上がってくるのではないでしょうか。そして、その優れた保湿性により、さまざまな分野に使われていくと思います。その場合、高品質なオイルを安定して供給することに、当社は自信を持っています」
ホワイトアスパラガスを飽食するとともに、堪能した1週間だった。
(文=山田修/経営コンサルタント、MBA経営代表取締役)